【電子書籍のお知らせ】 殺し屋のはじめての殺意
『殺し屋は恋人と一緒に暮らしたい』サンプル (本編その後の二人、書き下ろし)
(中略)
「白月、誰からのメールだ?」
風呂から上がった加賀井が、髪をタオルで拭きながらリビングに戻ってきた。
頭に思い浮かべた人物がやって来たので思わず肩が跳ねた。白月の反応であればどんな小さなものでも見逃さない加賀井が、それに気づかないはずがなかった。
加賀井の目が訝しげに細められる。
「なんでそんなにびっくりするんだ? まさか浮気じゃ……」
「違う違う!」
突拍子もなく繰り広げられそうな不穏な妄想を慌てて打ち切る。
「求人情報を見てたんだよ。ほら」
身の潔白を証明するようにメールの画面を見せると、加賀井が目を丸くした。
「求人って……白月、仕事をするのか?」
信じられないといった様子の加賀井に、白月はこめかみを引き攣らせた。
(中略)
「じゃあ家族になればいい」
まるでこれで万事解決といった風に加賀井が言ったので、こめかみ辺りがじんじんと疼き始めた。
「……簡単に言うけどな、普通の夫婦だって家族になるのに相当な時間がかかるっていうくらいだぞ」
「じゃあなおさら早く一緒に住み始めた方がいいな」
加賀井が甘さを漂わせながら腰に腕を回してきた。まるで白月を囲い込むような手つきだ。
気づけばまた同棲の話に戻り、白月は慌てた。
(中略)
「白月に害を加えたんだ。当然の報いだ」
後ろめたさなど微塵も感じられない冷淡な口調で加賀井が言った。伊巻はくすくすと笑った。
「あの女も騙した相手が悪かったですわね」
ご愁傷様、と心の中でそっと呟いてムースを口に含んだ。
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