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小話
新米大使なガイ
日記より転載

パラレル設定 
ホド未崩落(両親、姉ともに健在)
ルークとアッシュは双子 ヴァンはマルクト軍属
ガイは学校を出て外交の勉強中 
キムラスカとマルクトの和平の証(ハーフだもんね)として、外交利用されちゃうガイ



壮麗で華美な城の中で、おそらく一番粗末だと思われる部屋の扉を閉めてからふーっと息をつく。
ふらふらっと引き寄せられるように、カウチに足が自然に向かい、そのまま寝そべる。
姉上がみたらすかさず小言が飛んできそうだが、幸い、今俺を咎める人はいない。
幸い、なのだろうか。
はあ、とまた口から吐息を吐くと、俺の護衛の任務を受けた幼馴染が「何か淹れようか」と問いかける。
いやいい、と手を上げて振って、「あ、紙をペンを持ってきてくれ」と頼む。
精神的疲労でカウチから一歩も動きたくない。
そんな俺の甘えをふっと笑って、小言も言わずに紙の束とペンを差し出す。
寝そべったまま「えーと、アルマンダイン伯爵、っと。髪は黒で、こんな顔で…」と今日出会った人物の名前の横に簡単な特徴と似顔絵を書いてみる。
うん、我ながらいい案じゃないか。
メモを覗き込んだ幼馴染がその似顔絵を見て吹き出し、くくくと肩を震わせて笑っているが、俺だけがわかればいいんだ。
「アルバイン…は、内務大臣…だったな」
キムラスカに向かう船中で大使が発作を起こし緊急帰国してしまったおかげで、使節の一員にすぎなかった筈の俺に大使の役目が回ってきたのだ。
俺の半分はキムラスカの血筋という大義名分のもと、有無を言わさずにその役目を押し付けられることとなった。
漸く成人の儀を迎えたばかりの若造で、伯爵子息というだけで俺が爵位もちというわけでもなく、外交の経験もない俺に対してのキムラスカの風当たりはそれは厳しいものだ。
マルクトはキムラスカを格下と勘違いされているのではないか、と詰め寄られそうなくらいだ。
弁明のひとつでもしたくなるのだが、マルクトの貴族会にその思惑もあるのではないかという疑念も拭えないでいる。
国と国の面子というものは一筋縄ではいかないらしい。
押し付けられた形の大使という役目だが、職務は全うしなければならない。
嫌味を言われてもひたすら笑顔をむけて聞き流すのが職務であってもだ。
一通り今日紹介された人物を書き出し終わると、何も言っていないのに目の前にティーカップが差し出される。
一息つこうとしたその絶妙のタイミングに、悔し紛れにみよがしな溜息をついてから受け取る。


キムラスカで風当たりが強いのはこの目の前の男のせいでもあるのだ。
最低限の護衛をつけるということで、軍から、これ、が派遣されてきた。
『どうせならば気心がしれた者の方がガイラルディア様もよろしいでしょう』と言ったのは、胡散臭い笑顔を貼り付けた皇帝の懐刀と称される男だった。
短期間の仮初とはいえ、俺のような身分が大使として赴く事で相手を刺激しかねないのに、これ、を連れていけば益々挑発しているようなものだ。
それをオブラードに幾重に包んで、目の前の軍人に説得を試みる。
「彼以外の候補者は私なのですが。
残念な事に私は人を不愉快にさせるのが大層得意なものですから、敵国の社交場には不向きなのですよ」
「ああ、そうだろうな」と素直に納得する理由を突きつけられては、これ以上の説得は無意味な事を悟った。
それに、これ、つまり幼馴染のヴァンデスデルカの家系は俺の右の剣、フェンデ家の者であり、護衛の任には最適といえる。
マルクトが誇る死霊使いと共に並び称される程にまでなった男でなければ、の話だったが。
今日の昼食会で会ったゴールドバーグ将軍の双眸は、視線で人が殺せるならば、の激しい感情を隠しもせずに終始俺の隣の男、ヴァンデスデルカを睨み上げていた。
ああ、確かに皇帝の懐刀があの場にいたなら、その視線を受け止めて、挑発するような笑顔を向けたのは間違いない。
そう考えるとこいつで良かったとは思うのだが、もっと当たり障りの無い人物を選出出来なかったのだろうか、マルクトの軍部は。人材不足というわけではないだろうに。
これ以上考えても仕方ない仮定話に思いを馳せていると、扉が叩かれる。
珍しい、客人だろうか。
ヴァンは一気に警戒を深くしながら扉をあけると、そこにはファブレ公爵家の使者が立っていた。

