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小話
ガイ誕生日話
輝かくとびきりの笑顔を向けながら、両手を差し出してくる。
さあ、早くその後ろ手で持っているものを寄越してくれ、というガイの心の声が音声付きで俺の頭の中で再生された。
これは付き合いの長さからなのか、愛の力なのか。
答えのでない事にぼんやり考えながら、「ほら、誕生日プレゼント」と背に隠していた箱を手渡す。
途端、ぱあっと顔を喜色で染めながら受け取る。
あーあ、すげえわかりやすい。
「開けていいか?」
「もうお前のもんだろ、好きにしろよ」
ガイの上擦った声とは裏腹に、俺の声は何処と無く不機嫌さを滲ませている。
ガイの誕生日なんだから、と必死に抑えているんだが、まあ、仕方ない。
箱から恭しく取り出すと「ルーク、有難う。これが欲しかったんだ」と素直の感謝の言葉を口にするガイが、次に何を言うか予想出来るからだ。
「なあ、今から組み立てていいか」
ほらきた。
はやる気持ちを抑えきれない様子でそわそわしながらも、俺に了承を求めてくる。
これで俺が嫌だと一言でも言えば、ガイはあっさり引き下がるだろう。わかっているけど、恋人としては懐の大きいところをみせてやらなきゃならない。
「いーよ。今日はガイの誕生日なんだからさ、好きにしろよ」
にっこりと笑って、精一杯寛容な振りをする。
「悪いな、どうしてもこれは今日仕上げたいんだ」
そう言いながら早速工具箱の中から「これかな。いや、やぱりこのサイズかな」と大小様々な形のドライバを取り出して机に綺麗に並べ始める。
こうなったらもうオシマイ。俺に気持ちの欠片も向けやしない。
気付かれないようにそっと溜息をついて、ガイコレクションと銘打った、様々な音機関を飾ってある棚の前に足を運ぶ。


ガイに言わせるとマニア垂涎の品ばかりらしいが、何がいいのかさっぱりわからない。
「この、プレートをここにはめて。あ、プレートの差し替えは可能なのか、凄いな」
ブツブツと何やら言っているが、どうせ俺に向けた言葉じゃないし、返事もしないで目の前の、俺にいわせればオモチャかガラクタをぼんやり眺める。
すると
「なあ、これ手に入れるの苦労しただろ」
ガイから声がかかる。
ガイが音機関を組み立てている時に話しかけるなんて、珍しいこともあったもんだ。
「ああ、すげー苦労した」
その事を少し思い起こす。ガイに書簡でプレゼントは何がいいか尋ねた。ガイからの書簡には型番のみしか書かれていなかった。
思わず、「あぶりだし?」と一瞬期待をこめてみたものの、そんな事あるはずもなく、「ガイ。これ、どうしろと?」と思わずマルクトの方角に向かって、口に出して突っ込んだ。
餅は餅屋という事だし、と、ノエルとギンジに相談し、「これなら大丈夫です。手配はお任せください」とノエルが言ってくれなければ、今も途方にくれていたにちがいない。
しかし品名も分からないのに、型番だけで話が通じるとは、音機関マニア達の凄さをこの時ばかりは感じた。
「来年はもっとわかりやすいやつにしてくれよな」
「悪い悪い。来年は………ディストの椅子が欲しい…かなー、なーんて」
ボソっと呟いた言葉に思わず目を見張る。
はあああ?アレ?あの椅子?趣味の悪いあの椅子?
さすがのガイも照れが出たのか、わざわざ語尾に「なーんて」までつけているけど、結構本気なんだろう。
冗談なら、言い淀んだりせずにさらっと真顔でいう男だし。
「あの椅子ねえ」
ガイは普段のセンスは悪くないのに、音機関に関しては世間と激しくズレた感性の持ち主になる。
「いや、だってな。あれ、どの動力をつかって浮いていると思う?アルビオールのように古代の浮遊機関を使っているわけじゃなさそうなんだ。
この前もアストンさんやギンジ達とディストの椅子について熱く議論を交わしたところなんだ。皆喉から手が出るほどにあの椅子を欲しがっているんだぞ」
さっきの訂正。音機関マニア全員世間の感性から激しく乖離しているんだな。
「あいつ、今、マルクトの監視下で研究してるんだろ。本人に直接聞けばいいだろ」
すると、ギシっと音を立てて背もたれに身体をあずけると、天を仰いでガイは溜息をつく。
「俺、嫌われているんだ」
「へー」
珍しい。ガイはその気性から、滅多な事では人から嫌われる事などない。
「お前、何かしたのか」
「んー、何もしてないんだがなあ」と後頭をガリガリ掻いて、また作業に取り掛かりながら
「どうも嫉妬されているようなんだ」と言葉を零す。
「嫉妬?」
「男女のもつれならまだしも、おっさん同士のバトルに巻き込まれてんだよ」
おっさん同士、でピンときた。ジェイドや陛下と親しくしているガイに、ディストが一方的に嫉妬しているんだな。
「毎回顔つき合わせる度に『あなた、私の場所を脅かす気ですね』って取り付く島もありゃしないし、その様子をみて陛下もジェイドもディストを刺激するような事しかしないしな。
俺もあいつも、二人のいいおもちゃになってんだよ」
ため息混じりの言葉に、ガイの普段の苦労がにじみ出ている。頑張れ、あの二人が関わっている事なら、俺も声援くらいしか送れない。


手は休める事はないものの、気持ちはきちんと俺に向けて、会話らしい会話が成立している。
以前は「なあ、ガイ、聞いてんのか」「うん、うん。そうだな、ルーク」とかみ合わない会話ばかりだったから。
取留めの無い会話を交わしながら、部屋にはいる陽光が紅を帯びる頃に「出来た!」と嬉しそうなガイの声があがる。
「なんだ、そのボールもどきは」
こんなのが欲しかったのか、と呆れを多く含んで尋ねると、ガイは笑って答える。
「プラネタリウムだよ」
プラネタリウムって、投影機の一種だったよな。でもあの譜業は凄くでっかかったぞ。こんなちっこいので出来るのか?
疑問そのまま顔にでた俺に、ガイはその球体を手にしてこちらに近づいてくる。
ガイは視線を少し虚空に漂わせながら、最後は俺の目をしっかり捉えて
「という事で、夜、二人で一緒に見ないか」と誘い言葉を口にする。
思わず、きょとんとしてしまう。
今日仕上げておきたかった、というガイの理由はこれだったのか。
口元がつい緩みそうになるのを、必死に引き締めて
「いーけど、でも」
一旦言葉を切ってから、素早くガイの唇に口づけてから
「星なんて見る余裕ないと思うぜ」
と笑って告げた。





6月10日に日記にあげていたもの
本サイトにも上げています

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