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小話
公爵とシュザンヌ様

リクエスト公爵ガイ話以前の話 
公爵とシュザンヌ様しか出てきません
エロなし
オリジナルBL読まないので、色々間違った知識をシュザンヌ様に語らせています


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「旦那様は愛人を持つ気はございませんの?」
無邪気なシュザンヌが、小首をかしげながら、突拍子も無い事を尋ねてきた。

ズキリと頭が重く痛むのを感じた。
また何に影響されたというのだ。少し前はハーレクインにハマったようで「砂漠の王子様に一度お会いしたいですわ」と懇願され、オールドランドには国はキムラスカとマルクトしか存在しない事を、懇々と説明をした。
それでも納得のいかない様子で「おかしいですわ。褐色の肌に白い布をまいた王子様が、金髪美少年を奴隷市場から買い取って后にするというお話が沢山ございますのに」と話していた。
その時、「金髪美少年?」と疑問は湧いたが、すぐさま「美少女」か「美女」と聞き違えたのだろうと己を納得させた。
そもそもこのご時世に奴隷市場など存在しない。
その事も懇切丁寧に説明を施すと「まあ、では、亡国の王子が奴隷市場に競りに出されることはございませんの。それを史上最高値で買い取る王子は存在しませんの」と嘆いていた。
王子の大安売りだな、と思ったがそれは胸の内だけで留めておいた。
ただ、それからというもの、シュザンヌのプライベートスペースに、多くの本が積まれるようにはなった。病弱で床に伏せることが多い彼女だ。昔から本はよく読んでいた。
だが、その新たに増えていく本は異質であった。一冊一冊がかなり薄いのだ。
あれではすぐ読み終えてしまうだろうに、と考えていたが、同じ本をなんどもなんども読み返しては、ほうっと夢見心地で空間をみつめて溜息をついている。
そんなシュザンヌをみて、本人が納得しているのならば、と好きにさせておいた。
本は日に日に増えていき、メイド達にも読ませているようで、彼女たちと弾んだ声で「ソウウケ」「キチクセメ」とよくわからない単語を言い合っては、はしゃいでいた。
あまりに楽しそうなので、興味を惹かれて、シュザンヌが部屋におらぬ時に、そっとその薄い本を一冊手に取りページをめくってみた。
一分も経たぬ内に悟った。妻の趣味を深くさぐってはならぬ、と。見なかったことにして本を閉じてしまっておいた。
そして、今日。爆弾が投下されたのだ。
「妻であるお前が何をくだらぬ事を言っている」
「あら、でも世の公爵は、皆、いたいけな美少年を無理やり手篭めにしようとしたり」
「どの世界の公爵だ」
シュザンヌの言葉を遮って詰問すると、まあ、と大きく目を見開く。
「旦那様は軍人でもあられますのに、男には興味御座いませんの?」
とまるで変態を観るような、軽蔑の眼差しを向けられる。
「何故軍人ならば同性に興味をもつのかね」
偏頭痛がおさまらぬ。痛む頭を血行をよくするべく指先で揉みながら問いかけると、さも世の常識とばかりに演説が始まった。
「軍隊では、男ばかりですので、資材倉庫に見目麗しい少年を連れ込んで輪姦したり、上官が部下に口腔での奉仕を強要させたり、果ては敵の将軍を捕らえて媚薬をつかって肉奴隷にしたり、と軍人モノは一つのジャンルとして確立しているではありませんか」
迂闊であった。あの本の中身を一瞥した時に、シュザンヌにこの特殊趣向はなんだ、と詰め寄って没収すべきであった。
年をとってかかる麻疹は重いというが、まさにそれだ。
どう説明をしたものかと深く溜息をつくと、意外な人物の名をシュザンヌがあげた。

