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同人誌『殺し屋のはじめての殺意』のお知らせ【通販あり】
番外編@『殺し屋は浮つく心を許さない』
 
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『好きなタイプは?』
 プロフィールカードの何気ない質問に、どきりと心臓が小さく跳ねた。その質問がなぜか加賀井を思い起こさせたからだ。
 思わず顔を上げ、辺りを見回すが、木調で統一された小洒落た店内に加賀井の姿はなかった。
 加賀井に黙ってきたからいなくて当然なのだが、ほっと胸を撫で下ろす。
 白月は小さなバーで開催されている街コンに参加していた。もちろん恋人を探すつもりは毛頭ない。加賀井の嫉妬深さを考えれば、こんな場所には一秒だっていたくない。それでも加賀井に黙ってまで参加しているのは理由がある。
 それは、一昨日のことだった。

「頼む! 街コンに参加してくれないか?」
 電話の向こうの必死な表情が容易に想像できる声は、以前勤めていた会社の元上司、河口宏典(かわぐちひろのり)のものだった。
 河口は入社した当初からよく白月の面倒を見てくれた。明るく、優しく、仕事もでき、まさに理想の上司だった。入社してまだ間もない頃、大きなミスをした白月を責めることなくフォローしてくれたのも彼だった。
 友人らとバーを立ち上げるため、一昨年に退職したのだが、河口が退職してからも、相談したり愚痴ったりするために、彼の経営するバーにちょくちょく顔を出しており、未だに交流は続いていた。
「実はさ、俺のところが主催でやる街コンが明後日あるんだけど、急にキャンセルが三人も出てさ。さすがに三人足りないのはまずいんだよ。それで今、急遽参加してくれる人を探してるんだけどなかなかいなくて……」
 なかなか参加者が見つからないのだろう。事情を説明する河口の声は疲れ切っていて、いつもの明るさがない。
 お世話になった河口さんの頼みなら喜んで、と言いたいところだが、脳裏をよぎる加賀井の影が、口を噤ませた。
 白月が他者と交流するのをあまり快く思わない嫉妬深い恋人が、街コンなどという出会いの場へ赴くことを許すはずがなかった。事情を話したところで絶対首を縦に振らないことは目に見えている。
 しかし困っている河口の頼みを無碍に断るのも躊躇われ、返事に困っていると、
「もちろん参加費はいらない。好きなだけ飲んで食ってくれ。あともしあれなら瑠璃ちゃんには俺から話しておくから」
 畳み掛けるように言う河口の言葉に、心臓がどきりと跳ね上がった。
 河口には瑠璃と付き合った当初、バーに連れて行き紹介したのだが、その後のことは話していなかった。女に騙されて借金を背負わされ、その上会社をクビになったなど、情けなくて言えるはずがない。
「あ、いや、瑠璃のことは気にしなくて大丈夫です」
 咄嗟に嘘を吐いたが、情けなさにより拍車をかけるだけで、胸が重くなった。
「じゃあよかった。でももし瑠璃ちゃんとそのことでケンカになったら俺が土下座して謝りに行くから」
「ははは……、どうもありがとうございます」
 少し明るくなった河口の声に、ますます断りづらくなった。
 どうすべきか迷ったが、世話になった河口の頼みはやはり断れないという恩義の情と、瑠璃のことを隠している後ろめたさ、そしてたった数時間くらいのことなら加賀井にバレることはないだろうという楽観的な考えから、ついに白月は頷いたのだった。

