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10万企画小説
倦怠期なJG 後編
「おや」
食卓に上っている料理をみて、ジェイドが嬉しそうに顔を綻ばせる。
サーモンのカルパッチョ、揚げ出し豆腐、鮭のムニエル、ポテトサラダに鮭の炊き込みご飯。
統一感無視で好物ばかりを作ってみた。豆腐料理が少ないのは、まあ、仕方ないだろう。
「ケーキも買ってきてる。あんたの好きな店の新作」
スーツを脱ぐ手が止まり、眼鏡の奥の瞳に困惑の色が差す。
少しばかりの沈黙の後、ジェイドは訝しげに尋ねる。
「記憶力には自信がありますが。今日は何かしらの記念日でしたか?」
「いや別に」
「ふむ。では何か欲しいものでもありますか?ああ、でも先に言っておきますが、あなたをディストを紹介するのだけはお断りです」
「あのなあ、別におねだりしたいわけじゃないよ。あ、でもディスト博士とは会ってみたいんだが」
「一生会わなくて結構。私も幼馴染でなければ二度と関わりたくありませんから」
ぴしゃりと容赦の無い言葉にガイは眉を顰める。
だがすぐさま冷静さを取り戻す。ガイにとって憧れの人物についてはひとまず置いておく事にする。今、悪戯に場の空気を悪くするのは好ましくない。
ガイはまずエプロンを外してソファに腰を下ろす。隣をポンポンと叩けば、ジェイドも上着をソファの背に置いて隣に座る。
「別に記念日でもないし、欲しいものがあるわけじゃない。
今日の昼に、ふとした事であんたとまともに話した時の事を思い出してさ。
そうしたら帰り道、あんたの好きなケーキ屋に足が向いちまったんだよ」


「ケーキ買ったら、あんた喜ぶだろうなって考えて。
喜ぶジェイドの顔を想像したらもっと喜ばせてやりたくなって、スーパーいってサーモンばかりカゴにいれていってさ。
途中何やってんだってふと思ったけど、手は止まらなかった。
それが答え。納得したか?」
瞳を瞬かせた後、珍しく呆けた表情をみせるジェイドに、ガイは溜飲を下げた。
「もっと本心をぶちまければ、好物並べてご機嫌になったらその口がちっとは軽くなるんじゃないかと考えてな。
…………で、なんで、この頃やらないんだ」
ジェイドは今度は僅かに目を丸くすると、やれやれと言いたげに天井を仰ぎながらため息をつく。
「初めてあなたを見た時は、容姿はもとより佇まいも涼やかで美しいと感心していたんですがね。
初見はあてになりませんね。ガイ、あなたは時に口がかなり悪くなる」
「俺もあんたの事を物静かなインテリだと思ってたから、第一印象なんて、あてにはならないだろうな」
「物静かなインテリですか。あながち間違ってないと思いますが」
「いうねえ」
「それに今回の事態はあなたから言い出したことでしょう」
思いもよらないジェイドの言葉に、今度はガイが目を丸くする。
「は?」
「は?じゃありませんよ」
やれやれ、と盛大なため息をつきながら、指で眼鏡のフレームを押し上げる。
「あなたがフットサルの練習から戻ってきた時の発言でしょう。
『ジェイド、あんたのせいでクタクタだ。当分俺が言うまでナシだからな』と私に言って、浴室の扉を勢い良く閉めた事をお忘れですか」
「え、あれ、ちょ、ちょっとまってくれ」
そう言われてみればうっすらと記憶にある……気がする。
片手をこめかみにあてて、ひと月前の出来事を振り返る。
前夜の名残りで身体が重く、思うように動けずにいて。疲労困憊でマンションに戻ってきた時、優雅に午後の時間を過ごしていたジェイドをみて、つい八つ当たり気味な事を…いった…覚えが…
「ああああ、わ、わるい。あれは別にジェイドだけのせいじゃなかったのに。苛立っていたせいで八つ当たりかまして悪かったよ」
素直に謝ると、ジェイドはまたやれやれとため息を零す。
優雅に足を組み直し「そちらを先に謝りますか」と呆れと共に笑みをつくる。
その真意を測りかねてガイはじっとジェイドを見つめる。
「『まて』を実行していた従順で哀れな忠犬に何か言葉は?」
その声音と表情はいつもの面白がるそれで、ガイは、う、と言葉につまる。
「…………ごめんなさい」
ぺこりと頭をさげると、その頭に手をおかれ撫でられる。
よく出来ました、という意味合いなんだろう。
どうみてもこっちが犬扱いだろ、と思いながらも、今回の事態は自分に責があるのでされるがままにしておいた。


