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小話
ガイ 誕生日 ヴァンガイ
※喫茶店パロのヴァンガイ

「今日はお前は何もしなくていい。座っておけ」
ヴァンの言葉に、一瞬きょとんとして、それから苦笑いを浮かべる。
「おいおい、オーナー様が立っているのに、バイトの俺が座ってのんびりするのはマズイだろ」
「構わん。咎める者など居合わせておるまい」
閉店後の喫茶店に居るのは、ヴァンとガイだけだ。
二人は喫茶店のオーナーとバイトという関係でもあり、短い間ではあったが幼い頃に親しくしていた間柄である。
水曜日が店休日の喫茶店の前夜、二人だけで店に残り、遅くなるまでたわいもない会話をしながら、ヴァンのいれたコーヒーを飲むのが習慣になっていた。
人に命令する事になれきったヴァンの言葉に、抵抗しても無駄だとわかっているガイはカウンターの椅子に腰をおろす。
カウンター内にたったヴァンは手際よくシャツの袖を捲ると、小さな鍋を取り出して何かを始めだした。
いつもはミルで豆を挽くことから始まるのだが、今日は様子が違う。
だが尋ねたとしても、ヴァンが素直に答える性格でない事は、この一ヶ月程でガイは思い知っている。
黙って座っているのは居心地も悪いので「なあ、この前の事考えてくれたか?」と軽く話を振ってみる。
店長であるペールが「オーナーのお部屋からみる夜景は一見の価値がありますよ。一度お願いしてみては」とガイに吹き込んだ。そして素直にガイがヴァンに頼み込んだ。
その言葉をうけたヴァンは呆けた顔をして、ピシリと固まった。
あれ、図々しかったかな、と思い慌てて話を変えて「なかった事」にした。だが、店長のペールは「心の準備が必要だったのでしょう」とにこにこ笑ってみせた。
心の準備…もしかして部屋がめっちゃ汚いとか、か?
独身男の一人暮らし。大学の友人の一人は、まさに足の踏み場もないと形容するのがピッタリな程に散らかしまくっている。
ヴァンはきれい好きそうだけどなあ、いや、案外ああいうタイプが床が見えなくなるまで汚すのかもしれない。
ペールの言葉を違う方にとらえたガイは一人納得していた。
だからこそ、今日、再度お願いをしてみたのだ。
この前と同じように一瞬、動きをとめて、ヴァンはガイをじっと見詰める。
その眼力の強さに思わず吸い寄せられそうになるのをガイは感じていた。
「……ふむ。そうだな」
そう言葉をかえすと、それきり黙りこむ。
そうだなって、事は前向きに検討しますって解釈でいいんだろうか、とガイが思い悩んでいると、甘い匂いが漂ってくる。
あれ、この匂いは。
ガイの表情を読み取ったヴァンが口元をわずかに綻ばせる。
目の前に置かれたのは、チョコレートドリンクであった。
「え?」
それから何かゴソゴソとした後に、皿にショートケーキをのせて差し出される。
「今度の金曜日が誕生日だったな」
「え、お、覚えてたのか?」
「ああ」
10年も前の、わずかに遊んだだけの年下の少年の誕生日まで記憶しているとは、恐れ入る。
マメな男なんだろうな、とヴァンの謎に包まれた普段の私生活に思いを馳せて小さく笑う。
「ありがたくいただくよ」
久々に飲んだチョコレートドリンクは、彼の祖父がいれたものと違わぬほどに美味しいものであった。
押し付けがましくない甘さは、懐かしかった。
糖分がゆっくりと身体の疲れをとりはらってくれるようだった。
「美味しい」
自然に笑顔がうかんでくる。それを受け、ヴァンも目を細めて笑う。
「金曜日」
「ん?」
「金曜日に用事がなければ、夜景をみに私の部屋に来ないか」




誕生日にガイを食うつもり満々のヴァン

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