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創作短編『それぞれのゆく年くる年』
初日の出D
稲垣は落ち着きを取り戻し、腰をグッと反らせて伸びをして、

「久しぶりに走ったわ。はー、ええ運動になった。――せや!」

思い出し、ジャンパーのポケットから甘酒の缶を取り出した。

あんまり寒かったので、ここへ上がる前に自販機で買ったのだった。

まだほんのりと温かい。

しかし、ポケットに入れっ放しになっていた小銭をかき集めて買えたのは、1人分の甘酒だけだった。

「半分こや。ほら、お前先飲め」

差し出すと、律子はピクッと体を震わせた。

「っ…間接キスか?」

稲垣は「冷めるから早よ」と急かし、

「お前がそれ嫌やろ思うて先飲め言うとるんやないか。ほら」

すると律子は何やら動揺し、グッと握り込んだ拳を胸元に埋めた。

「ん、どないした?」

「…あたし、後でいいよ。稲ちゃん先飲んで」

さっきまで快活だった律子の態度が急に変わってしおらしくなると、稲垣からパッと目を逸らせてしまう。

遠慮しているのだろうかと思った稲垣は、気を遣わせまいとくだけたトーンになり、

「しもたなー! 隣にあるほうじ茶買お思たのに、甘酒買うてしもたわ〜。実は俺甘酒飲めへんねんや。せやさかい、三浦にやるわ」

と律子のほっぺたに缶をくっつける。

律子は稲垣をじっと見つめ、

「気を遣わなくていいよ稲ちゃん。ホントはそんな事ないんだろ?」

「んがっ…」

逆に教え子に気遣われてしまったようだ。

「それは稲ちゃんのお金で買った物だから受け取れないけど、稲ちゃんの残りならもらうぞ」

「そ、そか。そこまで言うんなら俺が先飲むわ」

稲垣は素直に自分が先に飲むと、半分残して律子に渡した。

律子は受け取るも、しかしなかなか飲もうとはしない。

稲垣はちょっぴり傷ついた。



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あきゅろす。
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