創作短編『それぞれのゆく年くる年』
今年も君とC
「大気入るよー」
軽くノックして部屋に入ると、大気は布団を被らずベッドに仰向けに倒れ込んでいた。
意識はあるようで、鈴子に気づくとバツが悪そうに笑っている。
鈴子はベッドのそばに立つと大気の顔を覗き込み、
「具合どう?」
「せっかくうまいもん食ったのに全部出た、くそ…」
「バカだね大気」
鈴子はあきれ笑いする。
「飲んだ時は普通にうまかったから酒っぽくなかったんだよ。2本飲んじまったけど後から来るよな。俺って酒弱いのかな…強くなりてぇな」
どことなく気落ちしているような大気に、鈴子はますますあきれた。
「なんなくていいよ、そんなの。大気にはジュースがお似合いだ」
大気は笑って、
「何だよソレー! 見てろよ、20歳になったら鍛えてやるからな」
と起き上がって来ると、
「何か腹減って来たな。下行こうぜ鈴子」
「もうちょっと休んでた方が良くない?」
「もうスッキリしたから大丈夫だよ。腹ごしらえしたら出かけようぜ」
もうすっかりいつもの元気な大気に戻っている。
鈴子は唖然としながらも、彼の後を追って1階に下りた。
―――――――――――
1階はシン…と静まり返っている。
「母ちゃん達出かけるっつってたな、そーいや」
「うん、さっきご両親揃って出かけてったよ」
食卓の上を見て大気は、
「あー! 俺の飯片付けられてんじゃん。後でまた食おうと思ってたのに」
チェッと舌打ちして、冷蔵庫の中を漁り始める。
鈴子はタラリと汗を流して、
「まさか食べると思わないだろうね、おばさんも…」
「だって俺飯途中だったんだよ。そしたら何か気持ち悪くなって来てトイレ走ったけど。2杯目の飯まだ一口しか食ってなかったんだぜ」
と、ラップを被せて冷蔵庫に入れられていた自分のお茶碗を出して来る。
それをレンジで温めて来ると、冷蔵庫から適当に出したおかずでガツガツ食べ始める。
さっきまで酒酔いしていたとは思えないくらいの旺盛な食欲に、鈴子はあきれつつも感心していた。
昔から大気の食べっぷりが好きでじっと見ていると、彼がふと顔を上げて、
「鈴子も何か食う?」
と訊いて来る。
鈴子は慌てて手を振った。
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