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10万企画小説
ピオガイ 後編

「ただいま、ペール」
「おかえりなさいませ、ガイラルディア様。馬車は使われなかったのですか」
「少し考え事をしたくて、街をぶらぶら歩いて帰ってきたよ」
「……お客様、ですか?」
「へ?」
ペールの言葉に背後を振り返ると、いつぞやのおしのびの格好をしたピオニーがにこにこして立っている。
「――――っ!!なっ、!!」
「突然で悪いな。俺の事はピオ君と気軽に呼んでくれ。それで、ガイラルディアの部屋はどこだ?」
「と、ど、どうして、ここに。今、宮で…」
驚きに言葉を失っていたガイが、前を行こうとするピオニーの腕をつかむ。
宮殿は大変な騒ぎになっているのでは、という言葉はガイの使用人の前で言うのは憚れる。
「どうして、か。理由はお前の胸にきいてみろ」と人差し指でとんと胸をつく。
事情を察したペールがガイに耳打ちをする。
「畏れながら申し上げます。この御方は」
「お前の推察通りだ」
「…最上の客室を用意しておきます」
「悪いな」
がっくり力なく項垂れるガイに、ピオニーが背を軽く叩く。
「なんだもっと嬉しそうな顔をしろよ」
「光栄の極み、です」
「だろう。さ、案内しろ」
胸を張るピオニーを前にして、ガイとペールは言葉を視線の乗せ、それからそっと息をはいた。



ひとまずは応接室に通し共に食事をとってから、ピオニーの願い通りに自室に招いた。
自分の部屋にピオニーがいるという非日常な光景は、いつものあの落ち着かない気持ちのなかに、どこかこそばゆい思いが混在する。
「本当に音機関好きなんだな」
チェストの上には調度品ではなくガイの作った「作品」が置かれている。
「陛下。あの、本当に宮殿の方は大丈夫ですか」
心配そうな面持ちのガイに、ピオニーはいたずらっぽく笑ってみせる。
「ああ、大丈夫だ。ジェイドの奴がうまくやってくれているはずだ」
「はず、ですか」
音機関を興味深そうに見つめていた視線を、ガイに戻しにやりと笑う。
「ああみえても、俺があそびに出かける時はあちこちに働きかけうまく誤魔化してくれるんだぜ」
果たしてそうだろうか。そうせざるを得ない、の間違いではと口を挟みたいが、黙っておくことにした。
チェストから離れ、カウチにどっかり座ると、ぽんぽんと隣をたたく。
座れ、というそれに逆らう事も出来ず、素直に、だが失礼にならない程度にピオニーとの間に空間をおいて座る。
想定していたのか「つれないな」と軽口すら叩かないピオニーの横顔をそっと窺う。
「もしかして屋敷の前でずっと待っていらしたんですか」
「いや。ころころ表情を変えて橋の所で佇んでいるお前を見つけて、それから後をつけてきた」
あれを、みられていた!しかもつけられていた事に気づかないなんて不覚すぎるだろう。
うわあ、とまあ叫びだしたいのをおさえ、項垂れ手で顔を覆い隠す。
「こうみえても俺は気配を消すのうまいんだぜ。だから気にするな。ほら、顔をあげろ」
「あの時、すごい顔してた自覚あるんです。あれを陛下に見られたかと思うと」
「羞恥で顔があげられない、というわけか?」
こくこくと顔を覆ったまま頷く。耳の先まで熱くなっているので、おそらく赤くなっているだろう。
「すごい顔とお前は言うが、変わらずに可愛かったぞ」
「橋でぼーっと流れる水みて、百面相している男をそう言ってくれるのは陛下くらいなものですよ」
「そうか?物憂げにため息ついたり、何かを堪えるように苦悩したり、何かを思い出したかのように顔を赤くしたり、と可愛い事この上なかったぞ」
「本当にそれぐらいにしておいてください。次は橋の上からダイブしますよ」
「それは困るな」
ふっとピオニーが笑う気配がする
「すみません」
「なぜ謝る」
「最近の俺の態度の事で、話に来たんでしょう」
覚悟を決めなければ、と思いながら掌を顔から剥がす勇気がまだおこらない。
「今日のお前、少し様子がおかしかったから、ちょっと気になってな。
俺を避けるのとはちょっとニュアンスが違うような、な。
ま、気のせいなら気のせいでお前の家に押しかける口実が出来るし」
一瞬の緊張が、心臓を大きく跳ねさせる。
見ぬかれてた、とは。本能で動いているようでとても聡いのはわかってはいたけれど。