 ****

 金曜の夜、いつもなら仕事帰りを装って、加賀井の家に行くのだが、今日は「取引先との飲み会」と言って街コン会場に来ている。
 特に怪しんだ様子もなく「大変だな」とこちらを気遣う加賀井に、上手く騙せてほっとすると同時に、少しだけ後ろめたさを覚えた。
 その後ろめたさが亡霊のように消えず脳裏にいるためだろう、ちょっとしたことで加賀井のことを思い出し、その度に思わず辺りを見回してしまう。
 街コン開始十分前とあり、席もだいぶ埋まって来ていた。受付でもらったプロフィールカードに記入しているためほとんどの人が下を向いている。白月の前に座る女性もそうだった。
 初対面の人間との会話があまり得意でない白月にとって、それは有り難いことだった。
 バーには何度か来ているが、今日は街コン仕様なのか、少しテーブルの配置が違っていた。窓側の席に女性が座り、テーブルを挟んだその向かいに男性が座る形だが、普段よりも二人席を多く要するため、違う場所から持って来たのだろう種類のテーブルが混じっている。隣は正方形のテーブルなのに、こちらは丸テーブルで、それぞれのテーブルの間に微妙な間ができていた。
 その頓着のなさから、河口の大雑把さを思い出して苦笑していると、カツン、と靴先に何かが当たった。
 テーブルの下を見ると、床にボールペンが落ちていた。
「あ、すみません……」
 自分の前に座る女性が焦ってテーブルの下に手を伸ばすが、ペンは白月側に転がっている上、窓辺側の席はテーブルとの距離が少し狭く、余計取りにくそうだった。
「どうぞ」
 白月が取って渡すと、女性は小さな声で「すみません……」と言って受け取った。その手は少し震えていて、緊張していることがよく分かった。小柄で大人しそうな黒髪の女性で、不安と緊張が漂う目元は少女のようなあどけなさがあった。
「狭くないですか? もう少しテーブルをこっちに寄せましょうか」
「あ、いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
 素直さを感じさせる柔らかな笑みを浮かべて頭を下げる彼女に心が和む。河口に頼まれたこととはいえやはりこういった場は苦手な白月にとって、近くの席に座る人間の人柄は重要だ。彼女ならば、安心して話せそうな気がした。
 再びプロフィールカードへ記入し始めた彼女に、そういえば自分もまだ途中であることを思い出し、カードに向き合う。
『好きなタイプは?』との設問に、何となく前に座る女性のことが気になって「物静かな人」と書きそうになったが、加賀井に訊かれた時とまんま同じ答えになっていることに気づいた。つきまとう加賀井の影が鬱陶しくなってきて、それを振り払うように「嫉妬深くない人」と力強く書き殴った。

