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王子は姫を守るもの
5
「普通にやってもつまらないから、負けた方が勝った方の言うこときくって罰ゲーム付きにしようぜ」
「え……!」
「お、いいね!」
「それの方がやる気出るよな」

黒羽の意見を聞く素振りも見せず三人で盛り上がり、勝手極まるルールが追加された。
ゲームの持ち主であり常勝の杉浦と、初めてこのゲームをする黒羽。
結果は火を見るより明らかだ。

「いぇ〜い! 俺の勝ち〜!」

杉浦が隣の賀川にハイタッチする。

「圧勝じゃん!」
「つーか、秒殺! 薫、めっちゃ弱ぇ!」

山吉が腹を抱えて笑った。
黒羽はあまりに理不尽な結果に、コントローラーを握りしめた。

「それじゃあ罰ゲームの道具持ってくるからちょっと待ってて」

にやりと口の端を歪めてそう言い置くと、杉浦は部屋から出ていった。
そして数分後再び戻ってきた彼の腕の中には、淡いピンク色の子供用のドレスがあった。
嫌な予感が胸をよぎった。

「これさ、姉ちゃんが小学生の時に買ってもらったお姫様セットのドレスなんだ」

杉浦には五つ上の中学生の姉がいる。
彼女は杉浦と似たつり目が特徴的で、その瞳には彼と同じで人を見下す傲慢さを宿していた。
一度杉浦の家ですれ違ったことがあるが、身なりの汚い黒羽を見て彼女は露骨に眉をしかめた。

「それで罰ゲームなんだけど、これを着てカオリンの歌に合わせて踊るって言うのはどう?」

にやにやと笑いながら、杉浦が同意を促す。
もちろん黒羽にではなく、賀川たちにだ。

「いいなそれ! マジウケる!」
「杉浦マジ天才じゃん!」

賀川たちがリーダーの杉浦の提案に反対するわけなく、彼らは大げさに手を叩きながら賛同した。

「え、で、でも僕なんかが着ても似合わないよ……」

盛り上がる三人に、黒羽は控えめに異を唱えた。
本気の拒否に見えないよう、曖昧に口の端で笑いながら。

「バカだなぁ、それがおもしろいんじゃん」
「そうそう、ゲテモノのお前が可愛いカオリンの真似するのがおもしろいんだよ」
「あ〜、でも俺カオリンのファンだから、あまりカオリンを汚すなよ」
「確かに!」

あはは! と三人の笑いが室内に渦巻いた。
この空気を壊すことは決して許さないという威圧的な笑いだ。

「う、うん、じゃあ着替えてくるね……」

場の笑いに圧され、黒羽も同調して笑おうとするが口の端があらがうように捩れた。
しかし、杉浦たちがそれを咎めることはなかった。
むしろそのみんなと混じれない無様な笑みをあざ笑い楽しんでいる節があった。
彼らが黒羽に求めているのは、同調できる友人ではなく、滑稽な道化なのだ。

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あきゅろす。
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