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小話
初H その1
※現代パロ VG
※二人は従兄弟 年齢差10歳


理系クラスはこの学校では3クラス存在するが、そのうち2クラスは男子クラスになっている。そしてガイはその男子クラスだ。
女子の目のない年頃の男子の話は遠慮がない。アイドルの話、ゲームの話、TVの話、そして一番盛り上がるのはHな話。
それに花を咲かせていると、一人がふと思い出したように
「あ、お前の従兄弟をこの前見かけた」とガイに話す。
ガイの従兄弟のヴァンの存在は、ガイの友人の間ではよく知られていた。
「へえ、どこで」
「駅前に出来たホテルで。あそこの展望レストランに家族で食事にいったらさ、窓際ですげえ金髪美人と食事してた」
ガイよりも先に周囲が目を輝かせて反応する。
「はああ?マジで?金髪美人と?お前、ガイの姉さんと勘違いしてんじゃねーの」
「見間違えるかよ。それにガイの姉さんとはこっちのサイズが違った」と胸の前で大きく弧を描くように手を動かす。
「きょにゅー!!ヒゲのおっさんのくせにー!!美人できょにゅーとホテルで旨いモン食って、美味しいコトしたのかよ」
わっと盛り上がる友人たちを前にして、ガイは、思考が停止していた。

ヴァンが、ホテルで、女と、しかも金髪美女と、巨乳と。
単語が頭の中でグルグルと渦を巻いている。

「おい、ガイ」
呼びかけられて、ようやくはっと我に返る。
皆の心配そうな視線が自分に向けられていることに気づいて、にこりと笑顔を向ける。
「わるい、ぼうっとしてた」
「珍しいな。ガイがぼーっとするなんて」「気分でも悪いんじゃないか」と心配そうな友人たちに当たり障りの無い微笑をむけ
「大丈夫。ヴァンのやつが美味しいことしているんで、悔しかったらしい」と軽口を叩く。
皆の表情が緩み、年頃の少年らしく巨乳について熱く語り始める。
気持ちが自分からそれた事を確認してから、ガイはそっと小さく息を吐く。


ヴァンとガイは10歳年の離れた従兄弟の関係にある。
ガイが幼稚園の頃、両親の海外赴任のため親戚であるヴァンの両親のもとに姉とともにあずけられた。
一人っ子で育ったヴァンは、初めこそは「弟」のような存在が出来た事に戸惑いを覚えていたのだが
素直に自分を慕ってくるガイの姿にそれはあっけなく霧散した。
ガイも、初めこそは両親と離れて泣き暮らしていたが、ヴァンが辛抱強く世話や面倒をみてくれるうちに
ヴァンに一番に心開くようになっていった。
ガイの小さな我侭も、ヴァンはきちんと正面から受け止め、彼の中で吟味してから、それを甘受していた。
ガイの姉ならば「我侭を言わない」と一言でピシャリとはねつけるような些末な事でも、だ。
兄のように慕い、彼が剣道を嗜んでいる事をしると、幼いながらもヴァンの後をついてともに道場で剣道を学んだ。
ヴァンが学生の時に起業し、家をでることになった時、「やだ、やだ、ヴァンと離れるのやだ」と盛大に泣いて
姉やヴァンの両親を大いに困らせた事もある。
そんなガイにヴァンは優しく「では、高校生になったら私と暮らそう。それまでは休みの時に泊まりにくればいい」と
提案した。周囲はガイを納得させるための口約束だと思ったが、ガイは素直にそれを受け止めた。
週末は勿論の事、夏休みなど長期の休みはずっと泊まりにいった。
姉のマリィベルが苦言を呈したが、ヴァンが「迷惑ではないので構いませんよ」というスタンスだったため
それ以上は口出し出来ずにいた。
高校に合格が決まると同時にガイは荷造りをはじめて、ヴァンと同居する事となった。


