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愛人 読みきり連作
陥落 後編
むき出しにされた下半身に羞恥を感じる間もなく、奥に指を捩じ込まれる。
久々の感覚に思わず公爵の腕を掴んで身体を硬直させる。
俺の様子をみて、愉快そうに笑みを深くする。
「貞淑な事だ。本当に半年の間誰とも寝なかったとはな」
別に貴様に操を立てたわけではない。男と寝たがる男などそう都合よく周りにいるはずもない。
勘違いされては俺のプライドに関わる。
内部をゆっくり回してくる指の感触に奥歯をかみ締めながら、抗議の意味合いもこめて睨む。
俺の心情を見透かしたように笑う。
「お前が少しばかり媚をみせれば、虫はいくらでも寄り付いてこよう。
私は別に愛人に貞淑さを求めない。私の知らぬ所で誰に抱かれようが気にはせん」
性別お構いなしに方々に手をつける公爵らしい物言いだ。
虫だって性別を選ぶ権利はあるだろう。
抜き差しを繰り返す指の動きと、それに伴って出る水音に顔が熱くなる。
「抱かれてみればよかったのだ」
指が二本に増やされて、背中がしなる。
喉から思わずでた声は高く甘い。
珍しく饒舌な公爵は、その指の動きを休めることなく続ける。
「抱かれてみればわかっただろう」
なにが。と問いたいが、久しぶりに内部に蠢く感覚に、息があがって言葉にならない。
「私以外に抱かれても、物足りなさを感じる事を」
瞬間、内部に押し込められていた指を曲げられ、あの部分を擦られる。
「ああっ…!」
電流が流れたように、身体が跳ねる。
強烈な快感が駆巡り、思考を鈍らせていく。
擦られながら抜き差しを繰り返す指の動きにあわせて、口からは嬌声がひっきりなしに溢れる。


指だけの動きに翻弄され、快楽に飢えていた身体はあっという間に高みに上り詰める。
身体をいたぶっている男の腕に必死に縋る。
「だ…っ……もう………でっ…あっ……あああっ――!」
声を抑えることも忘れ、あっさりと達してしまう。
荒く息を吐いて、久々の射精感に身体を震わせる。
震わせながらも、奥底がジンと甘く疼く。まだ足りないと身体の奥底に潜む獣が貪欲に頭をあげてくる。
あげてしまった嬌声を恥じて、口元に手の甲を押し当てる。
「早いな。そんなに欲しがっていたとは」
くっと喉奥で笑われて、耳まで熱くなる。
身体がこれより先を欲しているのは認めたくない事実だ。
顔をそらすが、顎をつかまれて視線を合わせられる。
「さて、私はここで止めてよいのだが。お前はこれからどうしたいのだ」


逃げられない。何もかも見透かした男は、それでもなお言葉にしろと迫る。
何もかも心全てを曝け出して見せろと、迫る。
身体の奥に巣食う、イヤらしく淫らな獣を引きずり出そうとする。
唇が震える。
言葉にしてしまえば、懇願してしまえば、もう戻ってこれなくなる。
この男は、最後の砦すら壊して俺を雁字搦めにする。
無理に身体を開かせられている被害者、という立場さえ奪い取る。それが最後の矜持であったのに。


身体の奥に差し込まれた指がゆるやかに抜かれる。
喪失感に身体が震え、自分でも予期せぬ甘い声が漏れる。
もう、とうに戻れない身体になっていたのだ。
いつから。知らぬ間に、いや俺がソレから目を逸らしている間に体を侵食していた。
指ではないものを、求めている。
刺し抜くような、激しい律動を。抉られるように弱い部分を擦りあげられる抜き差しを。
熱い奔流に理性をながして、素直に快楽だけを求める肉の塊になりたいと欲する。
誰よりも憎むべき相手に身体を開く時に、背筋を走るのは背徳の思い、罪悪の思い。
その思いこそが、何よりも快楽を感じる愚かで醜い獣に成り下がって事に、いつから目を背けていた。
認めれば楽なのだ。背けても事実はかわらない。
今、俺が何よりも欲している事は―――


「旦那様と………」
まだ日は高いのに、闇に閉ざされたようだ。
顎をつかまれ、鼻先が触れ合うほどに顔を近づけられ、垂れた赤い髪が光を遮る。影のなかに、愉悦に満ちた碧の瞳だけが光っている。
口が震え、喉奥に言葉が張り付く。目が熱くなり視界が揺れる。
身体の熱におされ、絞り出すように言葉を続ける。
昏く濁った泥に身を投じる事とわかっていながら、これから先の行為をねだる言葉を。
己の淫らさを認める言葉を。


