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10万企画小説
JG裏 激しめ 無自覚な思い 前編

「ーッ!」
奥を穿つように突かれ、ガイはぎゅっとシーツを握り締める。
背に電流のような悦楽が走り抜ける。
貫かれる圧迫感はとうに快楽に塗りつぶされ、ひくひくと身体を痙攣させる。
熱くなった粘膜を擦られれば、その刺激は快楽へと直結する。
漏れそうになる声を必死で噛み締める。
思考全てが快楽に染め上げられれば、衝動のままに愉悦の声を漏らすのをわかっていながらも、ギリギリまではぐっと堪える。
獣の体勢では背後の様子は伺えない。元々ガイは伺うつもりすらなかったが。
時々不意に、そう、不意に悪戯めいた好奇心がガイの脳裏に浮かぶが、すぐさまそれは流されていく。
ジェイドの掌が寝台につく。
上体を折ったのであろう。肩甲骨に彼の髪の先があたり、少しばかりくすぐったさを覚える。
もう片方の掌が、自分の性器を握りこむ。
律動にあわせて扱かれると、腕は身体を支える力を失くし、シーツに頬を寄せる。
せり上がってくる快楽をどうにか逃がそうと、シーツを皺になるほどにきつく握りこむ。
口は既に開きっぱなしで、甘く濡れた嬌声をひっきりなしにあげている。
「あ、あぁ、あッ……あ!あぁっ……」
律動は単純ではなく、緩急をつけ、角度をかえる。それに悦楽と同時に焦燥感も覚える。
もっと、何もかも真っ白になるあの感覚を、身体が、思考が望んでいる。
「あ、あッ、ンッ……、ジェ…イ、ド…はぁっ!」
ねだる色合いを濃くして名を呼ぶと、心得たようにジェイドはガイの腰を両手で強く掴む。
熱く敏感になった内部を抉る強さに、ガイは陶酔する。
肉を打つ音と、悲鳴とも喘ぎともつかない自分の声と、身体を駆け巡る悦楽と。
頬寄せたシーツを唾液で濡らし、そして、内壁を抉る刺激にガイはびゅくびゅくと白濁液でまき散らした。
吐精の後、ずるりと抜かれ「あっ」と声を漏らす。
次に熱い飛沫が背にかかるのを、射精の倦怠に酔いしれながら感じていた。


**********


別に話し合ったわけではないが、こうした関係が始まってからはガイが先にシャワーを使っている。
ざっとシャワーで身体を洗い流し、衣服を身に纏う。
浴室の扉をあけるときは「いつものガイ」になる。
「あいたぜ」
そう声をかけ、床に転がったままのブーツを履く。
「じゃ、また明日な」と言い、ジェイドに視線を送ることなく扉をしめる。
安宿を出ると、夜は深くなっていた。さあっと頬を撫でる風は、微かな潮の香りを運んでくる。
まだ髪は湿気を含んでおり、真っ直ぐ屋敷に戻るのは躊躇われた。ペールはとても目聡いのだ。
「腹減ったな」とひとりごちると、ガイは行きつけとなった酒場に足を運ぶ。
グランコクマに身を寄せるようになって一年。
なかなか新しい店を開拓する事が出来ないのは、この酒場があまりに居心地が良いからだとガイは思う。
船をイメージとしてつくられたその酒場は、ガイの好物の海鮮料理が美味しい店だからだ。
「あら、いらっしゃい」
女将の言葉に笑顔を向けて、喧騒の中いつもの席につく。
酒と食事を注文すると、頬杖をついて丸い小さな窓の外に視線をやる。
闇の中にぼんやりと浮かぶ自分の顔は、どことなく疲れた顔をしている。
まあ、あんな事したあとだしな、と胸の中で呟くと、窓に映るガイは皮肉げな笑みを浮かべる。
真っ先に運ばれてきた酒で喉を潤しながら、過去を振り返る。


ジェイドと肉体関係を結ぶようになって1年以上。旅の最中に始まった関係だ。
切っ掛けはなんであったかは思い出せない。記憶力には自信はあるが、意図的に思い出すことを忌避しているようだ。
ただ踏み込まない関係はとても心地良かったのは確かだ。だからこそ今でも続いているのかもしれない。
同室になれば当然のように身体を繋げた。
だが事が終われば、いつもの二人に戻る。
先ほどの行為が幻のように「そういや明日の旅路決めてなかったな」と地図を広げて、二人で進行ルートとパーティ分けを話し合う事もしばしばであった。
色気も素っ気もない。ただこの上なくシンプルに性欲を解消するだけの関係。
ただグランコクマに戻れば、自然にこの関係は終わるだろうとガイは考えていた。
ガイの女性恐怖症はようやく回復の兆しはみせてはいるが、恋人を作ろうという気持ちは全く起きてはこなかった。
が、ジェイドは自分とは違う。
旅の途中で宮殿に寄った時、ジェイドの姿を見たメイド達のはしゃぎっぷりをみればわかるように、性格はさせておいて。本当に本当に性格はさておいて、顔だけみれば超がつくほどの美形である。
一夜の遊び相手すら不自由はしないのは間違いない。
だから自然と消滅していくと考えていた関係は、何故かいまだに続いている。
どうしてこの関係を続けているのかを問いかけたいと思ったことはある。
だが、その問いかけを投げた時のジェイドの反応も、ガイはあっさりと脳裏に浮かぶのだ。
『おや、それをあなたが聞きますか。では逆にお尋ねしますが』と前置きして同様の内容を聞き返すジェイドの言葉が。
問いかけには問いかけで返してくる男なのだ。


