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王子は姫を守るもの
20

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がんばろうと言ったものの、やはり素人ではゲームに慣れている杉浦たちに勝てるはずがなかった。
結果は惨敗だった。

「イェーイ!」
「楽勝!」

杉浦たちがハイタッチする横で、黒羽は俯いて重いため息を吐いた。

「ご、ごめんね。僕がへただから……」

自分のせいだとしゅんとなる蒼汰に、黒羽は慌てて手を横に振った。

「だ、大丈夫だよ! それに僕もへたなんだ。家にゲームなくて……」
「あ、僕も。お母さんに目が悪くなるからって買ってもらえないんだ。あはは、一緒だね」
「ふふ、ほんと一緒だね」

嬉しいことではないのに、一緒という言葉にこそばゆい親近感を笑いが零れた。
しかしその笑いを凍てつかせるように、冷たい声が二人の間に降りてきた。

「おい、お前らじゃんけんしろ」

杉浦が二人の間に立ち高圧的に言ってきた。
表情も声もあからさまに不機嫌だった。
黒羽たちはその不機嫌さに気圧され言われるがままじゃんけんをした。

じゃんけんは黒羽の勝ちだった。

「よし、じゃあ蒼汰が罰ゲームでこれ着ろよな」

そう言うとクローゼットから以前黒羽が着せられたおもちゃのドレスを取り出し、蒼汰の前に放り出した。
蒼汰は唖然としてドレスと杉浦の顔を交互に見遣った。

「あはは、杉浦好きだなその罰ゲーム」
「でも薫はともかく蒼汰は似合わねぇだろう」

可憐なドレスと蒼汰を見て、賀川たちは苦笑した。

「だから面白いんだよ」

杉浦がにやりと口の端を上げた。

「あ。あとこれはチームの連帯責任だから、着替えさせるのは薫がしろよ」
「え……!」

とんでもない命令に黒羽は目を剥いた。
そんな黒羽を杉浦は鼻で笑った。

「当然だろう? これは罰ゲームなんだから」

いや、これは罰ゲームなんかじゃない。
黒羽は瞬時に杉浦の意図を察した。
これは黒羽を試しているのだ。
杉浦たちを裏切って蒼汰を庇うのかどうかを。
もしくは仲良くなりつつある二人を引き裂こうとしているか。
どちらにせよ、最悪な展開だ。

「ほらほら、さっさと着替えさせろよ」

杉浦は黒羽たちをベッドに押しやって、ドレスを黒羽の方に放った。
そして勉強机の椅子をベッドの前に持ってきてそこにドカッと座った。
じっと黒羽たちを見るその目は、どんなズルも見逃さないとするような鋭いものだった。
蒼汰の方を見ると怯えた顔を黒羽に向けてきた。
まるで助けを求めるような顔で、黒羽は固まった。
杉浦たちのいじめに荷担して蒼汰を傷つけたくない。
でも命令を拒んだら今度はいじめの標的がまた自分に戻ってしまうかもしれない……。
蒼汰を守りたい気持ちといじめの恐怖がせめぎ合って、どうしていいか分からなかった。

「あ、あの、僕、自分できれるから……」

動けずにいる黒羽を察したのか、蒼汰がドレスを黒羽からとろうとした。
しかし、

「は? さっき言ったの聞こえなかったのか? これの罰ゲームはチームの連帯責任なんだから薫が着せないと意味ないだろ」

冷たく睨まれ、蒼汰はドレスに伸ばした手を引っ込めた。
そして逡巡の間を置いて、今度は黒羽の服の端を引っ張った。

「……ば、罰ゲームだから仕方ないよね。は、はやく終わらせよう」

緊張の張り詰めた顔に無理矢理笑顔を貼り付けるようにして笑って蒼汰が言った。
泣き出しそうな顔にも関わらず、そこには杉浦と蒼汰の間に挟まれて身動きのできない黒羽を気遣う優しさと気丈さがしっかりとあった。
蒼汰が黒羽の手を引いて、自分のシャツのボタンへと持って行った。
蒼汰の手は震えていた。
その弱々しくけれど勇敢な震えに、罪悪感で押しつぶされそうになりながら、黒羽は意を決してボタンをゆっくりと外した。

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