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濃い緑と湿った土の匂いが立ちこめる広大なジャングル。
数百、あるいはそれ以上の年月を経て、なおも生命力強く大地に根付いている大木。
それとは逆にこの春芽吹いたばかりの新緑の若木とが密生し、見渡す限りの翠の世界が続くアルカディア。

その中で、明らかに異質と感じられる天に聳える岩山があった。
そのゴツゴツとした岩肌には申し訳程度に草花が生え、急な傾斜は登る事は用意ではない事が伺えた。
無数の大きな岩で成っている山の中腹には、地面と平行にせり出した岩があった。
そこに遮る物もなく、雲一つない空に浮かぶ灼熱の太陽により、ゆらゆらと陽炎が現れるほどに熱せられていた。
おそらく素足でそこを歩けば足裏は赤くただれ、火傷を負う事は容易に察せられた。
さらに、緑の大地からは窺い知れない物がここにはあった。
その迫り出した岩場の上、岩と岩との結合部には、ぽかりとした空洞があった。
目を細める程の強烈な光源では、おそらく岩の上に辿り着いたとしても、その真っ黒な洞窟には気付かないだろう。

その洞窟の中、光と闇とを隔てたすぐそこに1人の少年がいた。
膝を抱え、足のつま先から僅か数十センチ先の眩しい程の光を、そこから見下ろせる緑の大地を見つめる眼差しはどこか憂いを帯びていた。


オレ、中村 一(なかむら はじめ)。
一ヶ月前にこのアルカディアという異世界に召還されたニホンの男子こーこーせい。
この世界に来てすぐ、俺は俺を召還した獣王様と出会った。
獣王様は、ニホンでは平凡こーこーせーだった俺を妃に選んでくれ、子を産ませるために呼んだんだって言った。
始めは驚いたし、男同士って事にもちろん抵抗もあったけど、今ではそんなもの全くないよ。
なんでかって?
だって獣王様は凄くイイ男なんだ。
真夏の太陽のように強く輝く黄金の髪は、緩くウェーブし無造作に肩に付く辺りで切られている。
そんな所までが計算尽くかのように野性味溢れた男前。
筋の通った高い鼻、そして、この大地の化身のような翠玉の瞳は毎回吸い込まれてしまいそうになる。
その褐色の肌は鍛え抜かれ、惚れ惚れとするほど逞しい。
もう見つめられただけで下半身がキュンってしちゃう!
そう、獣王様は誰もが見惚れるほどの男前。惚れないわけがないよね。
だから、オレは一瞬で恋に落ちてしまったんだ。イヤン!
そして、獣王様も俺に一目惚れしたてくれたんだって。テヘッ。
そう、俺たちは相思相愛。今、もうすっごくラブラブ。マジリア充!
もちろん、愛し合ってる俺たちは子作り中で、オレを一時も離してくれない獣王様が、毎日ドロドロに溺愛してくれるわけ。キャッ!

……………

「キャっじゃねーよ!なに勝手に話作ってんだガルデ!っつーか何だよこのキャラ。途中から完全に崩れてんじゃねーかっ!」

俺は勢い良く後ろを振り返ると、ニヤニヤと紫紺の瞳を弧状に細めている女を睨んだ。
この世話係兼、見張り役の獣人は忌々しいアイツと同じ褐色の肌に金髪。
俺は渾身の睨みを効かせて噛み付いた。

しかし、この女は全く堪えておらず、頬に手を当てシナを作りながら話しだした。

「えぇ〜。だってやってる事は事実じゃない。召還されたのだって〜、獣王様が男前なのだって〜、毎日絶賛中出しちゅ…」
全てを言わせまいと、俺は連日の犯されっぷりに悲鳴をあげる腰を無視し、ガルデの前へと勢いよく向かうと、自分より高い位置にある口を手で塞いだ。

「ガルデぇぇぇえええ!」

ひくひくと震える己の口元、眉間に青筋を立てて睨んでいるというのに、やはりガルデには全く効いていない。
だってそうでしょ。と、目元だけで笑みを返されて俺はげんなりとした。
すっかりと肩を落とした俺は、とぼとぼと強い日差しが入り込まない洞窟の入り口ギリギリに戻り、膝を抱えて座ると、はぁ。と大きな溜め息をひとつ漏らした。


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