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「お前には私の子供を産んでもらう。」

そいつは、いきなり俺を洞窟のような場所に連れて行くとおもむろにそう言った。
色々と突っ込みどころはあるが、まずはこれだけは伝えておこう。

「無理です。」

その言葉に心底驚いたといった表情をした後、すぐに口を開く。

「何が気に食わぬ。誰もが羨むという私の妃にしてやると言うのだぞ。」
「興味ないです。」
断固たる意思で伝える。

「この私に興味ないだと?」
眉間に縦皺を刻み、そいつは不満気にしている。
確かに、そいつは男の俺から見ても非常に整った顔と均整のとれた身体をしている。
ハッキリ言って男の敵だ。
襟元に付くか付かないかと言った長さの金に輝く髪は無造作に切られ、そこいらの男がしていたら浮浪者呼ばわりしただろうが、こいつがするとどこか野性味が感じられ似合っている。
キリッとした太めの眉の下には海のように濃いサファイヤの瞳が力強く俺を見下ろしている。
そう見下ろしているのだ。
173cmある俺を悠々と上から見下ろされ、確実に190cm以上あることが伺える。
身長もだが、全身にがっちりと筋肉が付き引き締まった身体は確かに女がほっとかないだろう、完璧な容姿を有していた。

しかし、俺は男だ。百歩譲ってオランダやニューヨークなど同性結婚が認められた国や州に行けば伴侶になれない事はない。
俺は同性愛者ではないので、こいつの言った妃という言葉も十分おかしいが、問題はそこではない。

「興味あるないの問題じゃないだろ!お前のコレはなんだ!そしてここはどこなんだー!!!!」

そう思いっきり叫んだのは許してほしい。
今俺はとてつもなく混乱している。
まず、風呂でうとうとしていたはずなのに、なぜか目を開けると岩でできた露天風呂のような所に居た。
そして、目の前のこいつが何か感嘆の言葉を吐いたと思ったら、俺を担いで瞬く間にこの洞窟に連れてこられたのだ。
最後にもう一つ。
先程俺がなんだコレはと叫んだコレ。
こいつの緩くウェーブしながらキラキラ輝く髪から覗く耳が問題だ。
ニョキっと生えている耳が俺とは違い、どう見ても犬科の動物の耳なのだ。
もちろん、ファンタジーのお約束、長くふさふさとした尻尾のオプション付き。

こいつのおかしな発言の前に、様々なことがおかし過ぎてどこから突っ込めばいいかさっぱりだ。

俺の渾身の叫びに一瞬驚いた顔をした後、確実にオスなこいつはニヤリと不適に笑い自分の尻尾に手を伸ばし、俺に顔を向けている。

「これが気になるのか?お前らの種族にはないんだったな。私は半獣半人だからな。もちろん、お前とは身体の造りが違うのだよ。そして、ここはそう言ったものたちが住む世界、【アルカディア】だ。」

ふふん。と鼻で笑い俺の目の前までくると、尻尾を触っていた手を俺の顎に置き、素早く後頭部にも左手を宛てられた。
俺が危機感を覚える前に、そいつは俺の唇に喰い付いてきた。
そう、喰い付いてきたのだ。

キスなんてした事もない俺は後頭部をガッチリと固定され、酸素を求めて口を開けてしまった。鍛え上げられた肉体に大した抵抗もできず、口内を舌で絡め、蹂躙し、貪り尽くされるまで俺はなすがままにされていた。


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