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小話
断片 ルクガイ ガイサイド
長髪ルークとガイ 旅の途中


灯りを落とした安宿の光は、粗末な木枠の小さな窓から差す僅かな月明かりだけ。
部屋の中を満たす呼吸は荒くせわしない。
獣の姿勢で背後から深く抉られると、苦痛だけではない快楽が背を走る。
震える足を叱咤し、ベットのシーツをきつく掴む。歯をきつく食いしばる。
激しくなっていく律動に合わせて軋むベッド。
「ンッ、ガイッ」
切羽詰った声があがると同時に、背に覆いかぶさられ、きつく抱きしめられる。
身体の奥に熱いものが放たれて、過敏になった身体が震える。
それだけでシーツに擦られていた自身は呆気無く射精する。
力を失ってずるりとベッドにそのままゆっくりと倒れこむ。
相変わらずルークは背後から覆いかぶさったままで、引きぬく事すらしない。
肩口でポツリと「…ガイ」と小さく名を呼ばれるだけで、胸の奥がチクリと痛む。
愛しい人を呼ぶようなルークの声に、錯覚してしまいそうになる自分を叱咤する。
ルークの単なる性欲処理相手だぞ、俺は。
二人の汗でルークの腹と俺の背がぴたりとはりついている。体温を共有しているようで心地いい。
だけどいつまでもそうしている訳にはいかない。
「ルーク、どいてくれ。重い」
「……んだよ、いーだろ」
益々ぎゅっときつく抱きしめられて、どうしていいかわからなくなる。
「ルーク」
はあっとため息をつきながら、名を呼べば、しぶしぶという風にゆっくりと身体を離す。
左肩をあげ上半身を僅かに捻リあがら「…抜かないのか」と問いかけると、にっと笑って返される。
「このまま二回目やればいいだろ」
「お前なあ、二人きりの旅じゃないんだぞ」
あの抜け目ないマルクト軍人は俺達の関係は気づいているだろう、口にはしないだけで。
旅路に支障が出るなら何らかの苦言か釘刺しをおこなってくるだろう。
その事態はあまり好ましくない。
「俺がどんだけ我慢してたか知ってるだろ」
そういってまたのし掛かってくるルークを腕をのばして止めながら
「ここは屋敷じゃないし、ナタリア様の目もないんだから、女の子とやる機会なんていくらでもあっただろ」
そう言うと、翠の双眸を見開いて動きをとめる。
そして顔を赤くして思い切り怒鳴り返される。
「ば、バカッ!何言ってんだ。俺はガイと……っ」
怒鳴る途中で何かに気づいたのか、口をパクパクさせるが言葉にはしない。
うーっと呻くと、俺の腕を掴むとぐいっとシーツに押し付ける。
「とにかく!!俺がヤリたいんだ!!」
いつのまにか硬度を盛り返していた性器で、内部を激しく穿ち始める。
性急な行為に俺はあっさりと流される。揺さぶられながら、離れている間ルークが誰にも手を出していない事に安堵しながら。


************


幼少ルークとガイ


陽の光の下では俺は「ガイ・セシル」でいられる。

ベッドに入り込んで今日一日の出来事に想いを馳せる。
朝から顔を真っ青にさせて俺に助けを請うて、そしてその次には耳まで真っ赤にしたルーク。
午前の予定は性教育に全て変更され、部屋から出てきたルーク。
少しは大人になったのかと思えばまったくそんな事はなくて、木刀振り回しながら俺の背にかじりついて
「相手しろー」といつものように可愛い我儘を口にして。
そんな一つ一つの些細な事を思い出しては、くすりと口元が綻ぶ。
幸せで暖かな気持ちが胸をしめる。
明日は何をしてあいつの退屈病を慰めてやろうか。
そんな事を考えながら瞼を閉じる。
瞼の裏に浮かんだ赤が、ルークから、……ホドの赤へと変わる。
床には赤黒い血溜まりが。柱には飛沫した血が。遠くで放たれた炎の舌が。
様々な赤が俺の身体に入り込んで、呪詛を囁き続ける。
『赤く忌まわしい男の息子の息を止めて、復讐を為せ。ホドの生き残りよ。我らの無念を』
幻聴はどんどん大きくなり、それに支配される。