「……呆れますよ」
「なにが。もしかして俺がガイラルディアに?ねえな」
「………今日、侯爵夫人の贈答。陛下は夫人の嗜好を把握してたでしょう。
あれをみて少しショックを受けました」
「なんだ。お前、猫飼いたいのか?」
小さく口元を歪ませる。なんでそうなるんだよ、聡いんだか、鈍いんだか。
「違いますよ。以前、まだそう陛下とも懇意にしていない頃。あの旅の時に、スパで水着を用意してくださったでしょう。
俺が資格持っている話は、多分、一度しかしてなくて。でも覚えてくださったんだなって少し嬉しかったんです。
でも、今日の侯爵夫人への贈答の事で、陛下は皆にそうなんだなって」
「嫉妬か?」
「いえ、嫉妬じゃないです」
じっとガイの言葉に耳を傾けていたピオニーの問いかけへの答えは、少しばかり彼の心を抉ったようで眉を顰めている。
顔を手で覆い伏せているガイは気づきはしなかったが。
「そうじゃなくて。浮かれていた自分が恥ずかしい、が正解かなと。
陛下にとっては、会話のなかで相手の趣向や嗜好を頭に叩き込む事は日常な事なのに、俺は、その。
特別なのだと自惚れて勘違いしてたところがあって………っちょ、えっ!」
ぐい、と覆っていた手をとられ、引き寄せられる。突然のことに俯いていた顔をあげると、神妙な面持ちで自分をみているピオニーの顔が間近に迫っていた。
「あ、あの、へ、いか」
「陛下を、へ、で区切るな。なんか間抜けだ。それに名前で呼べと言ったはずだ」
「まだ慣れなくて。で、その、手を離してもらえると。そしてもう少し離れてもらえると、すごく助かります」
「まず、一つ言っておこう。侯爵夫人は顔を合わせるたびに「うちのキティちゃんが」って何度も言うんだぞ。そりゃアホでも覚えるってもんだ。
それに、俺は女性のためならともかく、男の趣味嗜好を脳みそ叩きこんだのはお前が最初で最後なんだから、いくらでも自惚れてろ。
自惚れついでに方々で俺のことを惚気ろ。特にジェイドと、二人のファブレ子爵にな」
「……のろけ云々はおいておいて」
「いや、おくなよ」
「自惚れてもいいんですかね」
「お前、本当に愛されている自覚ないなあ。やっぱり朝昼晩、おはようからおやすみまで常に愛を囁かないと」
「いや!今、すごく自覚しました!」
「でもまあ、俺も愛されているのがわかって嬉しいぞ。お前、素っ気ないからな」
目の前でにこりと輝く笑顔を向けられると、心臓が跳ねる。
好きな相手が笑ってくれるだけでとても嬉しい。
つかまれなかった方の腕が自然とピオニーへと伸ばされ、頬に触れる。
意識しすぎて調子が狂ってばかりだけど、それも意外と悪くはない。
少し首を伸ばしてピオニーの唇に触れる。
すぐさま離れると、驚いたように目を丸くさせている。
そんな顔をみると、いたずらが成功した子供のように、気分が高揚する。
高いと思っていたハードルは、案外ひょいと飛び越えられるものだなと意識の端でそんな事を考えていると、今度は向こうから顔を寄せられる。
瞼を閉じて、それから数分。
やはり飛び越えるんじゃなかったと激しく後悔する事になる。


