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小話
お勉強
※学パロ ユリガイもどき

「わりいな、付きあわせちまって」
「構わないさ。いつもユーリには世話になってるから、そのお返しが少しでも出来るのは嬉しいよ」
「……お前、何度もいってるけど、ソレやめとけ。また女から誤解されっぞ」
カバンから教科書とノートを取り出しながら、ユーリは顔を顰めてみせる。
指摘されたガイも、しまった、と口に手をあてて視線を外す。
「素直な気持ちだから言葉になるんだがなあ」
「だからな、それが誤解されんだって。お前、天然物のタラシなんだし」
「ユーリ、俺の彼女いない歴知ってるだろ」
「知ってる。お前、その体質で彼女がいなくて良かったな。そうじゃなきゃ学校で刃傷沙汰が起きてんだろうな」
「おいおい、大袈裟な奴だなあ」
跨いだ椅子の背に肘をつきながら、眉尻をさげて苦笑いをする。
ユーリは、視線を少し上にあげながら「大袈裟ねえ」と言葉を漏らす。
そこには明らかな呆れを滲ませている。
ユーリの幼馴染で親友のフレンと、目の前で椅子にまたがっているガイは、双子のようだ、とよく言われている。
だが、ユーリからすれば「どこが似てんだ」と一蹴したくなる。
フレンならば椅子を跨いで座る事などしないだろう。だがガイはそこら辺は頓着しない。
そのくせ元来の育ちの良さを感じさせる所作をするものだから困ったものだ、とユーリは思う。
学園の王子様の地位は間違いなくフレンだが、告白された回数はガイのほうが上回っている。
話しかけやすく、そして穏やかで心優しい。どこかキラキラと眩しいフレンとは違い、気さくに声をかけれる。
そして本人は根っからのフェミニストなものだから、女の子の頼みごとに首を横にふることは滅多にない。
憧れの対象がフレンなら、恋人になりたい、と思わせるのはガイの方だ。
おまけに本人が無自覚で、端から聴いているこっちがドン引きするような甘い言葉をさらりと言い放つもんだから、勘違いする女子は後を絶たない。


ガイと親しくなる切っ掛けも、その告白現場にユーリが何度も鉢合わせたからだ。
告白する場所というのは大抵人気のない場所で、そして無性に一人になる事を好むユーリは大抵そのような場所でサボる事が多い。
屋上の死角になる場所で一眠りしていれば、風にのって女子の切羽詰まった告白と、それ以上に切羽詰まったガイの情けない声がユーリの耳に届いた。
人の恋愛に立ち入る性分ではないので無視を決め込んでいた。
だが、次第に女子は詰問する口調になり、ガイの声は逼迫した様子になっていき、さすがに心配になってしまった。
そっと建物の影からのぞくと、遠目からでもわかるほどガイは顔面蒼白でぶるぶる震えている。
気の毒になって「おいおい、あんま無理強いすんなよ」と言葉をかけたのが始まり。
その時は丁寧な礼を何度も言われ、ああ、これが「噂」のガイか、とユーリは胸の内で零しながらガイをじっと観察した。
入学当初からフレンが「僕と双子のようにそっくりな人がいるらしい。一度会ってみたいな」とガイの名前を口にしていたし、周囲も「お前の相棒のソックリさんみたか?」と言ってくるのもいた。
クラスが端と端。ついでに教室も渡り廊下を挟んだ向こう側の校舎だったため、噂のガイを見かける事はなかった。
初めて間近で見るガイは、金髪碧眼で、長身、体格はややガイの方が細身に感じる。
一つ一つのカテゴリは同じだろうが、別にそっくりじゃねえな、というのがユーリの第一印象だった。
二回目の邂逅は体育館倉庫の裏だった。その時も告白され、ついでに迫られ、ひいっと情けない声をあげるので、仕方なしに助けに入った。
そんな風に何度もその告白現場にはち合わせ、口は悪いが困っている人を無視出来ない性分のユーリが助けにはいっていくうちに、ガイと仲良くなっていった。
クラスは離れても時々は一緒に帰ったり、休日にはフレンもまじえて遊ぶようになっていった。
進級するとユーリはガイと同じクラスとなったため、時々こうして放課後、教室で数学を教えてもらっている。


夕日が差し込んで、教室をオレンジに染めている。
開いた窓からグラウンドの方から運動部員の掛け声が小さく聞こえてくる。
「ん、そうそう。数学は基礎がわかればあとは応用だから」
優しく穏やかな声がなぜかユーリの気持ちを落ち着かなくさせる。
「よっしゃー、解けた!」
ようやく解けた達成感にシャーペンを放り投げ、うん、とのびをする。
椅子の背を抱き込むようにしているガイは、にこにこと嬉しそうに目を細めている。
ふと。
本当にふと、夕日に染まったガイの髪はまるで濃厚な蜂蜜のようだ、と思った。
そうしたらどうしたことか、甘い匂いまでガイから漂ってくる。
がたっと音を立てて椅子から立ち上がると、ユーリは鼻先をガイの首筋に寄せる。
それはユーリが思っていた蜂蜜の匂いではない。でも、なぜかとても甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
固まっているガイに構わずに、次に蜂蜜を溶かした金糸に顔をくっつける。
ふわふわとした髪と、整髪料の香り。
ここにあるのは蜂蜜ではないのに、なぜだか美味しそうに感じる。
突然のユーリの行動に思考がついていかず為すがままだったガイだったが、ようやく我を取り戻し
「ゆーり?」
恐る恐る名を呼ぶ。
「なんか蜂蜜みてえでうまそう」
「………」
蜂蜜みたいでうまそう、がなぜ今の行動に結びつくのか。ガイは眉間に刻まれた皺を人差し指でさしながら考える。
「わかった。腹が減ったんだな」
たどり着いた答えを口にすると、ユーリも「頭使ったから糖分不足なのかもな」と相槌を打ってようやくガイから離れる。
「俺の髪を蜂蜜と見間違えるくらい、ユーリの糖分補給を怠ると深刻な事態になるのはよくわかった。帰りにどこか寄ろう」
立ち上がって制服のポケットをまさぐると、ユーリの手にキャンディを握らす。
「ほら、店にいくまでの糖分補給」
「お、サンキュ」
カバンに教科書やノートをいれながら、口に入れる。
あまく広がる味で満たされていくのに、なぜか物足りなさを感じる。
「ほら、行こうぜ」
教室から出ていこうとするガイの背をユーリは見つめる。
さっきガイに触れた時に、胸がふんわりと甘く蕩けるような感覚。
とびきりのデザートを食べた時にも感じなかったあれは……
胸の中で辿り着いた答えに、参ったね、と小さく零すと足早にガイに追いつく。
さっき寄せていた首筋をみると、「ん?」とガイがこちらを見返す。
その顔がなんだか幼くみえて、ユーリは笑いがこみあげてくる。
ガイの唇はもっと甘いかもしれない。今度すきあらば試してみようと企みながら、ユーリはにこりと笑い返した。






とうまさんに押し付けた話
とうまさんに喜んでいただこうとユリガイを書いてみたのはいいけど、結局ユリガイにならなかったよき想い出があります
私は内面的な意味でガイはフレンよりもユーリに近いなあって思ってます

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