「旦那様はガイをお気に召しているのでしょう」

ピクリと反応をする。すぐさま表情を引き締めるが、一瞬呆けた顔をしたのを見逃す女ではない事は承知している。
気に召す、という言葉が的確かどうかはわからない。
ルークが記憶喪失になって戻ってきた時、私は忙しく、シュザンヌは病気がちだ。つきっきりの世話となると、中身が赤ん坊であっても身体は幼年期の終りに差し掛かっているので、力を必要とする。
その中で自ら挙手して世話係に立候補したのがガイであった。
屋敷の使用人の顔はすべて把握はしている。だからガイの顔は私の中で名前と共に分類はされていた。
だが、ガイという一人の人物として私の中で認識したのは、あれが初めてであったと思う。
それからは、ルークに注視すれば、自然と視界にガイの姿が入ってくる。自分の息子の成長よりも、彼の成長に早く気づく自分に気づいたのはいつのことだったか。
女性が苦手であるのに、困っている時は積極的に声をかけ手伝っている。立ち居振る舞いも粗野さは感じられない。少年期の細さから青年期に差し掛かると、高くなっていく身長と、しなやかさを増していく肢体。
容姿は来客の女性ならば一度は必ずガイに目を走らせる程に、衆目を集めるものになっていった。
ガイと交わした会話など数える程だ。
ただ口数が多いとは言えぬ私がルークの事を尋ねると、こちらの欲する事を的確に返してくるその賢さは感じ取ってはいた。
気づくと彼の姿を視線で追う事はあり、壮健な様子をみて安堵する。
これも気に召す、というのであろうか。
何やら種類が違うと思っているのだが。
そう今までの気持ちを吐露すると、シュザンヌが肩を震わせている。
「気分でも優れぬか」
「ち、ちがい、ます。わたくし、感動しておりますの。旦那様の事を「キチクソウゼメ」と認識しておりましたが、所謂「ギャップモエ」だったという事に気づきました。
精一杯応援させていただきます」
どこにこんな力が、と思う程に、白く細い指で私の両手をぎゅっと包むと
「すべて、わたくしにおまかせください」
目をキラキラと煌やかせて、彼女は力強く宣言した。


まかせたのは間違いではなかったのだろうか。
ラムダスが鎮痛の面持ちで私に「ガイを愛人に迎えるというのは本気でいらっしゃいますか」と問いかけてきた。
驚愕に瞠目する私に先日の雇用契約でガイが私の愛人になることを承諾したという。
あいじん。シュザンヌは本気であったのか。
夜、夫婦二人きりになった時に問いかけた。
「あら、でもガイが承諾したのならば、旦那様の事を少なくとも憎からず思っているという事でしょう?」
ガイが私を……憎からず…
そう思った途端、ドクリと胸の鼓動が早まる。どうした、狭心症でも患っているのか。
左胸をおさえて黙り込んだ私を、心配そうにして「旦那様?」と気遣うシュザンヌにその事を告げると、まあ、と目を丸くすると、ふふふと小さく笑いだす。
笑うより先に医者を呼んでくれないだろうか。先程から顔まで熱くなってきているのだが。
「旦那様、それは心の臓の病ではありません。恋の病ですわ」
コ、イ?
「考えて見れば、旦那様が紐解く書物は軍記、兵法、譜業に関するものばかりでしたわね。私とも所謂政略結婚のようなものですし。
恋愛小説など一度も読まれた事はないのでしょう」
当然だ、と頷くと
「では、私のとっておきの本をお貸ししますわ。二人の初夜に最低限の知識は必要でしょうし、参考になると思いますわ」
そういうと、薄い本を十数冊私に手渡す。
シュザンヌは私が躊躇っているのを微笑んで見守りながら、早く読め、という念を送っている。
パラパラ読みなど許さない圧迫感におされて、仕方なく一冊開いて読み出す。


そうして私はシュザンヌによって与えられた偏った知識で初夜に挑むこととなる。




純情な公爵を書きたかった。
シュザンヌ様が、薄い本をみて、ほうっと夢見心地に溜息をつくのはまんま自分の行動です。
いやあ、薄い本って素晴らしい。

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あきゅろす。
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