*******

はあはあ、と息切れしている自分の呼吸と、どくどくと打つ心臓の音がうるさい。
思考は蕩け、全身の感覚だけが酷く鋭敏になっている。
自分からした口づけは単なる皮膚の接触にしか過ぎなかったが、ピオニーの何かを刺激したのは間違いないようで。
返ってきた口づけは、酷く深く激しく、そして甘いものであった。
差し入れられた舌が自分の口腔の隅々を舐めまわし、舌を絡めとり、吸われ。自分の中で蠢くそれは、情欲に火をつけた。
触れているのは口なのに、腰のあたりが重く疼きだす。
「んっ…」
鼻から抜ける呼気が頬にあたるだけで、ぞくりと背が震える。
長い長い口づけからようやく開放されても、口を閉じることが出来ない。唇に、舌に、口内にまだピオニーが残っているようで。
再び顔を寄せてくるピオニーに、ガイは少し身体をこわばらせる。だが、彼の唇は、ガイのそれではなかった。
口の端から溢れた唾液の筋をぞろりと舐めとる。
「あっ…、んっ…」
口の端から顎へ、そして首筋を舐めとられると、甘い声が口から漏れ始める。たったそれだけで、ピオニーはガイからあっさりと官能を引き出す。
シャツのボタンをはずされ、肌が外気にふれて、ようやくガイは少しだけ冷静さを取り戻す。
「ま、まって、ください」
「待てない」
振り絞った嘆願はあっさり却下される。
ピオニーの掌が肌に触れただけで、また思考が熱でぼやけはじめる。流されそうになるのを必死で留まり、なんとか言葉を紡ぐ。
「ここでは。……となり、に」
カウチの上に半ば押し倒されている形になっているが、身体の半分はずり落ちそうになっている。
ガイの言葉にピオニーも今の状況と、これから先を考える冷静さを取り戻す。
「悪い悪い。ガキみたいにさかっちまった」
笑いながら、手を差し出す。その手をとって、ガイは身体を起こすと顔を伏せて
「隣が寝室なんです」と早口で言う。
言い終わると、顔がまた熱を持つ。今の俺の顔はトマトといい勝負じゃないだろうか。
熱くなった頬に濡れた唇が触れると、それを合図のようにゆっくりと立ち上がった。



くしゃくしゃに乱れたシーツは、激しさを表している。
せり上がってくる快楽をすこしでも流そうと、シーツを握りかぶりを振る。呼気は熱く乱れ、全身が熱くなっている。
身体の奥深くにあるピオニーの熱で、頭の中が熱く霞んでいる。
ゆるゆるとした動きは、身体に快楽だけに染め上げていく。
「あっ…あぁ、いっ……」
「苦しいか」
気遣わしげに肌のあちこちに落とされる唇に、そこが性感帯になったようにびくびくと反応する。
「ちがっ、……いぃ。きも、ち、いっ、ンッ!」
内部から与えられる快楽をどうしていいかわからずに、ピオニーに腕にぎゅっとすがりつくと、ぐいっと最奥を穿つ。
その甘い衝撃に喉をそらせ、声にならない悲鳴をあげる。
最奥まで突き立てると、そのままぐるりと腰を大きく回されると、強く内部を擦られる。
「アッ、アアッ!!!」
白い閃光が脳裏で弾け、視界がそれ一色に染まる。びくびくと身体を不規則に痙攣させ、心臓が皮膚をつきやぶらんばかりに痛いくらいに胸を打っている。
触れられる事もなく達し、息継ぎすらうまく出来ずにいるガイの顔に、ピオニーが優しくいたわるようにキスを落とす。
ピオニーの腕を掴んでいた手を外すと、首の後ろへと回す。
それに煽られるように、頬に落としていたそれは、ガイの唇へと移る。何度か啄むだけのキスを繰り返しているうちに、再び深くなっていく。
「んっ……」
くちゅくちゅと水音をたてながら、舌を絡ませる深い口付けは、倦怠した身体から再び快楽の炎を灯す。
びくびくと身体が震えるのと同じく、ピオニーを咥えこんでいる粘膜がいやらしげに収縮を繰り返す。
体内にあるピオニーの熱が、それに呼応するように硬さと大きさを増していく。
最初はゆっくりと動きを再開する。だが、キスの合間に漏れるガイの嬌声は甘く、「あっ、アッ、……もっと」とねだる声に煽られ、余裕をなくし激しく腰を打ち付けた。



*********


人は慣れていく生き物なんだろうなあ、とガイは遠い目をする。
「やあ、また来たぞ」
週末、扉を開いた先にいた人物に、ペールをはじめメイドたちもすっかり慣れてしまった。
「いらっしゃいませ、ピオ君様」
と、にこやかに挨拶するくらいだ。
いつの間にか客間も用意されなくなった。使ってないから。
自室には二人分のアメニティセットだの、替えのシーツだのがさり気なく置かれている始末だ。
そして何よりも。
「ガイラルディア、何してんだ。先にいくぞ」
と自分の屋敷のように振る舞うピオニーがいる光景に慣れ、どこか喜んでいる自分がいる。
参ったなあ、と思いながらも嬉しそうに笑いながらピオニーの後に続く。




今回のリクエストしてくださった方が、もうすぐ30000フリリク企画のピオガイをリクしてくださってたので
その続きにしようと勝手に考えて実行しました。
陛下をもっとかっこ良く書けるようになりたいです。
ピオガイをリクエストしてくださって本当に有難うございます。そしてお待たせして申し訳ありません

10万感謝企画
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