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小話
無自覚
※現パロ


「お前さあ、よくそんな余裕あるな」
連休明けに提出するレポートに悲鳴をあげていたガイは、携帯電話の相手に呆れを滲ませる。
『楽しみないと頑張れないだろ。水曜日の7時にいつもの居酒屋で。可愛い子揃いまくりだぜ』
「だからってなあ」
『お前来ると女子の食いつきがいいんだよ。おまけに俺たちからすれば、お前は絶対可愛い子をお持ち帰りもしないいい奴だしさ』
「俺は客寄せパンダか」
その時、ノックなしに部屋の扉が勢い良く開かれる。遠慮なしに入ってくるその少年に、ガイは驚きに目を瞠る。
『いやあ、まあ、いーじゃねえか。触れないだけで、女子と会話すんのお前大好きじゃん』
「……あ、え、ああ、まあ、嫌いじゃないけど」
電話の向こうの友人の声で、一瞬呆けていた思考が戻ってくる。
「水曜日は確かに暇だけどな。合コンはあまりす」
き、と続く言葉は携帯電話をひったくられたため、かなわなかった。
「あー、わりい。今、ガイには俺と遊ぶ用事が出来たから合コンにはいけねえ。以上」
ひったくり主はそう友人に告げると、問答無用とばかりに電話を切る。ついでに電源まで落とすと、ガイにぽいっと放り投げてきた。
「っと」
放物線をえがいてガイの手におさまった携帯を見て、再び闖入者を見詰める。


近所に住む幼馴染のルーク。
ルークが部屋にはいってからの一連の行動に、ようやく思考がついてきたガイは、真っ先に浮かんできた言葉を口にする。
「お前、今日、デートだろ」
「デート『だった』」
ご機嫌斜めを隠しもしないで、ガイの傍らを通り過ぎるとそのままベッドにうつ伏せに倒れこむ。
「なんだ、振られたのか」
「ちげえよ、俺が振ったの」
「どうした。穏やかじゃないな」
ガイはベッドの端に腰を下ろして、真ん中を陣取っているルークに顔を向ける。
「ガイのせいだからな」
「はあ?俺のせい?」
「あいつ、映画みている最中べったべたしてきてさ」
それがなんで俺のせいになるんだ、と返したいが、不貞腐れているルークの八つ当たりなのだと胸の中で解釈しておく。
「デートなんだから当たり前だろ。ちょっと積極的な女の子ってだけじゃないか」
「おれは、必要以上に触られるのやなんだよ」
ルークの言葉に、ガイは少し首を傾げる。


この4つ年下の幼馴染とは、付き合いが長いせいか遠慮がない。
ルークも自分も必要以上のスキンシップが多く、姉から「あんたたち気持ち悪いわね」と言われるくらいだった。
だからルークが触られる事が嫌いだという事を、ガイは初めて知った。そういえばこの頃は昔ほどに肩に手を回したりする事もなくなったし、急に背中から抱きついてくる事もなくなった。
成長するにつれ、それがあまり好きではないと意識が変化したんだろうな。
「映画館出て、メシ食いに行こうとしたら、あいつ、髪、触ってきたんだ。んで、思わず『触んなよ』って言ってその手を振り払ってさ」
布団に顔を押し付けているので、声はくぐもって聞き取りづらい。
だが、ルークが落ち込んでいるのはわかる。
口は悪いしワガママだし、強引な俺様なところはあるが、彼の本質は優しい。
本意ではないにせよ、衆目のなかで女性の手を振り払った事に対して、酷く落ち込んで後悔しているのがわかる。
「謝ったのか」
「……一応」
「なんだ、一応って」
その返しがルークらしくて思わず笑ってしまう。
「一応、謝った。あ、わりぃ、って。そうしたら頬張られた」
我慢できずにガイは吹き出す。
「笑うな!!!」
上体を起こしてどう怒鳴ると、再びうつ伏せに倒れこむ。
そう言われれば心なしか片方の頬が赤くみえる。
こみ上げてくる笑いをなんとか噛み殺そうとすると、腰に軽い衝撃を受ける。
どうやらルークが片足で蹴りをいれてきたようだ。再度の「笑うな!」と抗議の証だろう。
「え、えーと。で、なんで俺の合コンの誘いを勝手に断るんだよ」
ガイは話を変えようと先ほどの事を尋ねてみる。
「ガイは合コンいってもお持ち帰りもなんもできねーのに、行ってどーすんだよ。そんな暇あるなら、俺をどっか連れてけ」
いつものブレないルークらしさに、ガイは小さく笑う。そして心の何処かですごく安堵している。
ルークはモテる。顔もいいし、家柄はいいし、性格は…まあ深く付き合えばルークの良さは相手に伝わる。
そういう部分が「自分だけがルークのいい所を知っている」という、どこか特権めいた感情を女性たちに抱かせる。
同じ顔で、完璧な優等生である双子の兄のアッシュよりルークの方が遥かにモテるのは、そうした女心をおおいに刺激する所もあるだろう。
まあ、アッシュの場合は一つ年上の従姉にベタ惚れなのが、衆知されているというのもあるだろうが。


