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小話
トリック・オア・トリート
※捏造ED設定(二人生還) ルークとガイは絶賛遠距離恋愛中



おかし?それともいたずら?

扉をあけると、思い思いの衣装に身を包んだ子供たちが一斉に「トリック・オア・トリート!」と大きく声をあげる。
その元気のよさに若い伯爵様は、眉尻をさげてにこにこ笑ってお菓子を差し出す。
「まだまわるつもりかい?」
「ううん、ここで最後ー」
「そっか、なら良かった。もう遅いから気をつけて帰るんだぞ」
はーい、と元気よく返事をしてお菓子を手に駈け出した子供たちの姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。
自分で扉を閉めると、傍らで立っていたペールが笑って「用意していたお菓子はすべて無くなりましたぞ」と袋を逆さにしてふってみせる。
「あの子たちが最後だろ」
時計に目を走らせると、イベント終了時刻はとうに過ぎている。
「多めに用意したつもりでしたが。ガイラルディア様が思いのほか人気者で参りましたな」
「思いのほかってなんだ」
笑って言葉を返すが、ガイもペールの軽口に隠された意図は理解している。
世界を救った英雄の一人とされながらも、マルクトには身を寄せずキムラスカに潜伏していた若き伯爵を、熱烈に受け入れる者がいる一方で、忌避するする者も一定数は存在する。
こちらに戻ってきた最初の年のイベントなど、訪ねてくる子供たちは遠巻きに怖ず怖ずといった様子で、お菓子を受け取ると皆蜘蛛の子を散らすように逃げていったものだ。
だが時を重ねていけば、ガイの人となりは周知され、存在は許容されていく。イベントを重ねていくごとに、ガイはそれを体感する。
去年はお菓子を渡す時に、妖精の恰好をした女の子の口から「私をお嫁さんにしてもいいのよ」と、とある少女を思い出すような申し出まで飛び出すほどであった。
今年はさすがに逆プロポーズこそなかったものの、複数の女の子から手紙を受け取る事態になった。

「何か温かい飲み物を用意させましょうか」
「ああ、いいな。ペールも身体が冷えただろう」
会話をかわしながら扉から離れた時、ドンドンと叩く音が耳に入る。
二人は顔を見合わせる。その音は子どもが立てるにしては位置が高く、そして大きい。
客人?こんな時間に?
警戒の色を濃くし、一瞬にして「人のよい伯爵様」から隙のない剣士の顔へと変貌を遂げたが、それは次の瞬間霧散する。
「トリック・オア・トリート」
重厚な扉の向こうから聞こえる声は、聞き覚えがありすぎるものであった。
素早く扉に駆け寄り、勢い良く開けるとそこには赤い髪を黒いフードで覆い被した青年がたっている。
「ルーク、お前、なんでここにっ」
「トリック・オア・トリート!!」
「……悪い、何も無い」
その言葉を受けて、ルークはにっと笑う。たくらみの香りのする笑顔だ。
「じゃあ、いたずらだな!!お前のコレクションにいたずらしてやる!!」
言い終わらないうちに、ルークはもう駆け出していた。ガイの私室に向かって。
「うわあああ、よせ、やめろ」
慌ててガイも後を追う。バタバタと広い屋敷を子供のように駆けまわる二人の姿に、メイド達が呆然とした表情を浮かべている。
その彼女たちに、コホンとひとつ咳払いをペールはすると「客人とガイラルディア様に何か温かい飲み物を」と言いつけた。