 主催者である河口が司会を務め、簡単に注意事項や今日の流れを一通り説明すると、まずは十分ごとに男が席を移動して全員と話すという、いわゆる回転寿司型トークに入った。
 ぎこちなく互いに笑みを交わして、カードを交換する。
 紺野(こんの)いちか、二十六歳、事務員、趣味は読書、好きなタイプは優しい人……ひとまずざっと目を通していると、目の前で同じくカードを読んでいる彼女がくすりと笑った。
「なんか変なこと書いてました?」
 少し焦って訊くと彼女は慌てて首を振った。
「すみません、笑ってしまって。全然変なことは書いてないんですけど、好きなタイプが嫉妬深くない人ってあって、きっと前に付き合った人がよっぽど嫉妬深くて苦労したんだろうなぁと思って」
「はは……、まぁ、そんな感じです」
 まさか今もその嫉妬深い恋人に現在進行形で悩まされているとは言えず、笑いが引き攣る。
「気を悪くされたらすみません。でも私も前に付き合っていた人が嫉妬深くて大変だったんです。だからなんか親近感が湧いて」
 影のある苦笑を零す彼女に、白月の方も親近感を覚えた。
「きっと紺野さんが可愛いから心配だったんでしょうね」
「そんなんじゃないですっ。私、全然モテないのに、会社の男の人と飲みに行っただけですごく怒って。しかも二人きりじゃないのに」
 当時の理不尽さを思い出してか、彼女は頬を膨らませた。
「あー……、でも分かります。俺も全然モテないのに、普通に話すだけでも勝手に勘違いしてヤキモチ焼いて……」
「分かります分かります! それで全然私も向こうもそんなつもりはないよって話しても全然聞き入れないし」
「そうそう、思い込みが強くて、向こうが絶対俺を狙ってるみたいなありえないことを断言するんですよね」
「わー! 分かる分かる! 分かりすぎます!」
 興奮気味に声を大きくしたいちかに両テーブルから反射的に視線が向けられ、彼女はハッとしたように身をすぼめた。
「す、すみません、声が大きくなっちゃって」
 恥ずかしそうに声を小さくして彼女が謝った。
「いやいや、全然気にしないでください。むしろ分かってくれる人がいて嬉しいというか」
 事情が事情なので加賀井への不満を誰にも話せずにいたので、こうして共感して話し合えるのは素直に嬉しかった。
「私もです。友達に愚痴っても、彼がイケメンだったこともあって惚気としか思われなくて……」
「吐き出せないのって辛いですよね」
「そうなんです。でもまさか街コンで元彼の愚痴を言えるなんて思ってもいませんでした」
「俺もです」
 最初の緊張など吹き飛んでしまったように楽しそうに笑う彼女につられて白月も笑った。
「あ、街コンらしいことも話さないとですね。えっと、趣味のところ読書って書いてますけど、どんな本を読むんですか?」
「小説と漫画をよく読みます」
「あ、俺もです。紺野さんは漫画はどんなの読むんですか」
「少女漫画から少年漫画までなんでも読みますよ。でも一番好きな漫画は『ババコン』っていう昔のギャグ漫画なんですけど……」
「え! 俺も! 小学生の頃から『ババコン』ファン!」
 思わぬ同志発見に嬉しくなってついタメ口になったが、彼女は全く気にしておらず「うそ!」と口元を両手で覆って興奮気味に目を輝かせていた。
「うわぁ、すごく嬉しいです! なかなかこの漫画知ってる人自体が少なくて……」
「分かる分かる。本当にだからこそ同志に出会えた時の喜びは格別ですよね」
「分かります」
 しみじみとお互いに頷き合っていると、
「はーい! それでは十分経過したので席替えですー!」
 司会の河口がマイクを通して、制限時間を告げた。
 せっかく同志を見つけたのでもっと話したかったが、ルールを破るわけにもいかず名残惜しい気持ちで席を立つ。
 それはいちかも同じだったようで、立ち去る間際「よかったら、またあとでゆっくり話してください」と声を掛けてくれた。
 正直なところ、こういった場で異性とここまで会話が盛り上がったことのない白月は、今までにない好感触に思わず心が躍った。

