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TOW3・続編30




〔1〕とりあえず目的地が某メガネの居る部屋だと決まったものの、その前に軽く何か食べないと腹が空き過ぎて気持ち悪くなると言うことで食堂へ向かったのだが、ユウは早速行かなきゃ良かったと後悔した。
山のように運び込まれつつある果物やらバターやら小麦粉にを前に、エステルが満面の笑みを浮かべており、ジーニアスが何とも言えない顔をしている。
きょとんと目を丸くしているルーに気付いたエステリーゼが、駆け寄って来て手を掴んでかっさらって行くのもまあ、早かった。
……憐れみの目を向けるのはやめろ、アッシュ。



「エステル達から聞きました!ルーはパウンドケーキ作れるんです?!」
「え、あ…ま、まあ、一応…」
「凄いです凄いです!あのですね、いまみんなでお茶会に何を出そうって話してたんですけど、私、ルーと一緒に作りたいです!」
「…は?」
「えっとですね、今のところパウンドケーキとアップルパイとピーチパイと、スコーンとフルーツタルトとクッキーを作る予定なんです。みんな明日もクエストで材料取って来て下さるので、頑張っていっぱい作りましょうね!」
「えっ、えっ、ちょっと待てよエステル!」
「エステリーゼです、ルー」
「−−−っ!!」


にっこり、笑んで顔を真っ赤にしたルーの反応を楽しむエステリーゼに、ああ、これは一番逆らったら不味い感じだな、とユウは思ったがとりあえず黙ってルーを後ろから抱きしめることにした。
驚いたルーがもがこうと腕を動かそうとするのだが、その手をエステリーゼが握っている為にどうにも上手くいきやしない。
満面の笑みでいるエステルはルーの説得をエステリーゼに任せきっているらしく、にこにこ笑いながらコレットやクロエ達と話をしていたから、呆れたように見てくるのはちゃっかり合掌しているジーニアスとアッシュぐらいなものだった。
縁起でもないからやめろ、とそんな視線を送ってはみるが、イチャツくなら部屋に帰ってやれ、と主にアッシュから睨まれたよいな気もするので、それ以上は訴えないことにしておく。抜刀騒ぎは流石にもう許されやしないだろう。


「あ、そうです。あとユイ達の為にパフェ作るつもりでした!ユウも好きです?フルーツパフェ」


急に話を振って来たエステリーゼに、ユウはルーの肩口に顔を乗せながら少し考えたものの、あんたなにやってんだよ、と言うジーニアスの視線はスルーして、答えた。


「いや、どっちかって言ったら俺はクレープの方が食いてぇかな」
「あ!いいですね、クレープ!ルーも頑張って一緒に作りましょうね。ユウの為です!ファイトです!」
「−−−っ意味わかんぬぇこと言うんじゃねーよ!エステリーゼ!」
「私は本気です!ルー!私達の世界から来たルークも誘って、みんなで作りましょう!」
「人の話を聞けっつーの!」


いくらルーが喚こうともお構い無しなエステリーゼに、ユウは一度だけ呆れたように溜め息を尽きながらも、その手を離してやってさっさとルーを抱きかかえて先に某メガネの部屋へと向かうことに決めた。
ああ、待って下さいルー…!と言ってるエステリーゼは半分芝居染みているので、こういう時は無視するに限る。
案の定全く気にもしていないようで、エステル達の輪に入って行く姿には苦く笑うばかりだったが、すっかりふてくされたルーを抱きかかえて踵を返した瞬間、目の前に見えた朱色に思わず足を止めてしまった。


「「「あ……。」」」


グラニデのルークと、まさかここで鉢合わせになるとは、思ってもいなかったのだが。








〔2〕顔を合わせてまず何か話をしようとするより先に、凄まじく腹の虫が鳴るとは誰も思っていませんでした。
体内時計でも共有しているのだろうか。Wルークめ。



「なんか悪いな、俺らの分まで運ばせちまって」
「いや、いいよ。ついでだしさ」


そんなに気にすることじゃないよ、と話すルークの手はトレーどころかパニールの作ってくれた軽い食事が4人分乗せられたワゴンを引いていて、ユウはユウでルーを担ぎ上げて隣を歩いているものだから、ぶっちゃけずともなかなか妙な光景に、けれどもう並大抵のことでは動じないのか誰からもツッコミはないまま進んでいた。
俵でも運ぶかのように肩に担ぎ上げているルーとしては堪ったものではないのだが、いくら背中をど突いて訴えようと華麗に無視されるばかりだったので、諦めて大人しく運ばれるままでいてやる。
すれ違い様にゼロスが面白そうにニヤニヤ笑っているのが見えた時には八つ当たりでユウのポニーテールを力任せに引っ張ってやったのだが、仕返しとばかり脇腹をつつかれたので下手なことは出来ないと学ぶしかなかった。
ふてくされているルーに、ユウは内心笑いたくて仕方なかったりするのだが、隣にはルークが歩いているので、それはそれ。
腹筋との戦いであるが、流石に顔に出す気はなかった。



「それにしてもなんで4人分なんだ?運ぶぐらいなら食堂で食べる方が楽だろ」


自分達のことは棚上げして言ったユウの言葉に、担ぎ上げられているルーは呆れたように溜め息を吐いたのだが、間髪入れずに腹を撫で上げられたから、思わず叫びそうになる声をどうにか堪えた。
飄々としたままではいるがそんなルーの様子など見なくてもユウには丸分かりであって、むしろセクハラして楽しんでいる辺り、ディセンダーにでも見付かったら好き勝手に言われるだろう自覚はある。
違う意味でエステルに見られても不味いだろう。やめないが。


「ぁー…これ、ジェイドの分なんだ」
「あのメガネの?」


困ったように顔をしかめて言ったルークの言葉に、ユウはすぐにあのおっさん自身に取りに行かせろよ、と思ってしまってから、気が付いた。
分かってはいないのか、はたまた分かりたくないのか、ルーがどういうことだと身じろいだのがユウは分かったが、こればかりは下ろした方が不味いのだろう。
うやむやになってはいたが、そう言えば、と思い当たる節は確かに、あったのだから。



「ジェイドは、今謹慎処分にしているんだ」



それが一体誰の為の処置か分からない程、そこまで愚かであることは出来なかった。



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こころころころ、転がって・5日目C




セクハラさせるつもりは…なかったんです…。






あきゅろす。
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