月明かりの下では俺は「ガイラルディア・ガラン・ガルディオス」になる。


**************


短髪ルークとガイ 

「す、好きだった。ずっと好きだった」
上ずった声で、顔を真赤にしてなにをいきなり言い出すのかと思えば、愛の告白だった。
ぎゅっと俺のシャツの袖を掴んで、見上げる翠の双眸は、口調の弱々しさとは違い強い意思の光を宿している。
「ガイの事、ち、ちっさい頃から好きだった。でも怖かった。嫌われたら、あの屋敷だと俺は逃げ場がないから。
だから、あんな酷い事した。ごめん。
本当は、ち、ちゃんと、考えてた。でもガイと、その、始めたら頭の中真っ白になって、ご、ごめん」
ルークの言葉に瞠目して言葉を返せないでいる俺に構わず、ルークは続ける。
「痛くして、ひどくしてごめん。素直になれなくて、優しくできなくてごめん。
もっと、謝りたいけど、でも、もっと伝えたいのは、俺はガイを好きだったって事。
愛してるって事。それだけは覚えておいて欲しい。俺がお前の事、愛してたって事を」
シャツにきつく皺がよる程に掴んでいるルークの拳は小刻みに震えている。
表情は悲壮感がただよいはじめ、告白というよりは、別れ話を切り出されているみたいだった。
だた瞳の強さだけは変わらなかった。
ゆっくりを腕をルークの背に回し、抱きしめる。
温かい。何度も何度も抱き合ったはずなのに、まるで初めて抱き合うような錯覚に陥る。
「俺もルークを愛してる」
その言葉に、腕の中でびくりと肩を揺らして、それから小さく「ありがとう」とルークは言葉を返す。
思いは通じ合ったはずなのにこんなにも苦しい。そしてこんなにも遠い。

なあ、ルーク。
なんで過去形で話そうとするんだ。まるで遺言みたいじゃないか。


**************


短髪ルークとガイ


のどかな村、エンゲーブ。
マルクトに飛ばされたルークが最初に立ち寄った村で、様々な騒動や出会いの発端となった場所。
シャワーを浴びながら処理も無事に終えて浴室の扉をあけると、シーツを頭から被ってしょんぼりと肩を落としたルークが目に留まる。
ため息ついて「なあ、ルーク。散歩にでもいかないか」と誘うと、ぱっと顔を輝かせてベッドから飛び降りる。
エンゲーブの外灯は最低限設置されているだけで、月明かりが乏しい今日は散歩にはあまり適してはいない。
「手を繋ごうか」
そう手を差し伸べると、ルークは一瞬固まって、それから笑って見せる。
「お前なー、俺はもう子供じゃないんだぞ」
「子供じゃない事をしてる関係だからこそ手をつなごうって言っているんだよ」
そう告げると、ルークは翠の双眸を不安そうに揺らめかせた。

知っている。
あの事件以来、あのジェイドがお前をひどく気遣っている事。
ティアがお前を見ている時、心配そうに目を細めている事。
手を両ポッケに差し入れながら歩くことが多くなった事。
それをナタリアに行儀悪いと窘められたら、俺より先にジェイドがさり気無くかばう事。
今までとは違って、セックスするときにシーツをかぶるようになった事。
呼吸するようにお前を包む光がゆっくりと点滅を繰り返す事で、透ける手や身体をお前が必死に隠している事。
それでも俺に触れていたいと願っている事。
知っているんだよ、お前の事ならなんでも。
今、俺がお前を酷く困らせている事も。

「なーんてな、冗談だ。気をつけて歩けよ」
手をおろすとルークに背を向けてゆっくり歩き出す。
声は震えなかっただろうか。
俺の後ろをついて歩く気配でほっと息をつく。
「虫の音が凄いな」
果樹園や田畑が村の大半をしめるエンゲーブだ。
「スズムシにコオロギ。秋の名物らしいぜ」
「へー。名物ねえ」
呆れを含みながらも、うるせーな、とは毒づかない。
すると、ぎゅっとベストの裾を掴まれる。
「……こけないように、ここつかんでる」
「ん…、そっか」
虫の音にかき消されそうな小さな声に、俺は頷く。
「夏前にきたら、あの川にホタルが飛び交うらしいぜ」
「へー、ホタルか」
「小さな淡い光が点滅しながら飛んでいくのは幻想的だからな、お前に見せたいよ」
「じゃ来年またここに来ようぜ」
「ん…そうだな。でもマルクト領だぞ」
「きっと来年はマルクトだのキムラスカだの言ってないさ」
たわいない会話。でも核心には触れない。そして当たり前のようにおとずれるように未来の話をする。
月明かりをたよりに、小さな村を歩いてまわる。
この裾が落ちないように、と願いながら。


