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フリリク・6人+1匹の生活




「今日はサラダは適当で良いので鴨とトマトのショートパスタと若鶏のポワレトマトクリームソースとデザートにクレームブリュレつけて下さい。あとスープと手作りパンを何種類か。勿論焼き立てでお願いしますね、シンク」
「コース料理作れって無理に決まってるだろシオン!時間も無いしなんで僕がそんなことやらなくちゃいけないのさ!!」
「嫌ですねぇ、夕飯何が食べたいのか聞いたのはシンクじゃないですか。よろしく頼みますよ、僕らの専属料理人さん?」
「あんたも作れるだろうが!いい加減僕にばっか押し付けるのやめてよね!全員分作るの大変なんだから!」


バンッ!と机を叩いてまで訴えたシンクの言葉に、しかし聞いたシオンはどこ吹く風やら。呑気にソファに座ってサンドイッチを食べてる辺り、碌に受け答えする気は端から無いのだろうとは丸分かりなことだった。
と言うかよくもまあ昼食を取りながら夕食の話が出来るなぁおい!とシンクは嘆きたくもなってくるのだが、まさか言える筈もなく頭を抱えるばかりである。
どんなけ食い意地が張ってるんだとそんなツッコミはありだろうか…。
協力を求めといて何だが、シンクは遠い目をしながらも、そう思わずにはいられなかった。悩み事がどこぞの主婦のようなのは、気のせいだと信じたい。


「シンク、シンク〜!僕オムライス食べたい!オムライスがいい!」
「…オムライス?この前食べたいって言って作ってあげたばっかじゃないか、フローリアン」
「ならハンバーグ!ハンバーグ食べたい!明日!」
「……は?」
「今日は、シオンが言ったの食べたいな!」


キラキラと目を輝かせ、袖を引っ張って言うフローリアンの言葉に、シンクは思わず「なにちゃっかり既にフローリアンを引き込んでんのさシオン…!」とソファで寛ぐ悪の根元(間違ってない)を睨み付けたが、まあ、遅かった。
頗る爽やかないい笑顔を貼り付けたシオンの姿に、これはもう今更どうしようも出来ないだろう。
フローリアンの主張を大人しく聞いていた理由はそこか…!と、シンクは思わず口の端を引き攣らせていたが、けれどここで引いたらダメだと。もう一度あえて机を叩いてから、言った。


「わかった。夕食はシオンの言った通りの作るから、その代わりティータイムのお菓子は、そっちが用意してよね」


こればっかりは譲れないと睨み付けてまで言えば、この時ばかりは嫌そうに顔を歪めたシオンに、シンクは声を上げて笑ったが、撤回はしなかった。
…と言うか、そこまで嫌そうな顔するか?普通。




穏やかな時を刻めるこの場所は、優しいものしかありませんでした。

(誰も僕らを、利用しようとは、しません。)

(誰もあなたを、傷付けません。)







「…たっく、最近シンクは根性ねじ曲がったんじゃないですかね?この僕にお菓子を作れとは、いい度胸してますよ、本当」
『しかし8割はバチカルお取り寄せのケーキセットでも良いとシンクも言っていたではないか、シオン』
「嫌ですねぇ、レイラ。残りの2割の為になんで僕が労力を割かなければならないのですか」
『……』


にっこり、笑ってわざわざ言ってやったと言うのに、隣を歩くレイラ(駄犬)が苦々しく押し黙ったから、失礼な奴ですね、とシオンは二階へと続く階段を上がっていた。
偶々居合わせたイオンなんかもう苦笑いしか出来ていないのだが、シオンはお構い無しとばかりに、その細腕にどんどん本を渡して行く。
小脇に挟んだ本を移動しながら読んではイオンに押し付けるものだから、そろそろ耐えられないと山が震えているのがわかったが、結構な量を一時でも抱えられている現状に内心僅かに焦っていた。
儚げなイオンの細腕に、どこにそんな力があるのだろう。
……体力が劣化しているとそんな話があった気がするのだが、勘違いだろうか。


「何を作るか決まりましたか?シオン」


首を傾げて聞くイオンに、持たせておいて何だが、シオンはらしくないなと自覚はあるものの、若干引いていた。
何故その量の本を持てているのか。
どうせレイラが何かしたとは思っていたが、まさかシオンでもレイラがイオンに全能力値を底上げする響律符まで装備させたとは、気付いていなかった。


「んー…スコーンかサブレぐらいかな?面倒臭いけどシンクがああまで言ったなら、仕方ないし」
「コース料理作るって食材買いに出掛けましたからね…フレスベルグに乗って」
「レイラに頼まずアリエッタのお友達に頼むってところがシンクらしい。余程駄犬の力借りるのが嫌だったみたいですねー。便利能力使われなくなったらただの残飯処理係になるだけだと言うのに、シンクも惨い」


