[通常モード] [URL送信]
TOW3・続編22




〔1〕全てを手放して、自分が解けてしまう感覚を、知っている。


『世界は滅びなかったのか』

『私の見た未来が少しでも覆されるとは、 驚嘆に、値する』


告げたオレンジ色のあたたかな光に、何よりも恐怖を感じるとは思ってもいなくて、あたたかなと思ったことと怖いと思ったことが同時にあるなんて初めてのことで、ただ呆然とその光を、凪いだ瞳で真っ直ぐに見据えている彼を、視界の中に入れていた。
きょうたん?
意味が分からない。
分かりたくなんかない。
世界は滅びなかった。うん、確かに滅びはしなかったけど、救ったのだと言うのなら、どうして彼はあんなに悲しそうな瞳をしているの。
だって、待って。
彼は何にも選んでいないよ。
死にたくないって言ったのに、みんなしてそれが『償い』だって選ばさせて、生きたいって言ったのに彼が『人間』じゃないからって殺そうとしたのに。


なにがすくわれたの。
せかいがほろびなかったかわりに、なにをころしたの。



「ああああああああ!!!!」


叫んで手を伸ばしても、どんどん彼が消えていく。
『ルーク』が解けていってしまう。
分からない。
分かりたくなんかない。
なにが正しいの。
ナタリアやアッシュとの約束はこういうことなの。
父上が教えてくれた民に尽くせとはこういういみなの。
どんどん解けていく。
おれは怖いのに、『ルーク』は微笑んでる。
なぜ、怖くないの。

『ルーク』が、なくなってしまうのに−−−!!



「アッシュを生き返らせて、ローレライ」


その言葉に、叫びは声にもならず、ただただ涙ばかりが溢れていた。
難しいことは分からない。
今まで一緒にいて、『ルーク』が自分が一番いらない命だって思っていて、だから、自分より他の人を、自分を犠牲にしたって他の人を優先させるのを、知ってるだけ。
ああ、解ける。
どんどん解けていく。
イオンって人みたいに消えていく。
フリングスって人がしんでしまった時もイオンって人がきえてしまった時も、みんなそばにいたのに。

『ルーク』がきえる。
ひとりで、きえてしまう。


「……な、…で」


必死に手をのばしてもとどかない。
あわく、あわく。
体が解けていく。
被験者に、還っていく。



「死なな、い…で」


泣きながら言った瞬間、そこで終わる夢に叫び声は音にならなかった。
暗闇の中、放り出される。
どれだけそうしていたか、涙が涸れるころに知った。
『アッシュ』が『ナタリア』が『ガイ』が『アニス』が『ジェイド』が『ティア』が『ヴァン師匠』が居たら、『ルーク』は殺される。
『ピオニー陛下』が『インゴベルト陛下』が『テオドーロさん』が『ファブレ公爵』が居たら、国の、世界の為に死ねと言われる。
死ぬこと以外は、悪いことになる。
生きていることが、罪になる。


そうして『仲間』に『ルーク』は殺されて、世界は救われるのだ。


刷り込みみたいにそう覚えるしか、なかった。






〔2〕見えた毛先に向かって金に変わる朱色の髪をした彼に、いきなり抱きしめられたから『ルーク』は戸惑うしかなかったのだけれど、あんまりにも必死に掴むから、何か言える筈もなかった。
顔が見えないから表情も何も分からないのだけれど、泣いてはいないとはなんとなくわかって、この場合それでいいのかと疑問に思う。
揃いの白い上着は着ていなくて、ズボンとインナーだけ着てシーツに包まっていたらしいと言うのもそこから疑問だらけなのだけど、なんで?


「……れ、」
「へ?」
「今すぐ、帰れ…今すぐテルカ・リュミレースに帰れ!ルーク!ここに居たらダメだ!ここに居たら、またルークが殺されるんだぞ?!」


声を荒上げて言うその言葉に、驚いたのは何も『ルーク』だけでの話ではなく見守っていたユーリもそうだった。
戸惑いを隠せない『ルーク』がユーリを振り返るが、ユーリとて全くと言っていい程わかっていないからこそ、考え込むしかない。
必死に訴えるルークの言葉に、「また」とそんな言葉が入ったことが、ユーリは嫌な予感がして仕方なかった。
想像力の貧困さに嘆きたくなったが、それを上回る勘の鈍さに『ルーク』が困り果てているのが見えて、何も言えやしないのだが。


「おっ、落ち着けよルーク。そんな殺されるとかって、なんで…」
「ジェイドが居る」


思ったことを素直にそのまま聞いた『ルーク』も、この言葉には咄嗟に何も浮かばず、目を見張って硬直してしまった。
それは同様に、話を聞いていたユーリさえも。


「アニスが、ガイが、ジェイドが、ティアが、アッシュがあいつらがここに居る。また『ああ』なったらあいつら絶対に言う。ナタリアが王を呼んで来て集まってまた言う。絶対に言う。『ルーク』に死ねって、あいつらまた…っ!!」
「……ルーク」
「死なせない。絶対にルークは殺させない。これ以上あいつらの思い通りになんてさせない。ルークを殺させるもんか!被験者だレプリカだって言うならあんなもの人が背負うべきのことだ!何が愚かだ何が傲慢だ!!驕ってるのはあいつらの方だろ!ルークは殺させない…絶対にっ、あいつらなんかに渡すもんか!!」
「…ルーク」
「やだ、離さない。離すとルーク行っちゃう。ルークは騙されてる。あんなの嘘つきばっか。ルークは悪くない。ルークが死ぬ必要なんてない。レプリカに押し付けた被験者なんて汚い。そんな世界、滅んでしまえばいい。滅べオールドラント。あんな世界なんて、いらない。きえちゃえばいいのに!!」