なんとか秘蔵の音機関コレクションを死守したガイと、真っ黒なフードを脱いだルークは、ガイの私室で紅茶を共に口に運んでいた。
「こんな夜にアルビオールを飛ばしたのか?」
「まさか。昼にはマルクト入りしてた」
なら早く顔をみせればいいのに、と思わず口にしたガイに、ルークは目を細め、にかっと白い歯を見せて笑う。
「お前の驚く顔が見たかった。だからジェイドにも口止めしてたんだ」
ああ、だから。
夕刻顔を突き合わせた時に「よいハロウィンを」と、妙ににこやかな笑顔を見せた理由をガイは理解した。
「屋敷前にいつから居たんだ」
胸のあたりまで伸びた赤い髪を一房手に取る。部屋にはいってもなおまだひんやりと冷気を含んだままで、長く外にいた証となっている
「屋敷前ってわけじゃない。子供たちが楽しそうに家を廻っているから、護衛としてくっついて廻ってた」
「そうか」
驚きと成長が垣間見えて安堵の思い、そしてそれ以外に何か。それが交錯し胸がつかえるようで、ガイは息をこぼしてやり過ごす。
ルークは自分より幼い存在と触れ合わずに長く暮らしてきたせいか、幼い子供をどう扱ってよいのか判らないため苦手意識が存在している。
その事をルークは口にした事はないが、ガイはそれを察知していた。
世界に触れていくにつれて、内面は大きく変化を遂げていった。それでも共に旅をしている時には、積極的に子供に声をかける事はしなかったのだ。
自分の知らない所で成長している。そんなルークの変化は嬉しい。だけど寂しい。
なんとも独占欲の強いわがままな考えだ、とガイは自嘲する。
「なあ、ガイ。お前、ハロウィンは体験した事あるのか」
急に問いかけられ、素直にガイは答える。
「4歳の頃、フェンデ家とペールのナイマッハ家だけ廻ってから家路についたな。姉上がホットミルクとお菓子を用意してくれていたのは覚えているよ」
誰と、とはガイは言わないし、ルークも深くは聞かなかった。
「それが最初で最後だったな」
翌年になればガイは故郷を失うことになり、その後は深く心を閉ざして復讐の念だけで生きようとした彼に行事を楽しむ余裕など残されていなかった。
「アッシュはやんなかったのかな」
「あのアッシュが、ああいう風に他の子供をまじって子供らしくはしゃぐような真似したがると思うか?」
逆に聞き返され、ルークは、玄関で自分を見送ったアッシュとの今朝のやりとりが脳裏に浮かんだ。
相変わらず眉間に皺を深く刻んでは「いいか、ファブレの名に泥をぬるなよ。人前であいつとベタベタしてみろ、アルビオールの使用許可を今後一切下ろさないからな」とギャンギャン噛み付くように言われた。
そんなアッシュが子供らしく仮装して「トリック・オア・トリート」と言って回る、お菓子をもらってはしゃぐ、どれもこれもありえなさ過ぎて、笑いの衝動がルークに起こる。
「ありえねえ」
ぷぷぷっと堪えきれずに笑い出すと、ガイもうんうんと頷いてみせる。
「お前は一度も経験してないし。どうだ、来年は一緒に廻るか」
ガイの言葉にルークは数度瞬きをする。
「は?」
「だからハロウィン」
「成人男性二人が仮装してお菓子をねだりに廻るのか?俺、不審者として通報されたくないぞ」
マルクトで職務質問されて、なんて答えればいいんだ。えーと、名前はルーク・フォン・ファブレです。一応キムラスカの子爵ですって素直に答えるのか。
アッシュの血管がブチ切れて、でもあいつ絶対ガイには文句言えないもんだから俺だけに「キサマ、二度とマルクトの土を踏むな」と叱り倒すに違いない。
映像、音声付きで想像して憂鬱になったルークに、ガイはにやりと笑ってみせる。
「廻る先にアテは一つある。あの家は菓子なんて用意していないだろうし。思う存分いたずら出来るぞ」
「……ジェイドの家だな」
そうだ、とガイが答えると、ルークは半目でガイを見据える。
「ジェイドは菓子は用意しないけど、対不審者用の譜陣をあちこちに張り巡らせているぞ」
「そこを突破するのが面白いだろ」
ガイらしからぬ提案に「ガイ、お前、マルクトで鬱屈したもの抱えてんだなあ」とルークが労りの視線を寄せながら口にすると、ガイはうっと呻くと、がっくり肩を落として深く息を吐く。
「今日は陛下のお戯れで変なカチューシャつけられブウサギの散歩させられた」
イベントだから、という訳の分からない理屈で、ガイの意思など当然無視である。一度言い出したらそれが通るまで粘り続ける。それこそ時には外聞もかなぐり捨ててでも貫き通す。
そんなピオニー相手に、ガイの抵抗などたわいもないものだ。