ファブレ家といえば、キムラスカの貴族であり、現公爵はマルクト軍の元帥でもある。
赤い髪と緑の瞳は王家筋である証でもあり、それが王位を継ぐ不文律となっている、と聞き及んでいた。
事実、公爵家の双子の一人は、キムラスカの王女の婚約者だ、とあの時双子の片割れが俺に話して聞かせた。
その時の出来事を思い出す。
夜会の最中、あいかわらず遠巻きに無遠慮な視線を方々から受けて、笑顔もそろそろ引き攣ってきそうだと感じていると、ずいっと赤い髪を揺らして俺の眼前にたつ少年がいた。
無言でいきなり俺の胸ぐらを掴むと、胸元に顔を埋める。
「うわっ」思わずあがった声はみっともなく裏返る。
な、な、なにがしたいんだ、こいつ…!!混乱する俺をよそに、背後に控えていたヴァンが、その少年の腕を掴む。
「ん、全然しねーじゃん」
ガバっと顔を離すと、大声で行動と結びつかない事を言い出した。
そして相変わらず人の胸ぐらを掴んだまま、首だけ後ろを向ける。
「おーい、こいつ別にマルクトの魚臭くも、マルクトの犬臭くもないぞ!それどころかいい匂いするぞ」
赤毛の少年が声をかけた方をみると、貴族数名が慌てて人ごみに紛れて逃げようとしているところだった。
どうやら、魚臭いだの、犬臭いだの悪口をいわれていたらしい。
これは彼に助けられた、と言っていいのだろうか。
どう礼を述べるべきかと少しばかり逡巡していると、同じ顔をした少年が剣呑な表情で近づいてきた。
「わがファブレ家の者が、ガルディオス殿に無礼な立ち居振る舞いの数々、大変申し訳なく遺憾に感じております。
改めて使者を送らせて頂きますが、この場は私、アッシュ・フォン・ファブレに免じてご容赦いただきたい」
流暢に謝辞を述べる少年に素直に感心する。同じ顔でも中身は大違いのようだ。
その俺の表情を読み取ったのか、少年は「アッシュはナタリア王女の婚約者だ。顔売っておいて損はないぞ」とニヤリと笑う。
すかさず、怒りを滲ませて「ルーク!」と叱責がアッシュから飛ぶ。だが全く堪えた風もなく「悪い悪い」と肩を竦めるだけだ。
ヴァンが漸くルークの腕を離すのを見届けると、「こちらも護衛のものがルーク様に御無礼を働きました。ご容赦頂きたい」と
頭を軽く垂れる。「いえ、そうされる理由はこちらにあります」と互いに謝辞を口にし合う。
原因を作ったはずのルークは「お貴族様だねえ」とどこか他人事で見ている。いや、お前がまず謝れよ、形式だけでも、と内心ツッコミをいれる。
一通りのやり取りが終わったあと、漸くアッシュは目を少しばかり輝かせて俺の傍らに立つヴァンを見上げる。
「ご高名はキムラスカにも届いております。フェンデ少将」
「私の名はキムラスカにとってはあまり愉快なものではないと思いますが」
はっとして、恐らく完璧に立ち居振る舞えるこの少年らしからぬ失態なのだろう、頬を羞恥に染める。
「場もわきまえずに申し訳ありません。ですが、同じアルバート流を極めようとする者として、できれば一度手合わせを願いたいのですが」
「機会に恵まれましたら。ただ私はこちらには主の護衛として滞在しておりますゆえ」
アッシュとヴァンの会話を黙って見守っていたルークが俺に顔を寄せて「なあ、あの髭、つえーの?」と聞いてくる。
公爵家子息のくせに、下町の子供並に口が悪い。
「強いよ」
この少年の前で言葉を着飾ってもしょうがない。そう返すと「じゃ、お前は?」「私…俺はどうかな。あれからは一度も一本を奪ったことはないくらいの腕前だ」
「その割には剣ダコすげえけどな、大使さま」手袋の上から剣ダコに触れて、にやっと笑って見せる。
言動とは裏腹に、なかなか抜け目ない性格らしい。


先日の出来事を思い起こしていると、漸く親書に目を通し終えた。
先日のルークの無礼な振る舞いへの謝罪として、公爵家で歓待を行いたいという事。
城では窮屈な生活を強いられるだろうから、こちらに数日滞在されてはいかがだろうか。
アッシュもルークも護衛の方と剣の手合わせを願っている。滞在している間、暇があれば是非お願いしたい。
貴族らしい季節の挨拶を織り交ぜ、装飾に満ちた言葉から、内容だけを取り出せばこういう事らしい。
ファブレ家の誘いを断れる立場にあるはずもなく、はあっと溜息を深々とついてから、紙とペンをとる。
「文面、考えてくれないか」
「気乗りしない誘いでは、私の頭脳も鈍るというもの」
いけしゃあしゃあと応える様子が小憎らしい。
「それは俺も同じだ。滞在とは厄介な申し出を考えついたもんだ」
姉上から常々「みっともないからその癖をなおしなさい」と言われている、後頭をガリガリと掻くと恨めしげにヴァンを見上げる。
「どう考えても、お前のせいだろ。お坊ちゃまはお前と剣の手合わせをしたくて堪らないから、このような申し出を思いついたんだぞ」
一分の隙もみせない貴族然としたアッシュだったが、ヴァンを見上げる目は道場に通う少年のような目つきになっていた。
俺はおまけだろ、どう考えても。
だが、親書の宛先は当然俺なわけだ。貴族らしい美辞麗句を搾り出さなければ。これに慣れる日は来るのか。


