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小話
ガイ 誕生日 PTメンバー
ガイが扉のノブを握った瞬間、嫌な予感が足元からじわりと這い上がってくるのを感じた。
ノブに手をかけたまま動かないガイの後ろからティアが「どうしたの?」と声をかけてくる。
首だけそちらに向けて「いや、その、嫌な予感が」とぽつりと零すと、ティアが軍人らしく即座に緊張を漲らせる。
「あ、そういうわけじゃなく…」
慌てて訂正するガイに、ジェイドがにこやかで爽やかで輝く大層胡散臭い笑顔を向けてくる。
「ガーイ、どうしました。早くドアを開けましょうよ」
そのきらきらっぷりと対照的に、ガイはげんなりとした表情で
「旦那、何を煽った」
と、少し語気をきつくして尋ねた。
「あおるー?さーて何のことでしょうかね。なにせ年寄りは物忘れが激しくて」
はあっと聞こえがしなため息とともに、肩を自らのこぶしでとんとんとたたき始めた。
聡いアニスが「ああ、そっか」と事情を察知し胸のうちで納得したようで、お気の毒様という視線をガイに送る。
よし、と腹を括って扉をあけると、「誕生日おめでとう」「お誕生日おめでとう、ガイ」と一斉に声がかかり
クラッカーのパアンという弾ける音と共に、紙吹雪が放物線を描きながらガイの頭に降り落ちてくる。
ルークとナタリアがクラッカーを手にして、満面の笑みを向けてきている。
そして不自然に彼らの身体で背後にあるものを隠している。
ガイが先ほどから抱いている嫌な予感の要因は間違いなく、ソレ、であった。

数日前から、ルークとナタリアが暇さえあれば、ヒソヒソと顔を付き合わせて何か話し込むことが多くなった。
何か悩み事や困っていることがあるのなら、と相談にのろうとするガイを「ガイはこっちにくんな」とあからさまな拒絶をされた。
その行動は、ガイのために何か計画しています、と拡声器でふれまわっているようなものだ。
その輪に、ジェイドがいつの間にか加わった時から、ガイは軽く未来に絶望していた。
オブザーバーたてるなら、常識的で清廉で真面目で慈愛に溢れた人を選んで欲しかった、と。
そんなガイの心情に気づくことのない、幼馴染二人は一度視線をかわすと、背後に隠していた、ソレ、をガイにむかって差し出す。
「そして、これは、わたくしたちで作りましたの」
「一生懸命作ったからな、残さず食えよ」
そういって差し出してきたのは、おそらく…ケーキ、であった。
背後でアニスが小声で「うわー。あの二人の手作りケーキ食べるなんて、それってどんな拷問」とつぶやきがガイの耳に届いた。
「ろうそくをたてようと考えましたのに、何故か全て横に倒れてしまいましたの」
心底不思議そうに小首を傾げるナタリアに「そりゃこんなにドロドロに溶けた生クリームの上には何も立たないよ」と親切に教えてやる者はいなかった。
「さ、主役が突ったったまんまだと様にならないだろ。ほら、座って食べろよ。それ全部ガイのだからな」
キラキラと期待に目を輝かせて、宿の小さな卓の椅子をルークは引いて待っている。背中に突き刺さるアニスとティアの同情の視線を受けながら、よろめきながらルークのもとに歩く。
卓の上に置かれたケーキらしきものに、フォークをいれる。
生クリームのしたのスポンジはなんの弾力もなく、あっさりフォークが皿にあたってカツンと音をたてる。
「本当は音機関プレゼントしようと考えてたんだけどさ、ジェイドが『こういう時は手作りですよ』ってアドバイスしてくれてさ」
思わず恨みの篭った視線をジェイドに向けるが、本人は全く気にした様子もなく、いつもの笑顔を浮かべている。
誕生日なんだがな、と内心でため息をついてから、フォークからこぼれ落ちそうになるスポンジとクリームをぱくりと全て口にいれる。
ぎゅっと目をつむり、数秒後に襲ってくるであろう衝撃に構える。
……
………
………あ、れ。
「うまい」
一瞬でルークとナタリアは喜色に顔を染め上げる。喜ぶ二人の耳に「え、マジ?」と驚くアニスの言葉さえ耳に入っていないようだ。
確かに見てくれはかなり悪いが、味は悪くない。いや、かなりの大味にはなっているが、素朴でガイの嫌いな味ではなかった。
恐る恐るの一口目と違い、二口目からは普通に口に運ぶガイをみて、ナタリアが嬉しそうにとんでもない事を言い出す。
「本当はお魚のケーキを作ろうと考えておりましたのよ」
思わず咽そうになるのを、なんとか嚥下してやりすごして、空耳かとナタリアをまじまじと見つめる。
「マグロのペーストを間にいれたほうがよろしいのか、それとも海老のペーストでコーティングした方がお好きかしら、とルークと毎日意見を交わしておりましたの」
ぞっと背筋に悪寒が走った。なんて恐ろしい事を考えつくんだ。嫌がらせではなく、混じり気なしの善意だからこそ怖い。
「ジェイドがそれはやめとけっていうから、ジェイドのレシピ通りに作ったんだけどさ。な、本当は魚ケーキ食べたいんじゃないか?」
ルークの言葉に、笑顔が引きつらないように最大限の努力をはらう。
「いや、一生懸命につくってくれたこのケーキが最高だよ」
その言葉に気を良くして嬉しそうに互いの成果を讃え合う二人に見つからないように、こっそりとジェイドにむけて手を合わせる。
貸しにしておきます、と意味ありげな笑顔を向けてきたが、聞こえないふりに徹する事にした。




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