創作短編『それぞれのゆく年くる年』
今年も君とB
翌日、約束の時間の5分前に鈴子は大気の家を訪ねた。
呼び鈴を鳴らしてしばらく待つと、大気の母が出て来た。
「あら鈴子ちゃん! あけましておめでとう、今年もよろしくね」
鈴子は会釈して、
「こちらこそよろしくお願いします。――あの、大気って起きてます?」
「それがね〜…」
と母は苦笑いして、
「朝っぱらからあの子ったら何やってんだかね。笑ってやってよ鈴子ちゃん」
「何かあったんですか?」
と鈴子は身を乗り出す。
事の顛末を聞いて、確かに鈴子はあきれるしかなかった――どうやら大気はジュースと間違えて両親の缶チューハイをガブガブ行っちゃったらしく、気分が悪くなり自分の部屋で寝込んでいるそうだった。
「で、大丈夫なんですか? 大気」
「さっき声かけたら返事あったから、まー大丈夫だと思うわ。それよりごめんね〜、2人で出かけるんだったんでしょ?」
「いいんですよ、そういう事なら仕方がないもん。――所でおばさん、出かけるんですか?」
大気の母は余所行きの格好をしていた。
「そうなのよ〜、親戚ん家に挨拶に行かなきゃなもんだから。まーあの子も大丈夫そうだから放っといていいでしょ」
「よかったら私付いてますよ、大気に」
「ホントに放っといたげていいのよ鈴子ちゃん。あなたも用事あるでしょうし」
「今日は大気と約束してたから他に予定ないし、私暇になっちゃうから様子見てますよ。お見舞いに行ってガツンと言ってやります! お酒は20歳になってからって」
と鈴子が拳をグッと固めて言うと、大気の母は明るい笑い声を上げて「言ってやって、言ってやって!」と焚き付けた。
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