2.止まらない、涙 その日の夜は、眼が溶け出してしまうんじゃないかというくらい、ずっと、ずっと泣き続けていた。 恋とはどんなものかしら ……私を、世間の言葉で分類するのなら、所謂「普通」というものなんだと思う。 容姿は、悪くはないのかもしれないけど、特に綺麗でもないし可愛いくもない。 お父さんは、 「響はお母さんに似てきっと化粧映えするぞ。」 なんて言ってるけど、身内の言うことだ。 どうだか知れない。 勉強やスポーツは好きだし、楽しいから頑張ってはいるけれど、小学校のとき一度担任に過度に期待されて以来、目立つのが嫌で、試験なんかは適度に誤魔化してる。 性格も、どちらかと言えば内気な方だ。 それこそ、初対面の人に自分から話しかけるなんてまず無理!と言えるくらいには……。 だから、今日の自分の言動にはとても驚いた。 自分から、しかも男の子に話しかけるなんて……。 ううん、それよりもっと凄い。 告白までしたのだ、私は……。 「っひっくっ……。うぅっ……。」 だけど、そこまで思い出すと同時に、後悔がまた津波のように押し寄せてくる。 少し収まりを見せていた涙がまたボロボロ(ポロポロ、なんて可愛いらしいものじゃない)と流れ始めた。 握っているバスタオルも、既に湿っぽくなっている。 あぁ、本当に、なんてことをしてしまったんだろう。 しかも、あんな、商店街の真ん中で。 あの人にだって、きっと迷惑をかけてしまった。 昼間の、冷たい笑顔が脳裏を過ぎり、胸がキュッと締め付けられる。 それに……。 「あんな、かお、させるつもり、なかったのに・・・・・・。」 何故だろう。 ただの作り笑いに傷付くはずの心は、彼の綺麗な赤と青のオッドアイの瞳の奥に、哀しみが宿っていたように感じていた。 否。 ……もしかしたらそれは、大嫌いとまで言われてしまったことに、何かしらの理由を求める心が、勝手に記憶をすり替えているだけなのかもしれない。 ……うん。 きっと……そうなんだろう。 ああ、だからきっと、この心に引っ掛かってるもやもやした何かも気のせいだ。 大丈夫。 あの人はきっと、私なんか足元にも及ばないくらいの美少女の彼女がいて、明日からも幸せな笑顔を浮かべているに違いない。 一度くらいその笑顔を見てみたかった気もするけれど、もう二度と会うこともないだろう。 会ったとしてもその頃には、向こうは私のことなど忘れているはずだ。 「・・・・・・うん。大丈夫。私じゃ最初から、憧れで終わってたもん。」 その後も、自分に言い聞かせるように大丈夫、大丈夫と、泣き疲れてかすれた声で言い続けた。 そして……。 哀しみを宿していたかもしれない瞳に見てみぬふりをして、あの人に大嫌いと言われた傷の深さを涙で埋めて、バスタオルとぬいぐるみを抱きしめたまま眠りに就いた。 (明日からまた、「普通」の一日が始められるように……。) [*前へ][次へ#] [戻る] |