創作短編『それぞれのゆく年くる年』
初日の出A
見ると、律子が外側からドアノブを掴んでいた。
「な、何やねんな三浦!?」
稲垣も負けじとドアノブを内側へ引っ張るがびくともしない――かたや律子の方は涼しい顔でノブを外から引いたまま、
「なぁ稲ちゃん、一緒に初日の出を見に行かないか?」
と普通に話しかけて来る。
真冬だというのにうっすら汗をかいて顔を紅潮させながら稲垣は上擦った声で、
「い、今からか!?」
「そうだよ。早くしないと間に合わなくなる」
必死に抵抗するが徐々に外側の方へ開いて行っているドアを見て、稲垣は困り果てて半笑いになって来る。
「い、嫌やぁー! 俺は今から2度寝するんや!」
「今年最初の日の出だぞ。おめでたいから見なきゃ損だ」
その内、おんぼろアパートのドアの取り付け部がメキメキと変な音を立て始めた。
稲垣は真っ青になって叫ぶ。
「あ゛ー!? わ、わわ、分かった見に行くわ! やからやめてくれ! 戸が壊れるーーー!!!」
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