[携帯モード] [URL送信]
【天才】


何だ、こいつは?
横目で盗み見る隣のあいつ。
ええと、誰だっけ?人の名前を覚えるのが苦手な俺は、そいつの名前なんて知らない。
話したことさえなかった。


おい、明日からテストだぞ?『ここ出すぞ』とか先生、言ってるし。
なのに…一番前の席で爆睡してんじゃねぇよ。テスト嘗めてんのか。


俺はいつもテストの点数は平均以上。まぁ、自分で言っちゃ何だが、学年では良い方だ。
だが、それは努力があってこそだ。努力しなければ何もできない……そう、俺はそんなやつ。
だから、勉強しないで寝てるやつのことなんてどうだっていい、はず…なのに…。



家に帰って真面目にテスト勉強をしていても考えるのはあいつのこと。
苦手な計算の基本公式が頭に入っていかない。
あいつの寝顔が邪魔をする。
気持ち良さそうな顔。静かに単調なリズムを奏でる寝息。
畜生、何なんだよ!!




【天才】




テスト当日、結局苦手な計算式は頭に入って行かず、気になるのはあいつのこと。
未だ白紙のままの解答用紙を眺め、溜め息を吐く。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、あいつのことが気になって。
でも、横目で見ることはできなくて、休み時間にあいつを見てた。勉強するでもなく、何をするでもなく、ただただ遠くを見ているだけのあいつ。


絶対、テストの点数ヤバいだろうな。


そんな考えをしながら含み笑いをしつつ、テストが返却されるのを待ち遠しく思った。
いつもならテストなんて返ってくるな、と思って止まないのに、今回はあいつのテストの結果が気になった。



しばらくしてテストが返却された。
やはり苦手な計算は、赤点は回避したもののずたぼろな結果だった。
だが、得意な英語は95点という点数。今まで80点ぐらいが普通だったのに、今回は山が当たったらしい。最高の点数だ。


「      」


気がついたらあいつの名前が呼ばれていた。
自分のテストの出来に嬉しくなり、にやけていてあいつの名前を聞いていなかった。
あいつはどうだったんだろう?絶対にヤバい点数だろうな。
そう思い、にやけた顔のまま隣を盗み見る。


見た瞬間、ぎょっとした。数字、英語ともに100点。
何だよ、お前勉強しないで寝てただろ?何でそんな点数取れるんだよ!!
俺はお前が爆睡してる時にちゃんと勉強してたんだぞ?それなのになんでお前に負けなきゃなんねぇんだ。
自分の手に持っていた解答用紙をぐしゃぐしゃになるまで強く握った。


なんだか苛ついてきて、どうしようもなかった。
この気持ちを吐き出そうとも吐き出せる対象さえいない。
授業中いつもいつも寝てばかりいるくせに。


―いつも―?


気づけばいつもあいつを目で追っていた。とくとくと心臓の音が速くなる。
何なんだ?この気持ちは…。


「悔しい?」


あいつがこっちを見た。
いつから気付いてたんだろう?
少し口端を上げて笑うあいつ。整っている顔立ちのせいか、それがとても綺麗に見えて…。
今までのむしゃくしゃしていた気持ちなんて何処へやら。
今はこいつから目が離せない。


「いっつもお前のこと、見てたんだぜ、俺」


気付いてたか?と言うあいつ。
は?いつも見てた?こいつが、俺のことを…?
こいつが俺のことをいつも見てたなんてあり得ない。だって、目が合ったことすらないんだぞ?





あきゅろす。
無料HPエムペ!