「おはよう笠松主将」 「恥ずかしいからそう言う呼び方はヤメロ」 あー…朝から胃もたれ剤みたいな奴がきやがった。 「じゃあ何?笠松きゅん?笠松たん?」 「俺そろそろ普通の男の子に戻って良いか?」 「やだ笠松にゃん、自分を普通以外の何だと思ってるんですか?」 「そうですよ笠松さん、俺に比べたら笠松さんの非日常なんてまだまだ甘ーいおちゃのこさいさいっスよ!だから元気を出して!」 「お前ってすごいやつだったんだな」 「え?えへへ」 野郎が頬を赤らめるな気持ち悪い、と言ってしまいたいところだが生憎コイツは顔の作りが良い。これくらいで気持ち悪い等と言えないくらいには。 …………コイツ等は俺の後輩とその一味だ。堂々と3年の教室内に潜り込んでしまっているのはもう既に日課だから諦めるとして。どうしてこう俺の周りには面白おかしすぎてそろそろご迷惑な奴しかいないんだろうと何度頭を抱えただろう。 「そうよ海常高校バスケ部主将の笠松幸男さま。海常高校バスケ部生意気平部員の黄瀬くんは1コマ目で顔を殴られた筈なのに次のコマでは既に完治してしまっているスーパーゲテモノなのですよ」 「確かに黄瀬はアブノーマルでゲテモノだがしかしそのフルネームを述べるような口調で俺の役職を吐き散らすな!」 「あれ、『全国屈指の大型ツンデレツッコミ』が入ってなかったかしら」 「………」 言葉自体には敢えて突っ込まないが語呂が良くないな。3点満点で1・5点くらいの出来だ。 「あっそうスよハルカっち!それ無かったら笠松さん只のバスケ部主将っス!」 「只のバスケ部主将じゃいけないのか…?」 「そうよね黄瀬くん!私ったら人としてどうかしていたわ!」 「コイツ自分で自分の存在を否定しやがった!!」 「ハルカっち!」 「黄瀬くん!」 ひしいっと互いを抱きしめる後輩達。なんなんだコイツ等朝から何をしに来たんだ。 「はいはい夫婦円満おめでとー!」 仕方ないのでわざとらしく手を叩いて誉めてやった。 「って何アナタ勝手に名前で呼んでいるの!」 「だうっ!」 えー―――!? 俺はてっきりと言うかまるっきり付き合っているものだと思っていたのに。あれ?違うのか? ばっちり手形を残した後輩のモデル顔は、どこか間抜けだった。 て言うか、大間抜けだった。 あと、己等の行いではなく、呼び方と言う低面積な領地を攻めたところが、如何にもゲテモノだ。 「ところで先輩?」 「なんだよ」 「あ、先輩は名前で呼んでくださって構いませんよ」 「あ、いや、……」 人の彼女をそんな親しく呼んで平気でいられるような強靭極まりない神経を俺は持ち合わせていないから。 「良いから呼べよコラ」 「はい、呼ばせていただきます」 最近の1年は恐ろしいな。俺が素直に言いのけるのだから、凄く。 「ところで笠松先輩?」 「はい、何でしょうかハルカさん」 良くできました的な笑みと、イマイチ物足りないような表情が共存した。美島ハルカの顔に。 「先程からいたたまれないような、納得いかないような顔をされていますが」 「そりゃあ朝っぱらから自分について語らわれたら誰だってそんな顔もするよ」 と言うか自分について話されて自信満々勇気りんりんにふんぞり返っている奴なんて嫌だろっつか居ないだろ。 「かと言って噂のようにある事無い事べらべら言っている訳では無いんですから。すべて事実ですから。」 ご謙遜しなくて宜しいのです。 と馬鹿丁寧にハルカは言った。 別に謙遜してねえ。そんな事実嫌だ。 「魅力を感じているからこそ、です」 「へー」 そうか、お前等はツンドラだか何だかと言う4文字のつく変則的な性質の奴を好くのか。さて、誰の事を言っているのだろう。 「つまり私は、全国屈指の大型ツンデレキャプテン笠松幸男先輩を、大好きだと言う事ですね」 「………は?」 「わかってもらえました?あ、人間としてか異性としてかと言うなら両方ですが」 でも、ここでそう打ち明けるのは不粋かしらなんたらかんたらと首をかしげる目の前の後輩を、俺は大層間抜けな顔で見ているのだろう。だがしかし、此処でノーリアクションは酷である。 「…聞いてます?」 「え!?あ、ああ……」 キーンコーン… 此処で鳴るのかチャイム。 「あー、鳴っちゃいましたね」 恐ろしい俺の後輩は、残念とか言いながら物足りないように口を尖らせた。 「あ、今日一緒にお昼食べませんか?」 そして、 「幸男先輩」 少し頬を赤らめながら、 照れるように笑った。 これが青春って奴ですか? 思わず跳び跳ねたくなるような、この想いはなんですか? ―――――――――― コンクリートジャンゴーで生き残るための最後の呪文です 『これが青春って奴ですか?』 嘘ですが← . まえつぎ |