理想の...
アカデミー中間考査を明日に控えた今日。授業を終え、帰る準備をしていた俺の前にシンが青ざめた表情で現れた。
一体どうしたというのだろうか、気分でも悪いのかと医務室へ行くよう勧めるも力なく首を横に振るだけでいつもの覇気がない。
(大丈夫だろうか…)
明日の試験に勉強が追い付いていない、というのは考えづらい。なにせ、今回の試験は前回の二の舞にならないよう1週間も前から勉強してたんだ!と豪語していたはずだ。では一体何がこいつをここまで追い詰めているのか。
「シン、どうした?」
「……レイ、俺…」
すると堰を切ったように、うわーん、こんなのってないだろー!と人の目があるにも関わらず、突進するがごとく勢いで抱きつき、胸に顔を埋められる。あまりの勢いに足を踏張るもその甲斐なく二人して倒れてしまった。
「なんだ一体…」
あまりの勢いと、普段仲が良いとはいっても、ヴィーノのようにベタベタと引っ付くようなスキンシップをとらないシンのこの行動に驚きつつ、手をついてゆっくりと半身を起こす。
相変わらず胸に顔を埋めたままのシン。
(いい加減どいてほしい。)
授業は全て終えたため次に遅れるという問題はないが、この教室にいる皆の好奇の視線はあまりいいものではない。
(いや…あまり、どころではないな。)
はぁ、と息を吐いた、と同時にシンがガバリと顔をあげた。
「どうしたんだ。」
再三聞いている疑問をもう一度言うとシンが顔を歪め、
「違うとこ、勉強してた…」
「………」
苦々しく告げられた言葉に声もでない。人もまばらであったため、静かな教室に妙に響いた声。
女子生徒たちの楽しげな会話も止んだ。
(なんてついてない奴なんだ…)
俺もついているとは言い難いがシンは俺以上だと思う。(フリーダムの攻撃が家族に当たってしまったあたり然り。)
初めて自力で頑張ろうとしたらこれだ。なんだか哀れに思える。
「…わかった、協力しよう。」
「えっ、でも…」
ここまでしておきながら変なところで遠慮するシンについ苦笑が漏れる。
「そのために来たんだろ?」
「あー、まぁ、そうなんだけど、」
この前も迷惑かけちゃったし…と言い淀むシン。
…たしかに、前回の進級試験ではシンやルナマリアにノートを貸したおかげで俺まで再試験を受けさせられた。
「…そうだな、…やはり止めようか、」
「わー、そう言うなって!お願いします!」
「最初からそう言えばいいんだ。」
そうと決ればさっさと退け、と言うもなかなか退かない。
「…おい、退け…」
「……やっぱレイっていい奴だよな、」
と俺の声が聞こえていないのか、妙な感心をするシン。
この程度でそこまで感心されるものだろうか。
「このくらい普通だろ」
「いや!普通じゃない!」
レイが女の子だったら惚れてたかも…なんてボソリと呟くものだから困った。
「…俺はたとえ女であってもお前とは付き合わない。」
「えぇ!なんで!?」
(こんなに浮き沈みの激しい奴の相手、疲れる…)
「…勘弁してくれ、」
「勘弁してくれってお前…、なんだよ、何がだめなんだよ!俺、レイのこと大事にするし!」
(趣旨がズレてる。)
俺を大事にしてどうするんだと言おうとしたが面倒になってやめる。
「じゃあレイの理想ってどんな人なんだよ。」
「理想…?」
「うん。」
理想、か。そうだな…と考えを巡らせると浮かんだのは養い親の顔。
「物静かで、明晰で…大人な…、」
いやしかし、若干性格に難あり…かもしれない…
「…要するに俺とは正反対って言いたいのかよ。」
とうなだれるシン。
(そういえばシンは、彼のように…)
「あと…」
「まだあんの!?」
「嘘をつかない人、だな。」
「ふぅん…」
俺レイに嘘ついたことあったかな…結構小さな積み重ねなら…あるかな…と1人ぶつぶつと呟く。
(俺の知るかぎりでは、お前に嘘をつかれたことはないよ。)
「なーに笑ってんだよ!」
「いや、別に。」
真っすぐに向けられるシンの瞳は心地いい。
「だが、シン。」
「な、なんだよ、もしかしてまだなんかあるのかよ…」
(大アリだ。)
「…俺は、」
「う、うん…」
先ほどのむくれた顔から不安気な表情へと変わった彼に笑いは禁じ得ない。
「…俺は、男だ。」
「………ぁ、そっか…」
(もし俺が女だったら、考えてやってもいいかもな。)
あとがき
書いてる時、とても悩んだのがギルのいいところ。
そしてギルは嘘ばっかついてるイメージがあります。
お好み焼きの上にのっけたカツオぶしとか
「ほら、レイ見てごらん。カツオはまだ生きているんだよ」
ってちびなレイに言ってそう。
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