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片恋悲想



―見てしまった。



―見てしまった。愛する従兄上が、あの方にあのような顔を見せるとは…。







―許せなかった。





【片恋悲想】





太陽が丁度真上に来て、ぽかぽかとした暖かい光を降り注いでいた。
だが、それとは反対に馬岱は、暗く陰気な室内に一人、長机に肘をつき、両の手で顔を隠し、座っていた。


馬岱は、思い出していたのだ。
愛する従兄、馬超のことを。





馬岱は、馬超に渡してくれるようにと頼まれた数束の書簡を持って、愛する従兄の姿を探していた。
馬超の室に置いてくればいいところをわざわざ持ってくるのは、馬岱の人柄の善さを物語っている。
それに愛する従兄に何時も早く会いたいから、と言うのも馬岱が馬超を探す、理由の一つでもあった。


ふと、廊下の端に馬超の姿が見えた。


「従兄上…」


馬岱の顔が一瞬にして明るくなる。
愛する従兄の名を呼び、側に駆けて行こうとした。
―が、見てしまったのだ。


長年側に居る私にさえ見せたことが無い、笑顔。
何時もなら、その白く整った顔を崩すことなど無いが、今の馬超は子どものような無邪気な笑顔を見せている。
…それも趙雲殿に。


馬岱が呆然と立ち尽くしていると、趙雲と目が合った。
趙雲は、馬岱が見ていることに気付くと、先ほどのような微笑みとは打って変わって、馬超に気付かれぬように口端を上げてにやりと笑った。
馬岱は目を見開いた。
温厚知実を絵に描いたような人が、今自分の目の前であのように笑っている。


そこまで思い出した馬岱は、悔しさのあまり、唇を強く噛み締めた。
ふと、ある考えが頭を過った。

あの方に取られるくらいなら、私が…私が、壊してしまおう、と。


だが、馬岱はその考えを頭をぶんぶんと振って、否定しようとした。


何を考えているのだ?私は。
従兄上は、物ではない。
それに取られるだなんて…。


だが、愛する従兄のことを考えると全てを否定することは出来なかった。
そして、ある決心をし、馬岱は室を飛び出した。
その頃にはもう、太陽が西に傾き、空が茜色に染まってきていた。





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あきゅろす。
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