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原稿用紙10枚分のラブレター
 



原稿用紙10枚分のラブレター


「何、書いてるの?」
「………」
「徹子(名前)ちゃん?」
「…え、あ?お、御伽くん!な、なんでもないの!」


あはは、と苦笑し、それまで手にしていたペンと紙を机の引き出しに無造作にしまう。
「それ」は、何があっても御伽くんには見られてはいけない、あたしだけの重要書類なのだから。


(びっくりした…もう授業終わってたんだ…)


気付けば授業中でも、ノートの端には(好きです)の文字。ラブレターなんて古典的と思うかもしれないけど、これでも勇気をふり絞っての行動。


「何か小説でも書いてるの?」
「え、ま、まあ」
「へぇー、書き終わったら読ませてよ!」
「…終わったらね」


咄嗟の嘘。
書き終わったら読ませると言う所では、あながち間違いではないが。あんなに綺麗な顔で微笑まれたら、嘘でも首を縦に振るしかないでしょう…。


(最初で最後の読者、だね)


「小説、どう?」


最近御伽くんから頻繁に発せられる様になった言葉。こうも尋ねられると、咄嗟とはいえ嘘をついた自分に妙な罪悪感。


「もうちょっと、だよ」
「お!大詰めなんだ。そういえば、どんな話?」
「え…っと……ひみつ!」
「えー!つまんないなぁ」


これは神があたしに与えたタイミングなのかもしれない。…腹を括ることにしよう。


「今日、の放課後には、できる…かも!だから…放課後、教室にいてよ!」


OK、と言って御伽くんは手をひらひらさせ、次の授業に合わせ、教室を移動して行った。それをあたしは、風邪でもひいたかの様にぼうっとしながら見送った。


そして放課後、
沢山たくさん書いたけれど、上手く書けないし、収まり切らなかった。何回も何回も書き直して、結局、原稿用紙10枚は使っただろう。……伝えたいことはたったの2文字なのに!


「徹子(名前)っちゃーん!待ってたよ」
「おと…ぎ君…これ!」
「…徹子(名前)ちゃん、これって…手紙…?」
「小説、書いてるって…嘘なの…本当は」


原稿用紙10枚の、あたしとあなたの物語。


(伝われ、伝われ…)



瞑っていた目を少し開けると、夕日と共に赤く染まったあなたがいた。


 

お題提供風雅


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