ファブレ公爵家は、城のお隣、という有り得ない距離にあった。
公爵家が王家と深く関わっているのが見て取れる。
重厚な玄関の扉が開かれると、公爵自らが出迎えるという歓待を受けることとなった。
城内で数回顔を合わせ上っ面な会話は何度か交わしたが、こうも歓迎される程に親交を深めた覚えはないのだが。
チラリと隣に目を走らせると、同様の事をヴァンも感じていたようで、わずかに頷き返される。
失態を犯さぬ様に気を引き締めて、招待の礼を口にする。
公爵夫人、シュザンヌ様が母をよく知っていたらしく、夕食の席では昔の母の話を耳にする事ができた。
どれもこれも貴族子女らしからぬ逸話ばかりで、姉をよく知るヴァンと共に目配せして
「血は争えないものだ」と胸の内で互いに零していた。
だが、その破天荒さは生粋のお嬢様であったであろうシュザンヌ様にとっては新鮮だったらしく、目をキラキラさせて
「ユージェニー様はドレスのまま窓から飛び出していかれて。私、心臓が止まるかと思うくらいに驚きましたの」と
嬉しそうに随分とはしゃいだ様子で、セシル家の名誉にはならない事を事細かに教えてくださった。
赤毛の少年、破天荒なルークはその逸話を面白そうに聞き、生真面目そうなアッシュは目を丸くしている。
公爵はワインを口に運びながら、当たり障りの無い会話を俺に振ってくる。
退屈で窮屈な夜会とは違い、まだ歓待されている分、少しばかり気が緩んでくるのを自覚する。
城での滞在は緊張続きで、一瞬足りとも気の抜けない日々を過ごしていたため、少しばかり酔いが回るのを早く感じていた。


*******

意識が覚醒する。ゆっくりと焦点を結ぶ景色は見慣れないものだ。
こんなにいい部屋を宛てがわれた覚えはないんだが。
遠くから水の流れる音がする。誰かが浴室を使っているようだ。
「…ヴァン…?」
喉がヒリヒリする。酒を飲みすぎたか。
だんだん思考が鮮明になってくると、ここが公爵家だということを思い出す。
ああ、そうだった。えらく上等の客室を宛てがわれたんだったな。
しかも、ヴァンにも上等の……
そこで完全に覚醒する。
まて、じゃ、誰が今浴室を使っているんだ。
慌てて身体を起こすと、全身に激痛が走る。おまけに衣服をまとっていない。
酔っ払って脱いだわけじゃないよな。
鈍痛がそこかしこに走り、軋む身体を必死で奮い立たせて、寝台から降りるべく足をおろす。
だが、力が入らずにそのまま毛の長い絨毯のうえにへたり込む。
じわりと何かが伝うのを感じ、恐る恐るそこに手をやると、生々しい液を掬いとる。
血の混じったソレを見たとき、全身を襲う激痛の正体を知る。
「まだ黎明には早いが、もう部屋に戻るかね。ガルディオス殿」
弾かれたように声の主の顔を仰ぐ。
いつの間にか背後に立っていたのは、ファブレ公爵。
ショックと混乱で事態を把握出来ない、いや、それを直視するのを拒否している俺に、口の端をあげて冷笑してみせる。
膝をついて目線を合わせ、俺の顎を掴むと
「それとも」
と一度言葉を切る。
あいた手で、俺の手をとり、甲を掴んで口づけを落として指を食む。
「もう一度私に抱かれたいのかね」




公爵バッドエンド的なエンド
違うルートも書きたいです。アッシュ→ガイじゃなくて、アッシュ→ヴァンになっているままなので、このあたりもどうにかしたいです。
ちなみに陛下はガイ宛にガンガン衣装を贈っています。
いりません!とガイが手紙に書いても「俺のポケットマネーだ、気にするな」のお返事。
おかげでキムラスカ滞在中は無駄に衣装持ち。
一度袖を通したものを着なくてもいいくらいに衣装持ち(うらやま
積み上げられた陛下からの贈られた衣装箱をみて、ヴァンがポツリと「知っているか。男が衣服をプレゼントする理由は」と言い出し、ガイが本気で「気持ち悪い事いうなっ!!」と怒鳴り返す。
そんな関係。
うん、これでピオニーガイフラグも立てたぞ(え、これで

暇をみてポツポツ書いていきたい話です。
公爵の魔の手から逃れて(笑)ちゃんと各キャラとの幸せENDになる話

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