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勘違いは正せない
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「あ!」

久しぶりにゼミ室に行くと、珍しい人物が出迎えてくれた。

「お、久しぶりだな」

ゼミ室の中心にあるテーブルに座って本を読んでいた芹沢さんが、僕に気付くと鷹揚に手を上げてくれた。
院生の芹沢さんとは、ゼミの先生が一緒なので時々こうしてゼミ室で会うのだが、彼とは話が合うので僕は密かにそれが楽しみだった。

「お久しぶりです、芹沢さん」

僕は頭を下げてから、彼の横に座った。

「あ、その本、面白いですよね。最近、先生がゼミ室に入荷してくれたんですよ」
「やっぱり最近入った本か。見掛けない本だなと思って。題名見た時に樫原も絶対読んでいると思った」

落ち着きある笑みでそう言われ嬉しくなった。
やっぱり彼とは趣味が合う。
だから話していて面白い。
精悍な顔立ちで女の子にモテそうだが、真面目で寡黙すぎるために実際はあまりモテないそうだ。
だが同性としてはそこがまた好ましい。
また正義感が強く、ひったくりを捕まえたりだとか、道で倒れたおばあさんを病院までおぶって運んだりだとか、カツアゲを止めたりだとか、そんな漫画みたいな逸話を多く持っている。
しかも本人は「そのくらい普通だろう」と言ってその逸話をやってのけているのだから、本当に面白い人だと思う。
気が合う上にそんな人柄だから、僕の中では彼に対して好感と尊敬しかないわけで、彼とこうして時々会えると自然頬が緩んでしまう。

しばらく最近買った本などについて話していると、ゼミ室に好感と尊敬とは真逆に位置する藤堂がやって来た。
せっかくの楽しい時間に最悪な奴が来てしまったと内心、顔を顰める。
藤堂の方も、僕たちの姿を認めるとあからさまに眉を顰めた。
そして挨拶をすることもなく、ゼミ室の窓側に並ぶパソコンの席に、ドカッと腰を降ろした。
不機嫌なのは明らかで、パソコンのキーボードを打つ音や、椅子から立ち上がる音、全ての動作がわざとらしいほど荒く全ての物音にその苛立ちを滾らせていた。
それは耳障りだったが、この男のために出ていくのも癪で、そのまま芹沢さんと話し続けていると、突然、藤堂がこちらを振り返って大きな溜め息を吐いた。

「あのさ、ここゼミ室なんだけど。普通、勉強する部屋だろ。おしゃべりする部屋じゃないから。俺、ゼミの課題してるからすごく邪魔なんだけど」

藤堂が言ったとは思えないほど常識的で正論だった。
相手が藤堂でなければ素直に謝れたが、非常識の塊である彼に指摘されるとこちらが悪いとは言え謝る気になれない。
そもそも、藤堂の方こそ友達をゼミ室に連れて大声で下品な話をしているくせに、人のことを言えた立場じゃないだろう。
むっと口を結んでいる僕とは違い、芹沢さんは大人で「すまない、部屋を変える」と一言謝った。
大人の対応だなとまた尊敬の念を募らせながら僕は芹沢さんとゼミ室を後にした。

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