こんな屈辱的な恰好から早く逃れたくて足早に、そして視線を誰にも合わせたくなくて下を向いたまま散歩させていると、進路を阻むように立ったままの軍靴を目に据えた。
おそるおそる顔をあげると、ジェイドがキラキラと輝く満面の笑みを浮かべて「あなたも大変ですねえ」と微塵にも思っていないいたわりの言葉を口にする。
よりにもよって一番会いたくないヤツに!とガイが声にならぬ悲鳴をあげていると、軍服のポッケに常に差し込まれた手をゆっくり取り出す。
そしてガイの目の高さにソレを掲げる。そこには。最新式のカメラがあった。
昼間の出来事を思い出して、手で顔を覆って、深く深くガイは息を吐いた。あれは絶対待ち構えていたんだ。違いない。
「あー、そりゃ気の毒に」
あの二人にとってガイはさぞかしからかいがあるだろう。
いや、あの二人にかかればどんな人物だってからかいがあるな、とピオニーに妙に気に入られて顔をつき合わせる度にあれこれちょっかいをかけられているルークもつられるように息を吐く。
そしてふと、ジェイドの屋敷にいたずら特攻か、悪くないな、という思いも沸き上がってくる。
ジェイドはどんな顔をするだろうか。驚愕にあの赤い目を見開くか。いや、絶対予測はしているはずだ。その上で俺達がどこまでやるのかを観察者兼保護者の視線で楽しげに見ているはずだ。
考えただけでもわくわくしてくる。
幼少時代、あの子供たちのようにイベントを満喫した事など一度もない。大人になって楽しんでもいいはずだ。大人になっても、にこにこ笑ってガイとたまには馬鹿やってもいいはずだ。
そう考えたルークが「……悪くないよな」言葉を漏らすと、ガイも我が意を得たりとばかりに身を乗り出す。
「だろ。もう少しお前はハメ外してもいいさ」
と、ガイは笑ってルークの赤い髪に指を差し入れて、ぐしゃぐしゃと掻き乱す。
やめろよ、と口では言いながらも、身をひくこともせずにガイのなすがままだ。
ガイも同じ事を考えていた、それが素直にルークは嬉しい。
来年は二人で仮装して、悪の帝王ジェイドの家に特攻かけてやろう。
「何の仮装がいいかな。俺、今日は何も用意してなくて、これジェイドに借りたんだ」
やはり。真っ黒なフードつきマントを常備して気軽に貸し出せるのはジェイドくらいなものだろう、とガイは推測はしていた。案の定だった。
「来年まで時間はあるさ、ゆっくり考えておけよ」
「だな。ガイはもう決まってていいよなー」
「……ん?」
「ネコミミ。陛下から貰ったんだろ」
「お前っ!だ、だれから、あ、あの鬼畜眼鏡からかっ」
動揺して思わず椅子から立ち上がって慌てふためいているガイに、余裕の視線をルークは送る。
「付けてみせてくれよ。陛下とジェイドには見せて俺には見せてくれない気かよ」
「だっ、あのな、いいか、俺の年齢考えてみろ。みっともないだろ」
「大丈夫、可愛かったって陛下もジェイドも俺に言ってた」
「あいつらの言う事を真に受けるなーっ」
「それにさー」
ルークも同じように椅子から立ち上がる。ガイを下から見上げる双眸はキラキラと期待で輝いている。
「ハロウィンの夜、大人はコスプレHするんだろ」
ルークの言葉にガイは固まる。
からかうわけでも、茶化すわけでもなく、ルークは真剣だ。真剣に期待をガイに寄せているのだ。
誰がルークにソレを吹き込んだのか、ガイは容易に予想できる。脳裏に悪い大人二人がニヤニヤと面白がっている姿が浮かんでくる。
「すんげえ燃えるって言ってたぞ」
ああ、それ言ったのはあの皇帝だな。余計な事ばかりルークに吹き込んで。
「なー、ネコミミー出せよ」
「ない。捨てた」
「陛下から賜ったものを?」
「あー、綺麗サッパリ捨てた」
そんなわけない事はルークは承知している。だけど、ガイの頑なな態度にこれ以上言葉を重ねても無駄な事も知っている。
がさがさとマントをさぐると、じゃーん、と陽気な効果音を自分で口にしながらルークはガイに差し出す。
「陛下から貰った、『ガイラルディアは捨てたって言い張るからな』って言ってたぞ。お前読まれてるよな」
そこには昼間押し付けられたネコミミに、何故か尻尾に、首輪まである。
「夜バージョンだって」
ひやりと冷たいものが背に走った。
「あと、『明日はブウサキの散歩は他のヤツにまかせるからゆーっくりな』だって」
「ルーク…くん。本気?」
「本気。それに「いたずら」まだしてないしな」
にーっと笑うルークに、どう言葉を重ねれば引いてくれるのか、ガイは頭を必死で働かせる。
だが、きっと流される。
この笑顔に勝てた試しなどないのだから。





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