 一通り全員と話し終わった後、一列に並んだテーブルは店員たちによって動かされ、立食型のパーティーに移行した。
「それでは、今からはフリータイムに入ります! さっき話して気になる人がいたらじゃんじゃん話しかけてください!」
 司会者がそう言い終えると、店内の音楽のボリュームが大きくなった。
 戸惑いが辺りに漂い少しぎこちなくなったが、勇気ある一人が動くと、それにつられるように男たちが徐々に意中の女性の元へ散らばっていった。
 何となく白月はいちかの姿を探したが、彼女の隣にはすでに先客がおり、垢抜けた若い男と楽しげに話していた。
 せっかく出会えた同志だったので、できればゆっくり話したかったのだが、桜である白月が真剣に出会いを求める人間を差し置いてでしゃばるわけにはいかない。一人になっている女性がいないことを確認してから、白月はカウンターの席に腰を下ろした。
 すると河口がすす、とこちらにやって来た。
「悪いな、無理を言って来てもらって、はい、これサービス」
 河口は詫びながら、白月がいつも注文するお気に入りの酒をテーブルに置いた。今日は飲み放題ではあったが、メニューが限られていたので馴染みの酒に思わず頬が緩む。
「ありがとうございます。でも河口さんにはずっとお世話になっていたので役に立ちたかっただけなんで、全然悪いことないですよ。酒までおごってもらってむしろラッキーです」
「お前ってやつは本当にいい奴だな……! 面倒見ててよかった」
 感激した風に言って、大げさに腕で目元を拭う河口に、白月は苦笑する。
「大げさですよ。ところでキャンセルがあった分の補充は間に合ったんですか?」
「いや、お前を入れて二人だけしか集まらなかったけど、女の子も一人キャンセルが出たから、男女ちょうどの人数になったんだよ。本当によかった。やっぱり女の子がひとりあまるっていうのはよくないからなぁ」
「男だってあまったらつらいですよ」
「あはは、経験者は語るってか」
 豪快に笑うと、河口はカウンターの向こうに手を伸ばして飲みかけのペットボトルを取った。
「ところでいい子いた? ……って瑠璃ちゃんに怒られるか」
 ペットボトルの水を一気に飲み上げてから、河口が訊いてきた。
 いい子、と言われて咄嗟にいちかの顔が浮かんで慌てて頭を振る。
「そうですよ、怒られますよ。今日来るのだって大変だったんですからね」
「そうかそうか、ごめんごめん。今度また二人で店来た時にたっぷりサービスするからさ」
 そう言うと、ぽんと軽く肩に手を置いてから河口は席を立ち他のスタッフの元へ向かった。
 河口にいつか本当のことを打ち明けなければと思いながら、溜め息と共に酒を飲み下していると、
「あの、お隣いいですか」
 背後から控えめに声を掛けられ振り向くと、いちかがにっこりと笑って立っていた。
 まさか彼女の方から来てくれるとは思っておらず驚く。
「あ、どうぞどうぞ、座ってください」
 戸惑いと嬉しさでどぎまぎしながら答えると、いちかは隣の席に腰を掛けた。
「よかった、白月さんが一人でいてくれて。ババコンの話したかったんです。もう正直、ずっとそのことばっかり考えていました」
 照れ臭そうに、けれど生き生きとした声で言いながら彼女が笑う。
 街コンで好意的に接してくれる女性ということで、瑠璃の影が胸をかすめて警戒しないでもなかったが、媚びるような甘さのない素朴で屈託のないその笑みは恐らく人を騙すような狡猾さとはまるで無縁に思えた。
「よかった、俺も話したくてうずうずしてました」
「ふふふ、じゃあ今夜はババコンについてじゃんじゃん語りましょう」
 嬉しそうに言って、彼女は店員にカシスオレンジを頼んだ。
「それじゃあ、同志に出会えた奇跡に乾杯ってことで」
 彼女が運ばれたグラスを持ち上げて白月へ差し向ける。
「うん、乾杯」
 カラン、とグラスとグラスがかち合う心地よい音を聞きながら、白月は頬を緩めた。

