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小話
お風呂
蛇口から出る湯の勢いはよく、見る見るうちに白い泡がもこもこと立ってくる。
同時に浴室を花の香りで満たしていく。
さっさと湯船に身を沈めた男に、ガイはしばし逡巡してから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「もしかして、これに入れってことか」
これ、と浴槽を指し示すと、ジェイドは眼鏡を外し常人離れした美貌を晒しながらにこりと笑う。
「何かご不満でも?」
「いや、不満というか」
癖である頭を軽く掻きながら、どう説明したものかと考えを巡らせる。
風呂場はたいそう広い。それに比例してなのか、浴槽もかなり広い。
とはいえ、長身のジェイドが身を沈めて足をのばすと、足首から先が浴槽からはみ出してしまってはいるのだが。
それでも普段宿泊している宿の浴槽に比べればかなりの大きさである。
風呂に共に入ったことは、それは片手では足らないほどではあるが、これはさすがに…とガイは胸の内で絶句する。
もこもこと体積を増していく泡の頃合いをみて、ジェイドが蛇口を締める。
「さ、完成ですよ」
にこり、と極上の笑顔をガイに向けている。長い髪はバレッタで上で一纏めにされている。
湯けむり詐欺、という言葉が頭を掠める。
そしてガイは誰よりもジェイドという男を理解している。こういう時のジェイドにどんな言葉を重ねても無駄だという事を。
泡で浴槽内が見えないため、ジェイドを踏みつけないか冷や冷やしながら片足をいれる。
ジェイドに向き合う形でゆっくりと身を沈めると
「おや、そちらですか」とすかさず声がかかる。
正面きって顔を見ることもできず視線を落として泡をじっと見つめる。
「恥ずかしいだ……うわっ、ちょ、な、な、っつ!!!」
ざばりっと音を立てて浴槽から立ち上がり、ガイは顔を真赤にしてジェイドに抗議のまなざしで見下ろす。
この男が手の指だけでなく、足の指も器用に、そして色んな意味で的確に細やかに動く事をガイはその身をもって知ったのだ。
「ほら、こちらに来て下さい。折角ですからスキンシップしましょう」
何が折角なんだ。スキンシップなら散々さっきやっただろう、と喉元まであった言葉は紡ぐことはなく
泡がところどころについた差し伸ばされた手をとる。
ゆっくりと引き寄せられる腕に従い、身体を再び泡だらけの湯に浸す。
先ほどと違うのは、向き合う形ではなく、寄り添うように身体を重ねている。
ジェイドの鎖骨あたりに顔を寄せていたガイが、ふとジェイドの右腕を掴むと前腕を凝視しながら撫で回す。
「ガーイ」
呆れを含んだ声で名をよばれ、はっと我に返るがそれでも腕は掴んだままだ。
「悪い悪い。つい、な」
裸で触れ合うような関係になってから、コンタミネーション現象により槍を収納させている右腕をガイが熱心に撫で回すのは習慣になっている。
「それにこういうのもスキンシップだろ」
そう言い返すガイに、ジェイドは笑う。
「あなたにそのように情熱的に見つめられ、撫でられる我が右腕に嫉妬してしまいそうですよ」
「よ、くいうよ」と返す言葉は、顔に一気に集まった熱のせいで、舌がもつれてつっかえてしまった。
本心ですけどねえ、とくすくす笑われ、ガイはジェイドの腕をゆっくり離す。
ぬるめの湯と、花の香りに満ちた泡と、触れる体温で、ゆるゆるとガイの心が弛緩してくる。
今日起こった騒動により張り詰めていた心がゆるむと、先程の行為後の身体を覆う適度な疲労感がガイの瞼を重くする。
「眠くなりましたか?」
と穏やかな声で問われる。濡れた綺麗な指がガイの額にかかった髪をゆっくりとはらう。
ジェイドの言葉にガイは小さく首を左右に振る。ガイの髪に差し入れられた指は梳くように耳の後ろへと移動すると、そのまま耳朶に触れる。
ふにふにと耳朶の柔らかな部分を捏ね回すジェイドの手をガイは掴む。
「くすぐったい」
あげる抗議の声は甘えを多く含んでいる。
「では」
触れるだけの口づけを落として
「こちらなら?」
と問う声に、ガイは少し首をのばして、キスを返すことで答える。

重ねるだけのキスを何度も繰り返して、甘美な触れ合いに二人は酔いしれる。





フリリク第二弾でショウ様からいただいたJGが、えろす部分があまりにあっさりしていたので
よーし、蛇足的にお風呂えろす書いちゃうぞ!と意気込んでみたのはいいのですが
全くえろすにならなかったという……
お風呂でイチャイチャ?もしてないJGです。


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