小説(R指定なし) 18 正直、自分にはclubは合わないと感じた。 広い筈の箱に犇めく数多の人、人、人。 高品質のスピーカーから発せられる爆音とLEDを駆使した映像とが見事に同期された様は快感だが、いきなり自分の方を向いて身体を擦り寄せてきた女性たちには辟易した。 その度、隼人に笑われ、セクハラ紛いに局所を撫でられた時にはぞっとして固まってしまった。 結局、毎回見かねた隼人に腕を掴まれ逃がしてもらったが、自分で対応出来ない事が情けない。 いや、でも女性積極的で怖いしね。 隼人のお気に入りのパフォーマンスが終わったのか、肩を叩かれ出口を示される。 何か喋っている様だが良く分からず、取り敢えず適当に相槌を打って着いて行った。 人を掻き分け、大分、フロアの端に近づくと、再び耳元で声を掛けられる。 「喉乾いた。何飲む。」 日頃、耳元で声を掛けられる事がないので一瞬驚くも、質問に答えようと口を開く。 だが、突然言われてもclub初心者の自分には何があるか分からない。 「何あるの。」 そう聞くも、声が届いていないようで、眉を寄せてはぁ?と聞き返された。 聴覚が麻痺する程の音を浴びて喜ぶ動物っておそらく人間だけだろうな。そう場違いな事を思い、苦笑が漏れる。 仕方なく、隼人の耳元に口を寄せる。 「ドリンク、何があるか分からない。」 俺の答えに、隼人の癖なのか不適に笑うと、腕を引かれ、バーカウンターへと連れて行かれた。 流石にここまで来ると爆音は遠ざかり、互いの声も一定距離で聞こえる。 カウンター上にあるメニューを示され、目に付いたZIMAを頼む。 この周辺には丸テーブルと椅子が設置されており、取り敢えず空いているテーブルへと向かう。 日頃は避けて通る人混みや、音に合わせて身体を揺らすという戸惑う体験、そして何より女性たちからの猛烈なアピールにかなりヘトヘトになりながら、冷えた瓶を口に運ぶ。 「どうだった…て、なんか苦手そうだな。」 ずばり指摘され、苦笑しながら頷く。 「サウンドシステムとか、流石clubだなって思うけど、あの密着具合は好きになれそうにない。あ、でもさっきのDJは好きだ。なんて言うか、音だけじゃなくて光との一体感が凄かった。」 先程迄のフロアを思い出しながら話す。 ふと隼人を見ると、テーブルに肩肘を付き掌を支えに顎を載せて嬉しそうに笑っていた。 「さっきのSquarepusherって言うんだ。かっこいいよな。」 隼人の言葉に、お目当ては彼だったのかと納得した。 確かにクールだった。 Clubなんて初心者だけど、あの音に揉みくちゃにされる快感は病み付きになりそうだ。 ただ、俺の場合はそれよりも人混みの不快さの方が勝っている。 どんな音楽を聴くか、clubミュージックなら何を知っているか、遠くから聞こえる音楽をBGMに、互いに取り留めもなく話す。 「あぁ…もう4時か。由弥どうする。随分眠そうだけど。」 4時。 現時刻を聞き、眠気の理由が分かった。 アルコールが回っているせいで眠いのだと思っていた。 周囲も随分と閑散としていた。 「う〜。眠いしもう帰ろうかな。」 始発迄はまだ時間がある。 隼人はどうやって帰るか気になり、何となく尋ねる。 「俺、家は神奈川なんだよね。適当にどっかで時間潰すよ。」 神奈川。その言葉に気付けば隼人を家に誘っていた。 「俺の家泊まる?ここからタクシーで30分くらいだと思うし…。」 自分で言いながら、出会って間もない奴を家に泊めようとしている事に驚いた。 女性は姉以外あげた事すらないが、男友達ですらよっぽど親しくないと泊めた事はない。 でも、俺の直感がこいつは大丈夫だと判断したのだろう。 俺の言葉に、隼人も一瞬驚いたように目を開き、そして笑った。 「お前が良いなら頼む。」 その言葉に笑顔で頷き、もちろんと答えた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |