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10万企画小説
JG裏 激しめ 無自覚な思い 後編
一日の業務を終え、宮殿を後にするガイの足は軽やかだ。
その日彼は超がつくほどにご機嫌であった。
息を弾ませブウサギの手綱をしっかりと握りしめピオニーの私室に戻った時など、部屋の主が
「どこかのカワイコちゃんとデートの約束でも取り付けてきたか」とからかうくらいに、喜びに輝いていた。
「残念ながら陛下が考える艷めいた話じゃありませんよ」
そう言いながらも、ウキウキという効果音をつけたくなるほどに声を弾ませている。
「先日お話していた譜業の本の件で、少し光明が見えたので」
「ああ、ジェイドの書斎か」
詳しくは語らなかったガイだが、ピオニーは過程をすっ飛ばして真実を言い当てた。
瞠目するガイに、ピオニーは不敵に笑ってみせる。
「しかし珍しい事もあったもんだ。週末は間違いなく嵐が来るな」
「不吉な事をおっしゃらないでください。ジェイドでも、たまには気まぐれを起こして人に親切にすることもあるでしょう」
ガイの結構辛辣な言葉に、ピオニーはぷっと吹き出して、手をひらひらさせる。
「いやいや、そっちも確かに珍しい事だけどな。あいつ、滅多な事では他人を屋敷に招かないんだよ。おそらく片手にものぼらないだろうな」
ちなみに俺は押しかけてやったけどな、と誇らしげに胸を張られ、やれやれとため息をつきながら、胸の奥で、小さく、本当に小さく歓喜に震えていた。


そして週末。
ピオニーの言葉通りに、天気は大荒れに荒れていた。
大雨の中、馬車を降りて玄関まで走っただけでずぶ濡れになるほどに。
髪の先からポタポタ雫を落としながら、濡らさぬように抱え込んだ手土産の酒を渡してくるガイに、ジェイドは呆れのため息をついた。
「あなたの音機関への執念に敬意を払って差し上げたいところですが。悪天候の時は家で大人しくしておきなさい」
「逆にこういう日こそ書物を読むにふさわしいだろ」
「雲の様子からみて深夜まで雨は続くでしょうね。帰りが心配ですから、一応部屋は用意しておきましょう」
「ジェイドが心配……!今日の嵐の原因は間違いなくこれだな」
「……ガルディオス伯爵はもうお帰りになられ」
「あああああ、ウソ!冗談!!悪かった!」
背後に立つ使用人に顔だけ向けて命じようとするのをガイは大声で遮る。タオルを渡されて素直に髪の毛を拭いてから、ジェイドの後に続く。
二階の奥の書斎の扉を開けると、そこにはガイの想像以上の蔵書量であった。書斎の域は超えている。
「譜業関係はあの一角ですよ」
指さされた方をみれば、書棚に収められる事もなくおざなりに床に山のように積み上げられている。
「もう少し音機関に愛をくれてやってもよくないか」
譜術の本は綺麗に本棚に収められているのを見て、思わずガイは零す。
それには何も応えずに「では私はあちらで事務処理を行いますので、何かあれば声をかけてください」とさっさと背を向けて、書斎に備えられた机にむかう。
仕方なくガイは床に座り込み、一冊一冊手にとって中を確かめる。だが、その手は止まってばかりで一向に進みはしない。
静かな時間が流れていく。
目も意識を本に注ぐ。サラサラとペンを走らせる音と、ページをめくる音。二人だけの空間にある音は心地良い。
中身を確認するだけだが、つい読み込んでしまった本を床に置き、次にとった本の装丁は見覚えあるものであった。
パラリとページをめくれば、確かにそれは引越しの際に紛失した本と同じものであった。
ガイは立ち上がると机で書類にペンを走らせているジェイドに歩み寄る。
「お目当ての本は無事に見つかったよ。良かったらこれを貸してくれないか」
「構いませんよ」
ジェイドは書類から視線をあげることはなく、言葉を続ける。
「では、この後はどうしますか?今ならまだ雨もそう酷くありませんが」
そう言われてガイは視線を窓の外へと向ける。雨足は来た時とそう変わらない。今なら確かに屋敷に帰れるだろう。
帰って、今手にしている本を捲りながら、あの音機関を分解したいという想いがなかったわけではない。だが、それよりもこの居心地の良い空間に身を寄せたいという思いの方がはるかに勝った。
「そうだな。だが、もし良ければ他の譜業関連の書物を漁らせてもらってもいいだろうか。マルクトの学者視点の譜業解説は新鮮なんだ」
「……どうぞ。お好きに過ごされてください」
顔をあげることもなく、声も平坦であった。だが纏う雰囲気がどこか和らいだように感じるのは、自分がそう思いたいという願望なのだろうか。
そう考えてからふと我に返る。何の願望だよ、と自嘲して先ほどの本の山へとガイは足を向ける。