ギュウッと力強く、折れるんじゃないかと思うぐらい力を込めて抱きしめるルークの言葉に、そっと目を伏せた『ルーク』は悲しいな、とまずそう思った。
そうして、嬉しいのだとも。
2つの記憶が折り混ざっていること。
今の感情と7歳の時の感情とが入り乱れていること。
血肉を分けた親兄弟が、引き裂かれまいと縋りついて拒んでいるようだと、そんな印象を受けたのはユーリも同じで、離れようとしないその存在がただ、愛しかった。


「死なないよ、ルーク。また『ああ』なったとしても、俺はもう二度とあんな風に自分を捧げたりなんかしない」
「うそだ。やだ、ルークはそう言って置いてこうとする」
「嘘じゃないよ。だって、ユーリが居るから。ユーリたちが、一緒だから」


言われたその言葉に、翡翠色の瞳が瞬いたのを、ユーリだけが見えた。
正気を失い掛けていた瞳に光が宿る。
多分いま、そこで自分と『ルーク』とを認識出来た。
記憶の中じゃない『ルーク』を、ようやく見つめた。


「どれだけ残された時間が少なくても、たった一つを失うだけで世界が救われるって分かってても、ユーリたちは諦めずに他の方法を探してくれる。探して、助けてくれる。絶対にこの手を離さないって言ってくれた。それが仲間なんだって教えてくれた。死にたくない、助けてって言ったら、当たり前だろって返してくれた」
「……」
「俺は死なないよ、ルーク。ユーリたちと、一緒に生きてるから。みんなが、助けてくれるから」
「−−−っ!!」


穏やかに笑んで告げた『ルーク』の言葉に、耐えきれなくなって泣きじゃくった子どもの瞳に、先ほどまでの怯えも悲しみも、どこにもなかった。
やっぱり俺じゃダメだったか、なんて悔しいし不甲斐ない自分に腹が立っても来るのだが、とにかく席を外そうかとユーリは出入り口へ向かおうとしたのだが、困ったように笑う『ルーク』に、ちょいちょいと手招きされる。
首を傾げつつも近付けば、にっこり笑った『ルーク』がぽんぽん、と幼子のように泣きじゃくってしがみつくその背を撫でて、そして。


「はい、あとはユーリが伝えなきゃ」


敵わないなぁ、と思いながらも、ユーリは縋りつくように伸ばされた手を受け取って、とりあえず抱きしめることにした。
か細い声で「ユーリ」と呼ぶのが聞こえる。


その声が堪らなく愛しくて、仕様がなかった。







〔3〕「ユーリ!」


パタパタパタ、と廊下を駆けて来た朱色に、思いっきり腰目掛けて抱き付かれ、『ユーリ』は思わず壁に突っ込んでしまいそうになったけれどどうにか耐えた。
ほんの少しだけ呆れつつも、振り返ればにっこり嬉しそうに顔を綻ばせる『ルーク』の姿があって、ぽんぽんと頭を撫でてやる。もしかしたら泣いてやしないかと思わないこともなかったが、悲しんでいるようには見えなかったので良しとすることにした。


「おう、お帰り、ルーク。もうあいつとは、話し終わったのか?」
「うん。それでなんか、話してたら俺もユーリに抱きつきたくなった」


それは今まさにあちらの『ユーリ』と『ルーク』が抱きしめ合っていると取っていいのだろうか、と過ぎった思考に側で戸板をもう少しきちんと打ち付けるかと金槌を振っていた『フレン』が凄まじく苦々しい顔をして自分の手を打ち付けていた。
その動揺具合に流石だなと思う反面、まさかどの世界のユーリもショタコンなのだろうか…と呟いていたのはぶん殴ってやりたいと思う。
とんだ入れ知恵をしやがったおっさん込みで。


「ズルいですユーリ!ルークを独り占めしないで下さい!」
「独り占めする気はなかったんだが…指名もらったんだから当然だろ?つーわけで、と」
「ふぇ?」
「だっだっダメですユーリ!抜け駆け禁止ですー!!」


見せつけるようにギュウッと抱きしめ返してやれば、途端に騒ぎ始めた『エステル』を軽くあしらって遊んでいたのが、間違いだったのかもしれない。



「お、俺…?」


呆然と立ち尽くして言ったこちらの世界の『ルーク』と『ガイ』と『ティア』の姿に、今の自分達がどう映っているのか考えたら、流石に血の気が引くような思いもしないこともなかった。



--------------



こころころころ、転がって・4日目C




ルークをユーリとエステルで取り合ってる図ですね。
真っ先にグラニデのアッシュの胃に穴が空きそうな構図です。
既に瀕死なわけですが(苦笑)。






あきゅろす。
無料HPエムペ!