問題はその交際が長く続いたためしがないことだ。
今日のデートの相手も、おそらく一週間は持っていないだろう。
欠点はそれは沢山あるけれど、ルークはそれ以上にいい所が沢山ある、と幼馴染の贔屓目を抜きにしてガイは本気でそう考えている。
だから続かないのはとんと不思議で仕方ない。今日の事は確かにルークが悪い。
だがその場に自分がいれば「あいつも悪気があったわけじゃないんだ、ごめんな」と間に入ってやれるのに。
そこまで考えて、はた、とガイは気づく。
いやいやいや、高校生の幼馴染のデートの間に割って入ってくる大学生ってマジでキモイだろ、やばいだろ。何考えてんだ、俺は。
ガイはがっくり項垂れる。
その時、視界の端が赤をとらえる。
頭を垂れたまま視線だけを向けると、ルークの背まである赤い髪がゆるやかにシーツに広がっている。
綺麗だな、とガイは素直に思う。ルークのデートの相手もついその髪に触れたくなるだろう。
なにかに衝き動かされるように、手を伸ばして肩から布団に流れている髪を一房手に取る。
艶やかな赤い髪は、毛先は薄くなっている。そのグラデーションが綺麗で手にとってじっと見詰める。
どれくらいの時が流れただろう。わずかであったのかもしれない。
は、とガイは我に返り髪から手を放す。
「あ、わりい。触れられるのいやだったんだな」
「……ガイはいーよ。お前に触れられるの慣れてるし」
ごろんと寝返りを打って、ルークは横臥する。
うつ伏せていたせいか少し顔が赤く見える。機嫌も少しばかり上昇の兆しがみえている。


ガイはいーよ、の言葉にガイは心の片隅で気持ちが浮き足立つのを感じる。
見たこともない年下の女の子への優越感も抱いてしまう。
それを誤魔化すように、つとめて平静を装って軽口で返す。
「いやな慣れだな」
「そうか?それよりも今日の映画館の方がやばかった」
「何が」
「ほら、お前と映画見ている時ってさ、俺が左手ちょっとあげただけで、スクリーンみたまま、ポップコーン俺の方に差し出すじゃん。しかもすげえ絶妙な位置で」
「まあ、お前とはそれこそ腐るほど一緒に行っているからな」
「それに俺が慣らされててさ。今日なんてポップコーンあると思った左手は空振って、そのまま隣の彼女の右手に触れてさ。
そうしたら向こうが一気に積極的になってしなだれかかってくるし。最悪だ。ガイのせいだ」
さっきの「ガイのせいだからな」はこの事だったのか、と納得する。
「お前の映画付き合ったら絶対3D眼鏡かけないといけないから、耳が痛くなってうぜえって思ってたけど、あんなクソつまらない恋愛映画見させられるより遥かにマシだってわかった」
「女子は恋愛映画が好きなんだよ。二時間くらい彼女の好きなものに付き合ってやれよ」
「女子!女子って言い方なくねえ」
「この前俺が女の子って言ったら「うわー、女の子だって。女嫌いのタラシ」って言ってくれたのはお前だぞ」
「んなのわすれた。あー、午後から暇になった。ガイ、あそぼーぜ」
「悪いが俺はレポートあるんだ」
「じゃ終わるまで昼寝してる。終わったら起こせよ」
ふわああと大きなあくびをして、ガイの了承も得ないまま布団に潜り込む。
「夕方まで軽くかかるぞ」
「構わねえよ。そのかわり待たせたお詫びに夕飯はお前の奢りな」
「なんでそうなるんだ。家に帰れよ」
「帰れないんだよ。アッシュに「今日遅くなるから」とか言っちまったんだよ」
お前、馬鹿だなあ、と遠慮ない本音が溢れると、うるせえ、と返される。
膨らんだ塊をポンポンと軽く叩いて、ガイは腰をあげる。
「じゃ張り切って済ませますか」
「おー、頑張れよ。俺は昼寝に精を出すから」
「はいはい」
苦笑いしながら、椅子に座る。



ルークは頭までひっかぶった布団の中で、小さくため息をつく。
ガイと一緒にいたら楽すぎて駄目になるって思って、彼女作ってきたけどさ。やっぱ無理だな。
どうして無理なんだろう、と理由をさがそうと思うが、ガイの匂いが染み込んだ布団にくるまっていると気持ちが緩んできて、考える事を放棄する。
まあいいや。ガイの一番は俺だし、俺の一番はガイなんだし。それはずっと変わらないんだし。
まぶたを閉じれば、ガイがすぐそばにいるようで、ルークはそのまま眠りに落ちた。




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