創作短編『それぞれのゆく年くる年』
初日の出C
「ええ場所て…ここかい」
稲垣は半眼で目の前の光景を眺めた。
律子が連れて来た場所――それは、自分達が通っている学校だった。
「閉まっとんのにどうやって入んねんな。休みやで誰もおらへんし、勝手に入れやへんぞ?」
「少しだったらいいじゃないか。初日の出を見るだけだぞ。稲ちゃんホントは入る方法知ってるんだろ?」
悪びれる事なく無邪気な眼差しを向けて来る律子に降参して「ホンマにちょっとの間だけやぞ」と念を押し、稲垣は校舎裏へ回るよう促した。
―――――――――――
「ほら、ここからならよく見えるぞ!」
と律子が振り返ると、稲垣は息も絶え絶えといった様子でそこに立っていた。
「大丈夫か稲ちゃん?」
律子は寄って行って覗き込む。
稲垣は膝に手を置いて突っ張った姿勢でゼェハァと息を整えながら顔を上げ、
「あのなぁ三浦…お前と俺はひと回り以上の歳の差やねんぞ……もっとオッサンいたわってくれや、付いてくのがやっとやったわ…」
「ごめんな稲ちゃん。日の出に間に合わないかもと思って急いだんだ」
「キ、キッツイわ……まぁおかげで体はぬくまったけどな…」
2人は校舎の屋上まで来ていた。
さっさと階段を駆け上がって行ってしまう律子の姿を見失うまいと、稲垣は必死になって追って来たのだった。
先程と打って変わって、外の冷気が心地よく感じられるくらいだ。
2人は東南東方面に位置取り、日の出を待つ事にする。
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