それは言ってるシオンが一番惨いんじゃないですか?とイオンは思ったが、懸命な判断の元に口に出すことだけはしなかった。シオンの棘の有りすぎる言葉はグサグサと的確に心を突き刺さしたらしく、レイラはしゅん、と耳を垂れさせ、割と本格的に落ち込んでいる。
この世界で人と関わって過ごすことになってから、すっかり人間らしい感情を犬の体で表せれるようになった意識集合体に、イオンは困ったように笑いシオンは鼻で笑った。
犬らしさを身に付け過ぎだろう、それじゃあ。


「さて、ラズベリーのスコーンと紅茶のサブレを作ることに決めたことだし、お手伝いさんを起こしに行くとしますか」


パタン、と開いていた本を閉じて小脇に挟みながら、我が道を行くが如くそう言ったシオンの言葉に、イオンはおや?と首を傾げながら二階へ上がった先にある廊下の一角に、乱雑に積まれ散らばった本の山に合わせて腕に抱えていた本を順々に置いた。
棚に戻してもすぐにシオンとフローリアンがぐちゃぐちゃにするこの一角の惨状には、シンクが悲鳴でも上げそうな気がするが、整理整頓と言うことが致命的に欠如している人間が多いから、最近ではシンクも諦めが入っている。
ライガの足跡が付いたりしなければ良いとのことらしいが、それはどうだろうかと、イオンは密かに思っているが、如何せん自分にも整理整頓スキルはなかった。


「お手伝いさんって…アリエッタと一緒に作るんですか?」
「ん?お茶会のお菓子が生肉になっても平気って言うなら、アリエッタと作るけど。紅茶と生肉セットご注文?」
「美味しいスコーンとサブレをご注文です…!」
「冗談だって。イオンもまたシンクと違った意味合いでまともに捉えてくれて僕は楽しいですよ。いい弟達に恵まれたものです」
「僕はともかく、シンクの胃に穴が空きそうな台詞ですね…」
「最終目標は胃潰瘍で強制入院だから」
「最終的に困るのは僕らですよね、それ…!」


何だか聞いたら不味いとしか思えなかったシオンの言葉に、必死に返すあまりなかなか際どいラインでイオンも言いたい放題言っているのだが、シオンはにこやかに笑っただけであっさりと流した。
目的の人物を起こすべく、廊下を進み、扉を開けようとドアノブに手を伸ばす。
きちんとベッドで寝ていてくれたなら良いんだけどな、と思いながらシオンはドアノブを回そうとしたのだ、が。


『ああ、そういえばアリエッタと一緒に外で日向ぼっこすると言って、その部屋には今誰も居ないぞ』


告げたレイラの言葉に、シオンは思わずびきりと額に青筋すら浮かべて振り返ってしまったのだが、イオンはともかく、慣れたのかレイラは項垂れることもしなかった。のが、まずの失敗だった。
ガシッ!と頭を片手で、掴まれる。
いきなりのこと過ぎてレイラは反応出来なかったのだが、意識集合体がそれで良いんですか、とでも言いたげなイオンの視線が生暖かくて、どうしようもなかった。


「そういうことは早く言いなさいポチ。ああ、もう全く、時間の無駄じゃないですか!」


わざとらしくあえて嘆くように言ってみせたシオンは、その直後一切の躊躇い無しに…どこから取り出したのか犬用ジャーキーでレイラの頭をぶっ叩いた挙げ句口の中にねじ込んで、イオンに全て丸投げして駆け出した(行ってらっしゃい、と穏やかに笑んで言ったイオンは、レイラの状態が見えているにも関わらず、常と変わりないのが流石だと思う)。
階段を駆け下りて、玄関で靴を履いてさっさと外へ飛び出す。
小高い丘の上に建つ、見晴らしの良い家は近くにセレニアの花畑があって、彼はそこがお気に入りだった。
駆け寄れば、気付いたアリエッタが振り返って驚いたように目を丸くしたが、シィッと指を立てて、黙っていてもらう。
そより、心地良い風の吹く丘で、朱色の髪をした彼が、気持ち良さそうに横になって眠っているのが見えた。
ちゃっかりアリエッタに膝枕してもらっている辺り、何というべきか悩むが、上から覗き込んで見たその表情があんまりにもあどけないから、別にいいかとも、そう思う。
赤い屋根の大きなお家に、犬を飼って…だのそんなことは当たり前に考えなかったが、全てをほっぽりだしてようやく手に入れたここは、どこまでも優しくて心地良い、僕らの居場所だった。


誰にも、奪われることもない。
穏やかな時の流れる、ここで、僕らは。





「−−−リアン、」




優しく優しく、そう口にした。
当たり前に名前が呼べるこの場所で、ずっと、一緒に。



End


111009
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ひだまりの家


白翠さまよりリクエスト頂きました、もし6人(ルーク、シオン、イオン、シンク、フローリアン、アリエッタ)と一匹(レイラ)が暮らしたら…な話でした。
よくよく考えたらシンク以外まともな生活能力持ってる奴がいないぞ、と…生活に慣れるのが早いかシンクが胃潰瘍になるのが早いかと言えば、シンクが胃潰瘍になる方が早い気がします(苦笑)。

では、白翠さま素敵なリクエストありがとうございました!




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