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novel.

1.その出会いは、余りにも鮮やかに
見た瞬間……この人だと思った。








恋とはどんなものかしら








衝撃は、ほんの一瞬だった。




「……っ!?」




ほんの一瞬、目が合っただけ。

視線が、交差しただけ。



なのに、








「……っ!!あ、あのっ!!」








次の瞬間には、呼び止めていた。


捕われた。

一瞬目が合った。


それだけで……心の全部を、もう持っていかれていた。






「……?何か?」






立ち止まってくれた!

振り返ってくれた!


たったそれだけのことに、心臓が狂ったように踊り始めたのを感じる。






「あ!あのっ……、えーと……。」

「?」






しまった。

何を言うか全然考えてなかった!




と、とにかく何か話題をっ!!




「えーと、その……っ。」

「?」






吃る私を不審に思ったのだろう、目の前に立つその人は、首をやや右に傾けて眉をひそめてる。




凄い!

そんな顔すらかっこいい!!



……って違うっ!


だから話題だってば!!




「どこかでお会いしたこと、ありましたか?申し訳ないことに、僕としては覚えがないんですが……。」

「あ、いえ違います初対面です!!」




相手からの問いかけに咄嗟に切り返してしまった後、すぐさま後悔した。


曖昧に返事をしていたら、名前とかいろいろ聞き出して、仲良くなれていたかもしれないのに!!




「?では一体……。」




私の返事に余計不信感を募らせたのだろう。

彼は首を傾げた。


言葉はそこで途切れてしまったが、後に続くのが何かなんて考えなくとも明白だった。






『一体何のようですか?』





「あの……わ、たしっ……。」








……ええい、ままよっ!!








「わ、私っ、貴方が好きです!!」










ああ、きっと、顔は真っ赤に違いない!


今にも顔から火でも噴き出してしまいそうなくらいの恥ずかしさに、思わず俯いいてしまう。






「……っ。」

「……。」








……数秒間の沈黙の後、勇気を出して恐る恐る瞼を持ち上げてみる……。



すると、








「……っ!?」








その人は、ポカンと口を開けて固まっていた。


途端、軽く衝撃を受けると同時に、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。






この人の反応は当然だろう。

私だって、彼の立場ならきっと同じことになっていた。




だけど、私ならその後真っ赤になって、お、お友達から! なんて言い兼ねないその状況で、その人はニッコリ笑って一言……。










「僕は、貴女が大嫌いです。」










……それはもう、爽やかなくらいきっぱりと言い切った。






「ぁ……。」








自分でも気づかないうちに、顔が、心が、みるみる凍り付いていく……。










「……っ。ごめん、なさい。」

「いいえ?」










意味不明な私の謝罪に、では、と張り付けた笑みのまま去って行く背中を、私は見えなくなるまで見送った。










……色良い返事をもらえるなんて、もちろん考えていたわけではないけれど……。










瞳からはいつの間にか、透明な筋が幾つも伸びていた……。






(17歳の夏初めて知った恋は、蕾が膨らみもしないうちに、音も無く握り潰された。)

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あきゅろす。
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