**************************************


「……ああっ、んっ…っあっ、はあっ」
久しぶりに身体の奥を貫かれ、その熱さや圧迫感に苦痛を感じながらも、あがる声は甘い。
肌が粟立ち、苦痛と合わせて痺れるような快楽が身体が覚えている、そしてそれを欲している。
ゆるく引き抜かれ、また根元まで一気に腰を進められると声にならぬ叫びをあげる。
張り出したエラであの部分を擦る様に二、三度突かれる。
「あっ……あ…ひあっ…っーーーーんっ!!」
強烈な快楽の波が一気に絶頂へとおしやり、瞼の裏を白一色に染め上げる。
ビクビクと内腿を痙攣させながら、胸や腹に白濁を飛ばす。
ん、と呻きながらも公爵は息も整わぬ俺の身体を慮る事もなく、また激しく突きたてていく。
「ひっ…ゃっ……」
絶頂に達したばかりの身体は、快楽ではなく苦痛を感じ身を捩って逃れようとする。
それを逃すまいと腰を押さえつけられる。
「ここまで飢えていたとは。こうも早く達してばかりでは後が辛いのではないか」
シーツを掴んで少しでも快楽の苦しさから逃避しようとする俺に問いかけてくる。
息も整わない俺が返事など出来るわけもない。
強烈な快楽に瞼の裏に何度も閃光が走る。
「堰き止めておくか。それとも」
動きをとめて、俺のモノの根元を掴む。思わず目を見開いて、懇願するように震えながら首を左右に振る。
根元をきつく縛り堰き止められ、精液が逆流してくる、あの気持ち悪さと苦痛を思い出して身体が震える。
「色がなくなるまで」
そう言うなり、激しく扱きあげる。
「んっーーーーっ!」
背をしならせて、泣きながら子供のようにイヤイヤと首を何度もふる。
「どちらも嫌とは、我儘をいってばかりだな」
身を縮ませながら、きつく掴んでいたシーツを離し、己のモノを握る公爵の腕に縋るように掴む。
揶揄する公爵の視線にいたたまれなくなり、目を伏せる。


ふっと笑いが漏れるのが耳に入る。
そのまま公爵は、吐精した後に激しく擦られ苦痛しか感じなかったはずなのに、勃ち上がりかけているモノを握りこんでいた手を離す。
ほっと息を吐く暇もあたえず、両足を一纏めにすると横に倒す。繋がった箇所が引き攣られ痛みを訴える。
「んっ…ああっ!………っ」
体位が変わった事でより圧迫感を感じて声があがる。
狭くなった内壁を押し広げるように、激しく打ち付けられると、痛みよりも快楽がそこから全身を駆巡る。
足を押さえられ、激しい律動に背中がぞくぞくと震える。
肉が激しくぶちかり合う音と、内部に塗りこめられたジェルが淫靡な水音に、理性を麻痺させ欲望のままに嬌声をあげさせる。
「はあっ…!ああっ……。んっ……い…」
いい。
気持ちいい。
久々の性交は痛くて辛いのに、どこもかしこも感じて気持ちい。
懲る箇所を押すように浅い抜き差しに、痛くなる程張りつめた自身の先端から透明の雫があふれ出す。
角度を変えて突き立てられると、背をしならせて大きく喘ぐ。
中を激しくかき回すように揺さぶられ、それにあわせて嬌声をあげ、涎が口の端から流れる。
理性や倫理感が全て溶けてなくなり、快楽に従事する。
覆いかぶさられ、耳朶から耳裏、首筋へと舌を這わされる。
その感覚に粟立ちながら、目も眩むような熱い疼きが全身を覆っていく。
今まで最低限でしか俺の身体に触れてこなかったのに、どうした心境の変化だよ、と軽口を叩きたくなる。
熱い舌と吐息、密着した身体に伝わる汗。公爵からいつもの余裕がなくなっている証だとわかる。
最奥を突かれると同時に鎖骨に歯を立てられる。
「んっつ!!……!」
その衝撃でまた絶頂に達する。


「ふ…あっ……んんっ……」
腰を前後に揺するが、思うような快楽は得られない。
焦れたように抜き差しをするが、やはり焦燥感と飢餓感が増すだけだ。
横たわった公爵の上に跨り、快楽を得ようとするが、思ったように引き出せないでいる。
その様子を面白そうにみていた公爵が腰を掴んで下から突き上げる。
ズンと奥に串差すような快楽に「あああっ」と満足げな甘い声をあげる。
「少しは自分で出来るようになりなさい」
そう言うと公爵は上体を起す。
腰を掴まれたまま向き合う形になり、自然と両の脚を公爵の腰に絡める。
顔が近づいて、口の端に流れていた唾液を舐めとられる。
情欲を孕んだ碧の双眸に誘われるように、唇を重ね合わせる。
舌が唇を割って入ってくる。
ぬるりと温かい舌に戸惑い、思わず顔を引こうとするが、後頭部に回された手がそれを許さない。
歯列をなぞり上顎をなで、喉奥に引っ込んだ俺の舌裏をつつく。
初めての深い口付けにどう対応してよいのかわからない。
喘いで乾いた口内を嘗め回す舌に翻弄され、熱がたかまっていく。
「ん…っ」
鼻から抜ける息が甘い。引っ込んだままの舌を絡められた時、腰の辺りが疼く。
ようやく口が離れたと思ったら、下から激しく突き上げられる。
それを待ち望んでいた身体は喜びに震える。
「ひっ…あ、ああっ、い、いい!………あっ!んんっ…」
たまらず公爵の首に腕を回して縋る。
首筋に吸い付かれ、甘い嬌声をあげる。
それは快楽を貪るあさましい獣の声だった。






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