運ばれた食事に手をつけながら、ガイは先ほどの情交の際に浮かんだ小さな好奇心を思い起こす。
自分を深く貫くジェイドはどのような顔をしているのか、という他愛もないもの。
背に落ちる乱れた息と、体内を蠢く熱い熱が、ジェイドの充分な情欲の証であるが、常に涼し気な顔をどのように歪ませているのか……
そこまで考えて、はっ、とガイは気づく。
「何考えてんだ、俺」
その小さな呟きは客の賑やかな声にかき消された。
踏み込みすぎだ、と胸の中で自戒する。
ただこの頃、最中には前述の悪戯めいた感情が顔を出してくる。終わった後は後で、時々虚無感に似た感情が湧いてくる。
潮時なのかもな、とガイは小さく呟くと、窓の方に視線を送る。
そこには、どこかつまらなそうな顔をした自分が映っていた。


**********


ブウサギの手綱を掴みながら、ガイは青く澄み渡った空を仰ぎ見る。
はあっと本日既に二桁になるため息をつく。
その時
「おやおや、ブウサギの数を減らしたら散歩が楽になるな、と物騒な事をお考えですか」
と背後から声がかかる。
振り向けば浅葱色の軍服を纏ったジェイドが楽しげな様子で立っている。
「おい、あんたの物騒な考えを勝手に俺にすり替えるな」
「いやですねえ、いつ私がそんな事を?」とやれやれといった風に肩をすくめてみせる。
「さっき思い切り口に出してだろ」
「あれはガイの心の声を代弁してみただけですよ」
「勝手な事言うな」
「じゃ物憂げにため息を何故ついていたのです?」
ガイは青い目を瞬かせる。こうして人をさり気なく誘導するのは上手いよなあ、と心中で感心しながら。
「あー、いやね。先日クラシカルな音機関を手に入れたのはいいんだけどな。
色々メンテしたいんだが、ちょっと構造が特殊なため難航しているんだ」
「おや、それはそれは。憂慮すべき事態ですね」
大仰な言い回しをしながらも、微塵を気持ちがはいっていない。ガイは横目でじとっと睨む。
「この構造についての手引書を持ってたんだが、どうやら引越しの際に紛失してしまったらしくてな。
一昔前の、そして特殊っていったが、ようはマイナーでクセのある構造なもんだからな。関連書物はかなり少ないうえにマニアががっちり買い占めて古書市場には出回らない。
手詰まっているところだ」
「ほー、それは大変ですね」
全くそう思ってない表情と口調のジェイドに、ガイはため息を再び零す。
「大変なんだよ。もう行き詰って陛下にディストの面会をお願いしようかと思うくらいには、な」
「……そんな事したら私とあなたの友情関係は終わりを迎えますよ」
「だから思っただけだ。シェリダンにでもいけばギンジあたりが書物持ってそうなんだが、数日の休暇もこのごろは難しいしな」
ふむ、とジェイドは何か思索するように虚空を見つめ、それからガイに顔を向ける。
「もしかすると、ですが。私の書斎にあるかもしれません」
「本当か!」
ガイの目と声が一気に輝き出す。
「ええ。もしかすると、ですよ。譜業関係は我が家の書斎の一角に収められていますから、一度見てみますか」
「助かった!!」
ジェイドの手をガイは思わず両手でがっしりと握りこむ。
珍しくジェイドは僅かに驚きに目を開き、そしてやれやれとため息をつく。
「では今週末でも我が家にいらっしゃい。そしていいんですか?」
「は?なにが?」
ニコニコと満面の笑顔でジェイドの手を「両手」で握っているガイは尋ねる。
「行ってしまいますよ」
ジェイドが顔を向けた先には、手綱を離されたブウサギ達が思い思いの方向に走りだしている姿だった。
「……あ、あああー!!!じゃ、ジェイド、約束だからな!」
しっかりジェイドに念押しすると、ガイはブウサギを追うために駆け出す。
その後姿をジェイドは見つめながら、手を額に当ててため息をつく。
「本当にいいんですかね」


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