小話 公爵×ガイ 新婚パラレル 母上がなくなって15年。 ある日、父上が「新しい母を連れてきた。どうだ、シュザンヌに似ているだろう」と若い男を連れてきた。 後から年齢を聞くと、21歳の大学生で俺たちとそう年も変わらない。 「……父上、性別も、髪の色も目の色も、顔立ちも何もかも母上に似ていませんが」とアッシュが口元を引き攣らせて抗議を口にする。 「何を言う。目と耳は二つだし、鼻も一つだ。口も一つだ。何もかもそっくりだろう」 必死に怒りを抑えているアッシュの肩は小刻みに震えている。爆発一歩手前だ。 「やあ、よろしく、ガイです。君たちのお父さんには大変お世話になってね。 無理やり手篭めにされて二日ベッドから起き上がれない生活を余儀なくされました。 慰謝料を請求したら、遺産やるから結婚してくれと土下座されたので、早く死ねと毎日呪いながら暮らす事にしました。 それと、うっかり毒を盛る可能性があるから、お父さんの食事や飲み物には手をつけちゃ絶対ダメだからね」 と爽やかな笑顔でガイが物騒な挨拶をした瞬間、アッシュの怒りが爆発した。 「屑がっ!!!」 そのまま家を飛び出してしまった。 剣道の師匠の所に身を寄せているらしい。学校で顔を合わせると「俺のことは忘れろ」と家に寄り付きもしない。 玄関をあけると、何かいい匂いがする。 俺のカバンを受け取ったメイドにそれとなく尋ねると、「ガイ様が台所に立たれています」と答えてくれた。 大学生の彼が、父上の……その…妻になったとしても、家事全般はすべてメイド達やコックの仕事だから、そんな必要はない。 興味を持って、台所に向かうと、「お、丁度いい所にきたな。はい、これ」と小さなフォンダンショコラを手渡してくれた。 「バレンタインだからな」と爽やかに笑顔を向けてくるガイに、俺も素直に受け取る。 「ありがと。あ、もうひとつのは父上の?」と尋ねる。 テーブルにはもう一つ同じ大きさのショコラが残っている。 「いや、あれはアッシュの分。悪いけど、明日学校で渡してくれないか」 ……父上のはないらしい。 俺がガイから手作りのものをもらったとわかると、色々と煩わしい事になる。 素早くアッシュの分も受け取って部屋に戻ろうとした時、タイミング悪く父上と鉢合わせる。 チラリと視線を俺の持っているものに走らせる。 それからガイに物欲しげな視線を無言で送っている。 ああ、すげえ、気まずい。 だが、ガイは強い。にっこりと人好きのする笑顔で 「旦那様の分はありませんよ」ときっぱりと言い放った。 あああああ、今、空気が凍った。父上の顔には出ていないけど、絶望オーラがにじみでている! 「……あ、落とした、ガイ、拾いなさい」 すると父上は、懐から高級そうな包装紙に包まれた四角い箱を取り出して、わざとらしく床に落として棒読みで命令する。 父上の意図が俺にもガイにも読めず、互いに顔を見合わせたが、素直にガイは従う。 「はい、どうぞ、旦那様」 コクリと頷いて受け取ると、ボソリと「これでガイからチョコを受け取った事になったな」と呟く。 ちょ、ちょ、ちょっと父上があまりに惨めで可哀想なんですけど!!もう俺はいいから、父上にチョコやってよ!と心の叫びを目に乗せてでガイを見上げる。 俺の視線を受けて、仕方ないなあ、と髪を掻く。 彼のこの仕草が癖だと言う事がつい最近わかった。あと、俺の縋るような目に弱い事も。 「旦那様、ちょっとよろしいですか」と父上の腕を掴んで居間へと移動する。 一人がけのソファに父上の身を沈めさせると、その膝の上に横向きに座って、先程父上に渡した包装紙を豪快に破る。 包装紙から出てきた箱は有名パティシエの店名が金色に刻印されている。 無造作に開けると、中のチョコを一つ摘まんで「はい、どうぞ」と父上の口に寄せる。 うむ、と幸せそうな表情でそれを食べている。 嚥下すると、また一つガイがチョコを口に運んでやっている。 「シャンパンか何か持ってきましょうか」と尋ねると、「いやいい」と、逃げないようになのかガイの腰に腕を回している。 仕方ないなという諦め顔をしながらも、ガイは父上にチョコを食べさせてやった。 これはこれで上手く行っているんじゃないかな。…たぶん。 終 パラレル設定なら男で結婚だって出来る! という馬鹿馬鹿しい設定の、現代パラレル小話 公爵がパパ ガイが新しいママ アッシュとルークが双子というなんちゃってほのぼの家族話です。 ちなみにほのぼのと銘打ってますが、パパとママの関係はかなり殺伐としています。 つーか、ガイが公爵に常時殺意フルスロットル。ルークとアッシュには優しくよい兄貴分…じゃないよいママです。 ガイは途中から動物に餌付けをしている気持ち。 アッシュが怒って家出したのは、父親に対しての怒り。ガイに対しては気の毒でたまらないという感じ。 小話TOPに戻る |