************


赤毛二人帰還


信じていた。
頑ななまでに、「あいつはそう言ったんだ」と言い聞かせ続けてきた。
余計な雑音など微塵にも入れなかった。
不安で顔を曇らせるナタリアが「ガイは強いですわ」とこぼした時も上手に笑い慰めることができた。
ふと気を緩めれば闇の触手が俺を捉える事がわかっていたから、付け入る隙も与えぬほどに強く強く、それだけを信じていた。

そして月光の下―――



首に巻かれた腕と、背にぴったり張り付いた身体と、肩から溢れる長い赤い髪が仕事の邪魔をする。
「伯爵様の仕事はいつ終わるんデスかー」
放っておいたら幼い頃のように肩を揺さぶられそうな勢いなので、書類に目を走らせながら
「ファブレ子爵様が邪魔しなければ早くおわりマスよー」
と返す。
背後から俺をきつく抱きしめているルークの不満そうなため息が、俺の髪を揺らす。
その時扉が叩かれて、ペールが二人分のお茶を運んできた。
べったりとおんぶおばけのように張り付いたルークの姿は屋敷の人間からすれば見慣れた光景なので、誰も驚きはしない。
長い付き合いのペールは逆に目をますます細めて、微笑ましそうな表情を浮かべるほどだ。

二人が帰還した後、キムラスカに帰還、再会をひとしきり喜んだ後、ファブレ公爵家でジェイドが夫妻に
「大爆発はもう起こりえないとは思いますが、用心のためルークはマルクトに身を寄せた方がよいでしょう」と提案した。
ルークを形成する音素の解明と、その安定度などを検査しなければ、仮にオリジナルであるアッシュと同位体のままであるとまた「引き寄せられる」と説明をした。
ジェイドの言うことは尤もではあるが、帰りを長く待ちわびていたファブレ夫妻はなかなか首を縦にはふれずにいた。だが、ナタリアがうまく間に入ってくれた。
三ヶ月程ルークがこちらに身を寄せ、その後、三ヶ月アッシュがこちらに身を寄せる事となっている。
二人の音素も調べ経過をみて、その上で危惧するような事が起きないとわかればキムラスカにもどる事となる。
そして現在、ルークが身を寄せる先は当然俺の屋敷で、こうして元気に俺の邪魔に精を出している。
退室したペールの茶を口に運びながらルークが
「ガイがまだ仕事残ってるなら、ブウサギの散歩俺がいってきてやろうか」
と提案する。
昔は陛下の姿をみただけで全身に緊張をみなぎらせていた程苦手だったのだが、帰還してから一皮も二皮も剥けたのか陛下の奔放さに時々目を丸くすることはあるが、良好な関係を築いている。
世間と乖離されて7年。それから一年で世界を飛び回り様々な事を学んだとはいえ、ルークはまだ世間知らずなところがある。
そこをおもしろがって、陛下が色々吹き込んだりするのが困り物ではある。なにせ吹き込む内容が……
「お前の姿をみると、陛下がサボるいい口実ができたと歓迎するだろうから却下」
「えー、俺、この前の講習の続き受けたいんだよ」
「あの講習はもういい。聞く必要はないぞ」
「んな事ないだろ。ガイ悦んでたじゃないか」
「……っ」
思わず言葉につまる。い、いや、ここで流されたら終わりだぞ。
「それに、聞いたぞ。お前、社交界じゃ貴族の娘キラーの異名をとってたんだってな」
余計なことを、あの口の軽い皇帝め、いやこの場合は眼鏡だろうか。
「とってない。歳若い伯爵ってのが珍しいから寄ってくるだけで、彼女たちも本気じゃないさ」
「どーだか。……ガイさ、女性恐怖症治ったんなら、その、この、えー、二年間で」
言い淀むルークに、ふと思い出した事を口にする。
「お前がマルクトに飛ばされて再会したあと覚えてるか?あの時「俺はガイとじゃなきゃやらねえよ」って言いそうになったんだろ」
あの時の事を思い出したのか、顔を髪のように真赤に染め上げて「あ、あれ、は、その、…、……ま、その通り、だけど」ともじもじしている。
「じゃ俺も同じだ。お前とじゃなきゃやらないよ」
その言葉を受けると、椅子から勢い良く立ち上がる。
そのまま軽くキスをすると「やっぱ俺散歩行って来てやる。そうしたら早く二人の時間過ごせるだろ。色々期待してろよ」と言葉を残して扉の向こうに消えていった。
期待ねえ、と小さくその扉にひとりごちてから、また執務机に向かう。
緩んでいる口元をなんとか抑えながら。


陽光の下でも、月光の下でも、俺はずっと俺でいられる。
それは、ルーク、お前がいるから。





書きたいシーンだけを書きなぐったので、色々おかしな部分あります。申し訳ないです


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