勘違いは正せない
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『彼氏が浮気しているかも……』
語尾に悲しげな顔文字をつけた、美紀のSNSの投稿に僕は心臓が飛び跳ねた。
彼女とは今日会ってきたばかりだ。
どうしよう、自分の言葉は何か不自然だっただろうか、と部屋をぐるぐる歩き回りながら今日の自分を振り返る。
いやどこにも不自然さはなかったはずだ。
確かに昨晩、藤堂とはまた寝た。
おかげで首元にキスマースを残され、それを隠すために今日はあまり好きではないタートルネックを着るはめになった。
けれどそのおかげでキスマークはしっかり隠れていた。
それに彼女と会っている時は彼女のことしか考えないのだから、彼女を不安にさせる言動をするはずがない。
そもそも僕には藤堂との関係について愛もないので、罪悪感もない。
普通の浮気なら、後ろめたさが無意識に滲み出て相手にばれるのだろうが、僕にはその心配はない。
それにしても美紀は意外と僕のことをしっかり見ているのだなぁ改めて感心していると、インターフォンが鳴った。
友達の少ない僕の家に訪ねてくるのは、大体、宅急便かあの男だ。
僕は玄関を開けた。
「寒いんだからさっさと出ろよ」
眉根を寄せて不遜に言い放つ藤堂がそこに立っていた。
「なんか温かい飲み物を淹れてくれ」
外の冷たい冷気と共にずかずかと中に入って来た藤堂に僕は溜め息を吐く。
「悪いけど今出せるあたたかいものは紅茶くらいしかない」
「はぁ? 普通、コーヒーとか常備しとくだろ。つーか、俺がコーヒー好きなの知ってるんだから常備しておけよ」
使えないな、とでも言いたげに露骨に眉を顰める藤堂にいらつきはするものの、もう慣れた。
「急に来るからだろう。いつも言うけど来る前に連絡をしてくれ」
こっちだっていつも暇ではないし、彼女と会っている時だってあるのだ。
というか、来訪前の連絡は常識ではないだろうかと思ったが、この男に常識を説いても無駄なことだ。
「仕方ないだろ、急に会ってやろうかって気持ちになるんだから。今日だって本当は彼女と約束があったのにお前に会ってやってるんだから感謝しろよ」
なぜ彼の気まぐれに感謝しなければならないのか、もっと彼女さんを大事にしてやれよとか、約束は守れよとか言いたいことはたくさんあるが、どうせ何一つ彼の頭には届かない。
だからそれらの言葉を溜め息に込めて吐き出すことで終わらせるようにしている。
この男と関係を持ち始めて身につけた自分なりのスルースキルだ。
「まぁこの際飲み物はいいからさ、さっさとヤッて体を温めてくれよ」
藤堂は意地悪く笑って僕を廊下の床に押し倒した。
服越しでも床の冷たさが背中に染み入ってきた。
「ここは寒い。せめて居間に行こう。それに玄関の近くじゃ万が一声が漏れたら……」
ちらりと頭上の玄関へ顔を向けるが、すぐに藤堂の手で彼の方へ向き直されてしまった。
「いいじゃん、そういうのも。というか、お前が声出さなければいい話だし」
それができないのを知っていながらにやにやと笑う目の前の男が憎らしい。
本当に性格が悪い男だ。
外見については褒める箇所はいくらでもあるのに、中身についてはひとつも見つからない。
あまりお近づきになりたくない類の人間だ。
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