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小話

※赤毛二人生還ED設定
※アシュナタ要素あり


はらはらと白い雪が落ちている。
ルークは部屋を出たテラスの椅子に座り、ぼんやりと目の前の光景を見つめていると
「…デジャブ」
ぽつりと言葉がついてでた。

*********


シャクシャクと音を立てて、ガイが雪をかき集める。
バチカルに降る雪は水分が多い。丸い球を3つ作って重ねていくうちに、ガイのグローブはどんどん色を変えていく。
はじめは濃い茶色だったが、今はドス黒くなっている。
「泥ついてんのか」
ルークはテラスの椅子に座り、ガイが雪だるまを作るのを手伝いもせずに見ていたが、さすがに気になって声をかけた。
ん?とルークの言葉にガイが顔をあげる。
「そのグローブだよ」
ほれ、と指さすと、ガイは自分の手に視線を落とす。
「ああ、これか。濡れているだけで泥じゃないから、安心しろよ」
そう笑うとまた手を動かす。
眉となる炭の位置が気に入らないらしく、グローブをはずして炭をつかんで微妙に角度を変えている。
その指先は赤くなっていて、さすがにルークは椅子から立ち上がった。
「さ、寒く、ないのかよ」
「いや、別に」
ガイはグローブをはめることなく木の枝やニンジンを雪だるまにはめ込んでいく。
苛立たしげな声でルークは声をあげる。
「だから、寒くないのかって聞いてんだよ」
ガイは「あ、悪い」そう言って立ち上がると、テラスに向かって歩き出す。
「寒かったんだな。出来たら部屋に届けてやるよ。身体冷えているから中に入ろう」
「ちがっ!俺じゃなくてお前が…」
「俺?」
きょとんとしたガイに苛立ったルークは「もういい!絶対後から届けろよ」と言葉を投げてさっさと部屋に入る。
なんだよ、せっかくこの俺が気まわしてやったのに。馬鹿。

***********

ガキだったよなあ。冷たそうな指先をぎゅっと掴んで温めてやりたかったんだよなあ。
優しくする術がよくわからず、何よりも気遣いが空回りした事が気恥ずかしくて、あんな態度とってしまった。
でもガイは程なくして完成した雪だるまを持ってきてくれた。


ルークの視線の先にはアッシュとナタリアがいる。
中庭で二人、降ってくる雪を眺めていると、不意にナタリアが上品な白の手袋を外した。
素手で舞い落ちる雪を受け止めて楽しそうな様子だ。アッシュはそれをなにか物言いたげな様子で見つめている。
よくみれば腿の傍にある手を握ったり広げたりしている。
「ナタリア、その、………さ、寒くないのか」
「あら、大丈夫ですわ」
やっぱあいつ俺のオリジナルなんだなあ、とやれやれと溜息をつく。
アッシュの姿があの当時の自分と重なり、つい口を出してしまう。
「ナタリアー!アッシュは雪を口実にお前と手を繋ぎたいんだから、気づいてやれよ」
二人に向い声を張り上げると、ばっと効果音がつきそうな速さでアッシュがこちらを振り返る。
ナタリアは「まあ」と驚いたように手を口にあて、それからぽっと頬を赤らめる。
「ばっ、何を言っている!この屑がっ!!」
それ以上に怒りで顔を真っ赤にしたアッシュがズンズンこちらに向かってくる。
おっとやばい、と退散しようと腰を上げ部屋に戻ろうとする。身体を反転しようとしたところ、扉から出てきたガイとぶつかりそうになる。
「っと」
「ガイ!」
「ガイ!そいつを捕まえておけ」とアッシュが肩を怒らせ近づいている。
「なんだあ、またアッシュを怒らせたのか」
ガイののんきな声にルークは「ちげえよ。ちょっと気ぃきかせてやったんだよ」と抗議の声をあげる。
ガイは中庭の真ん中で頬をそめているナタリアをみて、事情を察したらしい。
「お前なあ。じれったくなるのはわかるが、こういう事は口を挟まないのがスマートな大人ってもんだ」
「悪かったな。お子様で」
「アッシュ、ちょうどいい。お茶の用意ができたから中に入ろう。ナタリアを連れてきてくれるかい?」
そう言うとルークの腰に手を回してさっさと母屋に通じる扉に向かう。
いいのか、またアッシュが「使用人根性が抜けない奴だ」と怒るんじゃないの、とガイに促されながら首を捻って背後を見る。
その場に立ち尽くすアッシュに、ナタリアが近寄り何か声をかけているところだった。
うまくなだめてくれよ、と心のなかで手をあわせる。


廊下に入るとガイはルークの片手を取って、自分のそれで挟む。
「指先冷えているぞ。お前もアッシュも音素がまだ不安定だから、気をつけないと」
ガイにしてみれば慣れた行為だ。七年もの間、こうして世話を焼いてくれたのだから。
「ん……、ありがと」
ルークにしてみても慣れた行為のはずだった。七年もの間、こうして世話を焼かれてきたのだから。
だけど、こんななんでもない事に、頬が熱くなってくる。
なんだか照れくさくなり、視線を窓の外に向ける。
「雪だるまは無理だろうなあ」
「そういや昔作ったことあったな」
ほら、次は左、と言われ、充分温まった右手を下ろして、左手を差し出す。
「あの時ガイの手、すげえ冷たそうだった」
「そういやお前何回も「寒いか?寒いか?」って言ってたな」
過去を思い出してガイの口元が優しく綻ぶ。
数瞬の沈黙の後、ガイが「悪かったな、あの時は」と口にする。
へ?と視線をガイに戻す。
「あとからな、お前が「寒くないのか」の意味がわかってな。せっかくルークが気を使ってくれたのに、悪かったよ」
「……謝る事じゃないだろ」
「いーや。あのルーク坊ちゃんが滅多にしない気を使ったんだぞ。それに気づかないとは迂闊だろ」
「おい、なんか面白くなんだけど」
悪い悪い、と快活に笑うとそのままルークの手を握りこむ。
「用意した紅茶が冷める前に行こうか」
そう言って手を離そうとしないで部屋を出ようとする。
「自分ちだから、迷子になんないぞ」
手をつないで嬉しいのに、つい憎まれ口がついて出る。
「いいだろ、手を繋ぎたいんだから」
あっさりと返されると、「仕方ねえな」と渋々という体面を作ってぎゅっと握り返す。
なんだか照れくさいけれども、嬉しくてたまらない。


同じように手を繋いだ二人と廊下で出くわすまで、ルークは幸せそうに笑っていた。




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