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小話
そして俺達は旅に出る
ルーク


どうしたものか、と天井を仰いで溜息ひとつ。
ガイやアッシュが持っていたリュックは実は魔法のリュックなんじゃないだろうか。
そんな子どもが思いつきそうな事を考える程に、ルークは困っていた。
「やっぱ頼めばよかったのかなあ」とひとりごちる。
いや、んなカッコわりぃ事出来るわけない、と直ぐ様その考えを振り払うように、頭を軽く振ってから、再び取り掛かる。
所謂「旅の支度」に。


見聞を広めるために、双子の弟と、そして自分の護衛騎士でもあり親友でもあるガイと共に修行の旅に出ることになったルークだが、その旅立ち前に躓いていた。
今まで黙って立っていれば衣服を着させてもらっていたため、まずはボタンを留める練習から始めたほどルークは世間知らずだ。
それもそのはずで、ルークは所謂「王子様」というやつだ。しかも第一王子である。
そのため、自分で身の回りの支度をする事など一度も経験したことがなかった。
ただこの国では、王になる前に、試練が課される。それが修行の旅だ。身分を明かさずに、少なくとも一年は国中を回らなければならない。
ただ、身分を伏せているとはいえ、腕のたつ護衛騎士をつけ、そして王子達が回るルートは事前に各都市に知らされているため、きつい試練というわけではない。
盗賊や強盗は事前に、王子たちには秘密裏に軍が出動し殲滅させている。ただ、魔物だけは殲滅は難しく、そのための護衛騎士である。
三人で旅をするのは初めてで、そしてこれでようやく一人前と認められる旅ということで、ルークは俄然張り切った。
だから用意しようとするメイドに告げたのだ。
「これくらい俺一人でやれる」と。
双子のアッシュはとうに支度を済ませている。あいつに出来るんだから、俺にも出来るに決まっている。
そんな根拠のない理由で手伝いを拒んだ事を、今、ルークは凄く後悔している。


そんなルークの耳を震わせたのはガイの声だった。
「準備手伝ってやろうか」
窓の向こうから「何もかもわかってるぞ」という表情で立っているガイが救世主にみえた。
だが、素直にその提案に飛びつくのも躊躇われる。なにせガイはルークを事あるごとに子供扱いするのだ。
それがルークには面白くない。
この事も間違いなく「子供みたいな意地はるな」と軽口を叩くに違いない。それが癪にさわるのだ。
「いーよ、もうすぐ終わるから」
終わる気配など全くみせていないが、ルークはつい意地を張る。
「そっか、そりゃよかった」
そう言いつつ、窓枠に手をかけると、ひらりと音もたてずに室内に飛び入る。
チラリと散乱した衣服をガイが一瞥する。小言がくるか、とどこかで腹をくくったルークに、ガイは
「ま、そうだな。じゃ、アドバイスだけはしてやるよ。シャツは、ほら、こうやって丸めるとかさばらないだろ」
インナーをひとつ手にとると、器用にくるくると巻いていく。
翡翠の双眸は、その動作に釘付けになり、少し開いた口は、声に出さないものの「おおー」と感嘆の形だ。
「旅では洗濯するから、ここまでは必要ない」
せんたく?せんたくってなんだ?と思いながらも、とりあえず服はそこまで必要ないという事なのだとわかり、ルークは素直に頷く。
「ただタオルは数枚は持っておけ。獣を斬った後は剣についた血と脂を拭わないといけないからな」
タオル、そうか、タオルだな。と胸の中で密かにメモをとる。
「そして、ここが一番のポイントだぞ。よく聞いておけ」
なんだ?とずいっと身体ごとガイに寄せる。
「お前が家が恋しくなった時に必要だから、何か大事なものを持っていけよ」
「……ばっ、ばっか!恋しくなるかっ!」
「というのは冗談だが、でも一つでも思い出のあるもの持っていると、結構心強いもんだぜ」
「……ねえよ」
「そうか?昔はお気に入りのぬいぐるみを抱かないと眠れなかったじゃないか」
「おっ、おい!いつの話だよ!」
ははは、と笑いながら、ガイの手はさっさとルークのインナーやシャツをどんどん綺麗に丸めていく。
あとはリュックに詰めるだけ、の状態にまで整えられていた。
「あ、悪いな。説明するだけのつもりが、手が勝手に動いちまった」
そういって、眉尻をさげて笑ってみせるガイに、内心感謝しつつもぶすっと膨れてみせて「ちぇ」とうそぶいてみせる。
「俺はこれからアッシュ様のところに顔を出してくるから、お前はその間、タオルの用意しておけよ」
そう言うと、背を向けて、また窓から去ろうとするガイの服の裾をギュっと掴む。
鋭角にきりとられた裾は掴みやすい。
「っと、なんだ、まだアドバイス欲しいのか」
「そうじゃねえよ、お節介ガイ。わりいな、助かった」
ガイが背を向けてくれているなら、素直に言葉に出来る。
いつからこうなったのだろう、面と向かって礼を言うのが照れてしまって、つい憎まれ口を叩いてしまうようになったのは。
その憎まれ口さえも笑ってガイが許すから、俺がこんなにわがままになったんだ。
そんなルークの胸の内などガイは十分把握しているのだろう。振り返りもせずに「俺が好きで勝手にやった事だ」そう言葉を返す。
城が恋しくなる時なんて絶対来ない、とルークは思う。
大事なものは、今、この手の先にあるのだから、と。



ジェイガイへ

先走りのマイソロ3妄想。設定だけもらいました。


あきゅろす。
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