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俺の顔から言いたいと思っていたことを汲み取ったのか、はたまた勘か、どちらか分からないがあいつは苦笑しながら言葉を続けた。


「いっつも寝てるふりしてさ。横目で盗み見てたんだ、お前のこと」


お前、横顔美人だよなぁ、なんて言って笑うから熱が集中して、顔が熱くなっていくのが分かる。


「…先生、問題用紙忘れたんで隣とくっつきますよ」


本当は問題用紙を持っているくせに俺の席とくっつく。
わざとらしく悪いね、なんて言って。


なんかイメージと違う。
まぁ、話したことなんかなくて、いつも寝顔しか見てなかったんだけど。
もう少し不良っぽいのかと思っていた。


「…イメージと違う?」


こいつは人の心が読めるのか?と疑問に思うほど、先程から俺の心の中をぴたりと当てる。
…まぁ、俺も顔に出しやすいから。
そんなことあり得ないと苦笑しながら、俺は問題用紙をあいつの机と俺の机の間に置いた。


「人は見かけによらないって習わなかった?」


無言のままの俺に話しかけてきたあいつは不敵な笑みを浮かべながら、俺の手の上に自分の手を重ねた。


「なっ!?」


突如、裏返った大きな声を上げてしまい、先生にどうした?と訊かれた。
戸惑っていたらあいつが、こいつ自分の点数がスッゴク悪くてショック受けてるんスよ、と助け船を出してくれた。
…いや、元はと言えばあいつのせいだから、助け船を出してくれたって言うのは違うだろうな。


くすくすとした笑い声と先生のまったく、と言った呆れ声が教室内に響く。
あいつは苦笑いを浮かべ、自分の席に座り、お前なぁ、と小声で言う。
何なんだよ、悪いのはお前だろ?


「俺、お前に勝つために頑張ったんだぜ。今回のテスト」
「は?何で?」


俺に勝つために頑張った…?何のために?


「俺、お前に勝てるの勉強しかないからさ」


なぜかあいつの瞳が少し曇ったような気がした。


少し寄ってきたあいつに俺は、あいつが埋めた距離の分だけ距離をとった。
また何をされるかわかったものじゃない。


「おいおい、そんな警戒すんなって。何もしねぇよ」


その声に仕方なく、元いた場所に戻る。


とくとくとくとく、高鳴る心臓。
この気持ちの意味がわからなくて、ただただ俯くしか出来なかった。


先程の言葉は何処へやら。
あいつはにやりと笑い、俺の耳元で囁いた。



「…俺、お前のこと、気に入ってんだ」



背筋を何かが駆け上がる。


「……っ!!!」


ガターンと勢い良く椅子が倒れる音が教室内に響いた。
皆の目が先ほどのように俺に集中する。先生がまたお前か、という顔で見ている。


とくとくとくとく、高鳴る心臓。
顔が真っ赤になって、苦しくて苦しくて、ここから逃げ出したくて仕方がなかった。


「…すいません。少し気分が悪いので保健室に行ってきます」


何故だか急に切なくなって、涙目になってきた。
それが見えたのか、先生は大丈夫か?誰か付き添いをつけるか?と心配そうに訊いてきた。
だが、今は一人になりたくて、先生の申し出を断って、教室を出た。
そこから音を出さないように屋上へと駆け出す。


とくとくとくとく、高鳴る心臓。
それは徐々に速くなり、胸を締め付ける。
まるで長く太い蛇が心臓に巻き付いているようだった。


なんなんだよ、あれは!!
俺は男だぞ!?
何で…何で、あんなこと…。


苦しくて辛くて、涙が出た。
どうしようもない想いが心の中で渦巻いて、吐き出せなくて。
屋上に出て、空を見上げた。そこにあるのは、今の自分と正反対な快晴。
雲一つない果てしなく続いて行く空を見上げ、俺は一滴の涙を溢した。



「……あ〜あ、少しいじめすぎたかな……」



くすくすと小さく笑いながら、あいつは俺のいない机を見ていた。






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