それからまた時は静かに刻まれる。
本を捲りながらガイの意識は散漫になっていた。
その時、痛いほどの視線を感じて顔を上げると、身体の半分を書棚に預け腕を組んで見下ろすジェイドと目が合う。
だが、何も言葉は発しない。それはガイも同じであった。二人は無言で、微動だにしないで、見つめ合った。
抑えきれなかった何かが噴きだす前の、緊張感を孕んだ沈黙。横殴りの雨が窓を叩く音は激しさを増している。だが、二人の空間が切り離されたように、その音はガイの耳には届かなかった。
どれほど経ったのか。それは長くもあり、短くも感じられた。
先に動いたのはジェイドであった。
ガイとの距離を縮めると、片膝をたてて腰を落とす。
差し出された手は、ガイの短い髪に触れる。長い指を金の髪に差し込むと、ゆっくり地肌をなぞる。
指の腹が頭皮を撫でるその感触に、ぞくりと腰が震える。
「朝、雨が降っているとわかった時、嵐になればいいと思いました」
どこか官能を呼び起こす指の動きを止めることなく、ジェイドは口を開く。
「どうして、そう思ったんだ」
声が震えないように注意を払いながらガイは問いかける。
「さあ、どうしてだと思います?」
ふっとガイは小さく笑う。やはり問いかけには問いかけで返す男だ。
「あなたにこうして触れる理由が欲しかったんでしょう。臆病な男だから」
他人事のように言うジェイドの声は静かで、だが確かな熱を孕んでいた。


幾度と無く、互いの身体に触れ、貪ってきた。それだけの関係だった。お互いの領域に踏み込まない、明確で心地良い関係だったはずだ。
なのに身体を繋げる程に心が軋む音が大きくなる事に、目を背け考えるのを拒否してきた。
曖昧な感情を呑み込んで、胸の奥にしまいこんできた。
その感情が膨れ上がり、表に出て形を為そうとしている。
それに、今、触れようとしている。


胸がいっぱいになり、あふれだす感情が、言葉にならない。
ジェイドの指先が頬を撫でる。いつのまにか熱くなっていた頬はその冷たい指先を心地よく感じる。
「嵐がくればあなたを帰さない理由が出来る」
「さっき帰る選択を俺に委ねてたじゃないか」
ようやく声になったかと思えば、可愛げのない言葉が口から飛び出す。
「あなたが関心を向けそうな譜業の本を、倉庫から引っ張りだして山積みにしておきましたからね。あなたが後ろ髪ひかれるのも当然見越していますよ」
にこり、と。あのいつもの食えない笑顔を向けてくるジェイドに、ガイは思わず目を瞬かせる。
「そんなに簡単に手の内を見せていいのか」
「いいんじゃないですか。一度きりのカードですから」
冷たかった指先はなぞる肌に馴染むように、緩やかに温度を持ち始める。
本心を隠す笑顔をおさめて、真剣な表情でガイを見つめている。
抑え切れない感情が輪郭をもち、そして、よく知る名をもつものだと自覚する。
ガイの口から、言葉がひとひらこぼれおちる。


「ジェイド。あんたが好きだよ。嵐が来ない日だって、あんたに触れていたい」


ジェイドの顔がゆっくりと近づいて、啄むようなキスを落とされる。
すぐさま離れ、また唇が触れる。
繰り返すうちに深くなっていき、唇の隙間から舌を差し込まれる。甘く舌を絡めとられただけで、ガイは陶然となり力が抜け落ちる。
「んっ…」
鼻にかかったような吐息は甘く濡れているようだった。
どくどくと胸を打つ心臓の音と、熱い呼気の音だけが耳に響く。
ジェイドの唇が離れたことに気づいたのは、飲み込みきれずにいた唾液を指で拭われた時だった。
音もなく立ち上がったジェイドは、ガイの目の前に手を差し出す。
え?と驚くガイに
「このままでは本が雪崩打ちますよ」とジェイドが告げる。
少し首を捻って背後をみれば、ガイの肘が積みあげられた本の半ばにあたっており、今にも崩れ落ちそうになっている。
素直にジェイドの手を取って立ち上がると、優しく頬に口付けられる。
「隣が私の私室になりますが、招待してもよろしいですか」
真顔で、冗談めかして誘うジェイドの言葉に、ガイは答えをキスで返した。


******


「はぁ……っ……」
濡れた微かな吐息が、乱れがちに溢れおちる。
緩やかな愛撫だった。ジェイドの掌が肌を優しく撫でる。それだけでこの上ない心地よさと共に、熱が再び高まっていく。
不自然な程に高鳴る鼓動と共に、息が乱れていく。
達したばかりの身体は力が抜け落ちている。体内奥に放たれた精液は、ジェイド自身を抜かれた後も、そこに「ある」ようで、ガイは恥ずかしさと共に充足感を得ていた。
汗で色を濃くした金糸に指を差し入れられ、優しく撫でられると陶然と目を細める。
緩慢に撫でていた指が、耳朶に触れ、頬をなぞっていくうちに、情欲の炎が灯りだす。ジェイドの指は巧みにガイの性感を煽っていく。
「…んっ……」
首筋にふれ、鎖骨に溜まった汗を拭う動きに、身体をびくりを竦ませる。
ジェイドよりも多く達している身体は、重く気怠い。だが、それ以上に身体はジェイドを欲しているのだ。
汗で濡れたジェイドの指が、赤く尖った胸先を摘まされ、強弱をつけて捏ねられると、咄嗟にジェイドの腕を掴む。
縋るようにぎゅっと掴み、困ったように眉尻を下げながら甘い吐息をひっきりなしに零す。
「ジェイド……ンッ…、なぁ…も、もう」
「止めてほしいですか?」
わかってるくせに、と詰りたい衝動を視線にのせながら、頭を横に振る。
耳元に唇を寄せられ、もう一度問われる。
「では、どうして欲しいですか」
この男は!と、今度こそきっと睨みつける。だが、ガイが思った程効果はなかったようで、逆に何故か愉しげに微笑みを返された。
縋っていた手を解き、ジェイドの首に回して、ぐいっと引き寄せ、唇を合わせる。
ガイの舌がジェイドの唇を舐める。応えるように、隙間から出てきたジェイドの舌が絡んでくる。
「……ふっ…んッ」
深く濃厚な口づけの呼吸がおいつかず、息があがっていく。快楽で朦朧としていく意識の中、膝裏を抱えられる。
熱く綻んだ箇所に、再び熱いものが宛てがわれると、期待に身体がぶるりと震える。
一度受け入れたそこに、一気に根元まで埋め込まれる。その衝撃にジェイドの背に回した指に力が入り、肌に爪を立てる。
「あ、アアアッ!!」
衝撃と共に、この上ない充足感と歓喜が身体を駆け巡る。
ゆっくりと動かされると、電流が流れるように快感が背を走っていく。
「ひぁっ、ジェイド、ジェ…っ!」
奥を穿つように貫かれ、捏ねるように腰を回されれば、快楽が脳を灼き尽くす。
焦らすようにゆるりと引き抜き、激しく突き立てられれば、すぐさま射精感がせりあがってくる。
「さわっ……て。ジェイド、さわっ…アアッ」
内部から引き上げられる快楽に、びくびくと震える性器が先走りをこぼしている。
ガイの願いを笑顔で聞き流し、一層情欲を煽るようにジェイドは激しく突き上げる。
「あ、あ、ンッ、アアアッ」
目の前が白く弾けた瞬間、身体が不規則に痙攣する。腹が熱く濡れる感触に、一瞬息が詰まる。
はあ、はあと荒い息をついて、肺に空気を送り込む。白く霞んだ視界が少しずつ明確になっていく。
ガイの視界に、ジェイドが官能的に眉を寄せて何か堪える表情が入り込む。
充足感と達成感が心に満ちる。ふっとガイは微笑む。
快楽に耐えるジェイドの顔を拝めるとは、という笑みだったのだが、相手にはそう伝わらなかったようだ。
「煽りますね」というジェイドの声が耳を震わせ、その意味を脳が理解するまえに、激しい律動が再開され、何もかもが白く染め上げられた。


雨が窓を叩く音で、ゆっくり意識が浮上する。
やわらかな熱に包まれ、気持ちよさに陶酔しながら、薄く目を開ける。
間近にジェイドの寝顔があり、驚きに目を瞠る。
身体を覆う熱はジェイドの腕なのだとわかると、気恥ずかしくなる。ジェイドの腕から逃れようとするが、しっかり抱き込まれてそれは叶わないようだ。
参ったな、とため息をつきながらも、気恥ずかしさと共にある嬉しく弾む気持ちも否定できない。
まあいいか。
全身を包む優しい熱に、素直に身体を預けた。




Rika様からリクエストいただきました「JG裏 激しめ 無自覚な思い」です。
ですが……リクの方向性をまた間違ってしまっております。
Rika様からいただいたリク内容の言葉に凄く凄く滾ったのに!
もうちっと薄暗くするつもりでしたが、ついつい強引にハッピーエンドにもっていきました。
相変わらずの自分だけが楽しく書いた感があります。
素敵なリクエストをありがとうございました

10万感謝企画
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