出会った頃はまだガイも幼稚園児だったため、記憶は朧げだが、当時高校生のヴァンに彼女の気配を感じた事はなかった。
ガイが小学生になると、姉と一緒に恋愛ドラマを見ていて、TVの中の男女がキスするのみて、姉に「ねえ、ヴァンもキスするのかなあ」と
湧いた疑問を素直に口にして、姉から盛大に顔を顰められた事は記憶にはある。
それくらいにヴァンには恋愛を感じさせなかった。
だからこそ遠慮なく長期休みに泊まりに来り、一緒に暮らすことが出来たのだ。
だけど。
ガイの脳裏に昼に友人の目撃談がよみがえる。
金髪巨乳美人とホテルで食事、かあ。
重い心に引き摺られるように、マンションに帰る足取りも重くなる。
エントランスの告示板に花火大会のポスターが貼られているのが、目に止まる。
毎年、この大会にはヴァンと共に行っていた。人のこないとっておきの場所で、二人で夏の空を見上げた。
帰りにりんご飴や綿菓子やたこ焼きなど沢山買って、ブラブラと屋台も歩いた。
立派な体躯をしているヴァンに浴衣はよく似合っていて。下駄も履きなれていて。
ああ、そうだ。まだ俺が小学生の頃は背におぶってもらっていたんだ。
ずっとずっと一緒に花火をみていたけど、でも、今年は、ヴァンはその金髪巨乳美人と行くかもしれない。
あのとっておきの場所は、恋する二人には絶好のデートスポットだし。
苦々しい思いがガイの心を占める。そんな自分にガイは苦笑いする。
「俺、すごいブラコンなのかも」
自嘲気味に呟いてみるが、それでも全く心は軽くならずにいた。
ガイは同級生の間では、年齢よりも大人びて穏やかで、頭も切れて、他人に対して心優しく気持ちの機微に敏く、
と概ね手放しで賞賛されている。
そんなしっかり者だと称されるガイだが、実はヴァンに深く依存している事を本人は自覚している。
幼い頃に両親と離れて暮らすこととなり、幼いながらも周囲に心配をかけまいとしていたガイに
優しい腕の中で身を預けて微睡む心地よさを教えたのがヴァンだった。
彼の姉とて優しさを見せなかったわけではない。ただ、彼女も親戚の家に厄介になる身として、迷惑をかけぬようにガイの躾に心砕いた。
それは自然と厳しさを伴なう行為になる。だが、まだ甘えたい年頃だったガイは、所謂アメ役を担ったヴァンに心底懐く事となったのだ。
家で存分に甘やかしてもらえるからこそ、外ではしっかりした子供でいられたのだ。昔も今も。


ガイが玄関の扉を開けると、同居人の気配は当然ない。
時々出張だといって家を開けることがあったが、今にして思えばそれは「そういうこと」だったのだとガイは今更ながら理解する。
と、同時にそれに今まで気づけなかった自分の子供っぽさが恥ずかしく感じる。
ずっとこころの中でヴァンは自分を一番に思って大切にしてくれる、という自信があった。
それは単なる驕りであり、ヴァンは自分の知らないところで、ちゃんと大切な人を見つけていたのだ。
心の何処かで、このままヴァンに甘えてばかりではいけない、と己を叱咤しながらも、ズルズルと先延ばしにしてきた結果がこれだ。
どうせなら他人から聞かされるよりは、先に本人の口から紹介なり何なりをして欲しかった。そうすればこんなにショックを受けることなどなかったはずなのだ。
制服のネクタイを緩めて、ハアっとため息をつく。
夕食の支度をする気持ちが起こらない。気分をかえるためにシャワーでも浴びるか、とガイはそのまま浴室に向かった。


熱いシャワーで身体の汗を流すと、さっぱりはするのだが、ガイの気持ちは晴れないままだ。
部屋着を持ってくるのを忘れていたので、身体を拭いて、タオルを腰に巻きつけて浴室からでる。
するとリビングにヴァンに姿があった。
ヴァンはガイの姿を一瞥すると、眉根に深く皺を刻んで
「なんて格好だ」と苦々しく小言をいう。
「もう帰ってくるとは思わなくてね」
「この頃忙しかったからな。早上がりだ」
金髪巨乳美女と食事するのが忙しかったんだろ、と心の中で当てこする。また腹の底から不快な感情が溢れ出してくる。
「夕食の支度がまだなら、この前行きたがっていたあの店で食事でもどうだ」
「いい、いかない」
考える暇もなく、素っ気ないガイの断りに、珍しくヴァンは目を瞬かせる。
「どうした。誰かと約束でもあるのか」
「別にない」
「ではもう夕飯の支度が」「それも出来ていない」
このやりとりで、ようやくヴァンはガイがかなりご機嫌斜めな事に気づく。
「何を怒っている」
「別に何も」
素っ気ない返答はこれ以上の追求を拒んでいる。ガイの心情を熟知しているヴァンはそれ以上踏み込むつもりはなく、ふっと小さく息を吐いて
「そうか」と呟く。
そうやってヴァンがあっさり引くと、ガイは途端に不安になり、強気の姿勢を維持出来なくなってしまう。
ただ今日のガイは頑な態度を崩せずにいた。
真っ直ぐにヴァンを捉える空の色の双眸は剣呑さを含んでいる。

普段と異なる気配に、何を言い出すのかと構えるヴァンに、不機嫌さを滲ませたガイの声が耳に入ってくる。
「好きな人いるの」
その言葉にヴァンは思考が根こそぎ吹き飛ぶという貴重な経験をした。


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