 彼女との会話は予想以上に盛り上がった。お互い人見知りする性格だということが嘘のようだ。
『ババコン』というマイナーな漫画の数少ない同志ということで興奮しているのもあるが、彼女とは笑いのツボなどの感性も近いと感じた。
 彼女の口から出てくる言葉には爽快な共感しかなかったし、また彼女も同じ気持ちのようで、白月の言葉に深く頷き、時には声を上げて笑った。
「でも今日は参加してよかったぁ。まさかババコン好きな人と会えるなんて、家出る時には思いもしなかった」
 すっかり意気投合して互いの言葉からいつのまにか敬語は消えていた。
「俺もまさか会えるとは思ってなかったよ」
「しかも話がすごく合うし、ほんとラッキー」
 少し顔を赤くして甘い酒を口に運びながらにこにこと笑う彼女に、可愛い酔い方をするなぁと愛しさにも似た甘く淡い感情を抱く。
「前に、オフ会に参加したことがあったんですけど、同じババコン好きの人でも全然話が合わなくてがっかりしたんです。同じ漫画の話をしてるはずなのにちっとも盛り上がらなくて」
 いちかはその弾まない会話を思い出してげんなりするように溜め息を吐いた。
 彼女の言葉に、ふと加賀井のことを思い出した。彼も『ババコン』を読んでいるが、こんな風に共感し合ったことは一度もない。けれど、加賀井のズレた感想に対していちかのようにがっかりすることはなかった。むしろ腹を抱えて笑うことすらあった。
 嫉妬深さは恐ろしいが、そういった可愛らしい一面もあるものだから全くおかしな男だと内心で苦笑していると、
「ふふふ」
 いちかが酔いに浮かされた楽しげな笑いを零す。
「どうしたの?」
「ううん、べつに。ただ今日白月さんと会えて本当によかったなぁって思って」
 女のしたたかな打算や企みを持たない少女のような純粋な笑みでもって彼女が言った。なのにほろ酔いの潤みを帯びたその瞳に鼓動が速まって、どうしようもなく劣情を煽られる。
 乾いた喉にごくりと無意識に唾液を送り込む。
「あ、もしよかったら連絡先教えて。白月さんとは気が合いそうだから今度漫画オススメ会したいな」
 スマホを取り出し楽しそうに提案する彼女の言葉に少し迷った。もちろん彼女とは好みが合うので、その提案は胸が躍るほど魅力的だった。しかし、加賀井のことを思うと軽い気持ちで頷くのは躊躇われた。
 ただの友人として付き合うならば、嫌な顔はするだろうが加賀井も黙認するだろうし、そもそもそこまで口出しする権利もない。
 だが、こんなにも気が合い可愛らしい彼女に、自分が恋愛感情を抱かない自信がなかった。
「……あ、ごめんなさい、急に困りますよね。つい嬉しくて調子に乗ってしまいました」
 返事に迷っている白月に拒まれたと思ったのか、恥ずかしそうに、そして悲しげにいちかはスマホを仕舞おうとした。敬語に戻ってしまった彼女に寂しさと申し訳なさを覚えて、気づけばその手を掴んでいた。
「全然困ってなんかないっ。ただ、少し驚いただけというか……」
 目を丸くするいちかに、つっかえながらも決して連絡先の交換が嫌なわけでないことを伝える。
「だから連絡先よかったら……」
 続く言葉をスマホのバイブ音が遮った。唸るように鳴り続けるテーブルの上にあるそれに目を遣る。
「……っ」
 画面上の『加賀井』の三文字を認めた瞬間、全身を駆け巡るようにぶわりと鳥肌が立った。心臓が変形してしまったのではないかというようなひしゃげた鼓動が胸を打つ。



(中略)



「か、かが、い……っ、やめ、て……」
 本当にこんな場所でやめてほしいのに、懇願する声に知らず媚びるような甘さが滲んでしまう。
 加賀井は黙ったまま白月のものを扱き続けた。熱と微かな興奮を滾らせた吐息が耳元に吹きかかる度に、腰に甘い痺れが広がった。
「……ふ、っ、ぁ……ん」
 加賀井の手は白月が気持ちよくなる方法を知り尽くしていた。動きに緩急をつけたり、先端に甘噛みするように爪を立てたりと、白月を快感の渦へと突き落とす。
「ン、ぁ……ッ」
白月は加賀井の手に翻弄されるがままに呆気なく精を加賀井の拳の中に吐き出した。
吐精後の爽快感に陶然となっていた白月だったが、次第に冷静になった頭が、壁の向こうに鈍く響く店の音楽や人の気配を拾い始めてハッとした。
「か、加賀井、とりあえず、ここから出よう」
 宥めるように言いながら振り返るが、加賀井は答えず、白月のものから溢れたものを指に絡め、そのまま窄まりへと押し入れた。
「……ッ!」
 乾いたそこに塗りつけるように卑猥に動かす指に、加賀井が何をしようとしているかは明らかだった。
サッと全身から血の気が引いた。
「加賀井っ! だ、だめだってこんなところで、ん……っ」
 必死に制止しようとするが、そこを弄られた先に待つ快感をよく知る体は、言葉とは相反した歓喜するような甘い声を漏れさせる。
当然、加賀井の手も止まるはずがない。



(中略)


「……でも、ご褒美の前にお仕置きも必要だな」
 耳の輪郭が唇の熱に飲み込まれそうなほど密着して吹き込まれた声は、冷たく残忍なものだった。しかし怒張した雄根の凶暴な熱に似たものも孕んでいるのも確かで、背筋に走る鳥肌が、恐怖によるものなのか期待によるものなのか白月にも分からなかった。

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