倦怠期ではなかった事にガイは安堵したが、次に疑問がわいてくる。
「普段の生活で俺があんたの様子を窺っているのなんてお見通しだったろ」
「そう買い被らないでください」
「よく言うよ」
誘われ待ちなのはバレバレだったはずだ。結局、ジェイドの掌の上で転がされてんだよなあ、と天井を仰ぐガイの耳にジェイドの静かな声が届く。
「確かに夜になればそわそわと落ち着かない様子で横目でこちらを窺っている事はわかってました。
でもそれを誘いと受け取っていいのか。
私が、そうあって欲しい、という願望からあなたの行動を都合よく解釈しているだけかもしれないでしょう」
「…………え?」
「あなただけは、うまく客観視出来ずにいるんですよ。希望や願望が入り込むからでしょうね」
「…………それ、すごい告白されている気がするんだが、なんでいつもの取り澄ました顔でいうんだよ」
「頬を赤らめれば満足ですか」
「いや、それは、遠慮する」
そんなのみたら数日夢に出てきてうなされそうだ。
「本当に口が悪いですね」
くくく、と抑えきれないように笑うジェイドの顔は、実に楽しそうだ。
震わせているジェイドの肩に手をおいて、ガイは身を寄せる。
互いの吐息が触れる程近寄ると、動きをとめる。悪戯を仕掛ける子どものような笑みで
「『よし』」
そう短く告げると、ジェイドは嬉しそうに目を細めて唇を重ねてきた。
触れてすぐさま離れ、また重ねられる。
それを繰り返していくうちに、くちづけはどんどん深くなっていく。
開いた唇に舌が差し込まれ、上唇の裏をぞろりと舐められる。
舌が口内をなぞると、吐息はどんどん熱くなっていく。
肩に置いていた手をジェイドの背に回す。
密着していく身体に、ドキドキと落ち着かない思いと、安堵する想いが交錯した。




********


「…あっ、も、…っ、もう、で…ンンッ」
身体中に触れたジェイドの唇は、最後にはガイの性器に到達した。
熱い口内に含まれ、吸われただけで、すぐさま限界まで昂った。
じゅぶじゅぶ、と粘り気のある水音がガイの鼓膜を震わせて、いたたまれない気持ちにさせた。
だが、それも束の間のこと。
唇で亀頭をゆるりと吸われ、舌先を尖らせて鈴口を舐られれば、強すぎる刺激と快楽に口からは喘ぐ声しかあがらない。
血管を浮き上がらせびくびくと震えるガイの性器を舌でなぞりながら、ジェイドの指は身体の内部をゆるりと、そして的確に弄っている。
背を震わす快楽が頂へと駆け上がろうとした時、ジェイドの口はガイの性器から離れる。
極限まで高められた性器は震え、僅かに白いものが混じった先走りと、ジェイドの唾液によりテラテラと光っている。
先ほどから何度も、射精寸前まで昂ぶらせておいて、放置を繰り返され、身体は熱をずっと持続したままだ。
「……っの」
きっ、とガイはジェイドを睨み上げる。
青い瞳を潤ませながら、睨んでくるそれをジェイドは楽しげに受け止め微笑む。
「どうしました」
耳元で甘い声で囁かれると、反射で目を瞑りびくりと身体を震わせる。
「さっきか…っ、ンンッ!!」
中をかき回していた指が、ぐいっと押してきた瞬間、電流が背を走り鳥肌が立つ。
つま先が強ばり、焦燥感に腰が自然と浮き上がる。
「あ、やめっ…っンッ、…ッ」
ジェイドの指を、きゅうきゅうと締め付けているのがわかり、頬がまた熱を持つ。
我慢できなくなり、ねだる言葉を口にする。
「ジェ、ジェイド…っ。…も、もう、いれっ、ンッ、入れてくれよ」
羞恥の炎で身を焦がしそうだが、今はただその身に確かなものを欲する気持ちがはるかに勝った。
宥めるような優しいくちづけが、汗の浮かんだ額に落とされると同時に、望んだものが身体の奥深くを貫いた。


「――――ッ!!!」
まぶたの裏がチカチカと白く点滅する。
挿れられた瞬間に達したのだとガイがわかったのは、腹だけにとどまらず胸や首のあたりまで飛んだ自分の精液の濡れた感触だった。
射精は長く続いて、びくびくと全身を痙攣させた。
はあ、はあ、と熱い息がなかなか整わない。
ぐ、っと上体を折ってジェイドが耳元に口を寄せる。
「最初に謝っておきます。すみません。止まりそうもありません」
快楽に浸った思考がゆるゆるとその言葉を噛み砕こうとする。
射精の後の倦怠感で、愚鈍になったガイの思考は疑問しか浮かばない。
何故謝るんだろう。何が止まらないんだ。
だが、次の瞬間、その疑問の答えを身を持って知ることになる。
荒々しく揺さぶられ、突き上げられ、緩急をつけながら前立腺をごりごりと押し当ててくる。
「…ひっ、……ッ、ジェっ、ちょっ、ま、まっ――」
悲鳴のような声をあげ、制止する言葉は途中から激しく噛み付くような口づけの中に消えていく。
快楽と苦痛がないまぜになった中で、それでもあのジェイドから激しく求められている事に陶然となる。
首に腕を回し、深いくちづけに応えるように舌をからませた。



*********


ガイはソファの上でぐったりと横になっている。
その隣でジェイドは上機嫌にケーキを食べている。
「美味しいですよ」
「そりゃよかった」
それから優雅に紅茶を呑む姿をみて、ガイは小さく笑う。
珈琲より紅茶派なことを知ったのは出会ってから随分あとの事だった。
珈琲しか置いていないあの店に足繁く通った理由を問うた時、珍しく言葉を詰まらせた姿を思い出して、笑みが深くなる。
「なんです。顔がにやけてますよ」
「幸せそうに笑っているっていえよ。あんたの事考えてたんだからさ」
ふいっと目を逸らしてケーキをまた口に運ぶ姿をみて「照れてる照れてる」と胸の中でからかう。
そんな幸せな一日だった。




倦怠期ジェイガイ(裏あり)で匿名様からいただいたリクエストでした。
初めてのジェイガイの現パロで、色々設定だけを考えて考えて、結局「倦怠期どこいった」な感じの話になってしまいました。
無駄に設定だけは考えるの楽しくて止まりませんでした。
おまたせして、そして色々はずして申し訳ございません。でも楽しく書かせていただいて本当にありがとうございました

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