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散りゆくときはどうか貴方と





体がだるい。
このところ熱も続いて、食欲も無かった。
日に日に衰えていく体力、細く痩せ痩けた全身が軽い。






布団に横たわり、ただ開いた障子戸から外を見ていた。



「…なんだ」
ちらりと障子の影に視線を移すとその影の主は微動だにせず答えた。
「いや、」
さっと音もなく障子戸が開く。
「急に鬼兵隊を解散するとはいかがしたかと思ってな」
ヘッドホンを床に置いて万斉が俺に近づいてくる。
「…別に、理由は無ぇよ」
俺の頬に万斉の手が触れて、普通だったら払うだろうが今はそんな力さえ出ない。

外では満開の桜が、はらはらと散っていた。


「晋、助…」
万斉が口づけようとする。
俺は即座に手でその唇を制する。
「離せ万斉」
どこに力が残っていたのかそのまま万斉を振りほどく。その拍子にむせて咳き込む。
「…っ!」
ごほごほと止まらない咳。
喉が、肺が、燃えるように熱くて、痛い。
「晋助!」
「げほっ…かはっ」
びちゃ、
手のひらに広がる水っぽい赤。
頭がくらくらする。息が苦しい。
「晋助」
万斉の目がサングラスごしに見開かれる。とっさに俺を抱き上げて顔を覗かれる。
「…わかったら、さっさと行け…もう俺に近づくな」
精一杯低い声で言うも万斉はただ悲しそうに笑うだけだった。
「無理だ」
「万斉!」
「もう、俺はあんたの部下じゃないからな」
そして、ゆっくりと唇が触れる。今度は拒めなかった。
「馬鹿…」
「馬鹿で結構」

…ぶわりと溢れたのは、涙じゃない。決して。









相変わらず降り止まない桜。

「なぁ、お前のギター、聞きてぇ」
「ん?いいでござるよ」
万斉の綺麗な指が弦を弾く。
軽快な、でもどこか優しい音色が耳に心地良い。

「俺は、お前のギター、嫌いだ」
ぽつりと言うと、万斉が苦笑する。
「だってお前のギターを聞いていると、体の渇きが消えちまうんだ。あの獣のうめき声が弱くなって、憎しみが、痛みが薄れちまう」
「…そうか」
万斉の苦笑いが微笑みに変わって、そんな些細なことが嬉しくて俺も笑った。



ああ、眠い、な。
「なんだか疲れたみてぇだ」
静かに散っていく桜が視界いっぱいに広がって、だんだんと重い瞼が閉じていく。
闇に包まれていく中で、ギターの音に混じって万斉が鼻をすする音が、確かに聞こえた。



「俺の変えた世界、見たかったなぁ…」






獣のうめきが、聞こえなくなった。
















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歴史上の高杉さんは幕府が滅亡する前に結核で亡くなったと聞いて妄想した万高。
死ネタです。









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