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zzz
哀愁に溺れようか
 


君に溺れてしまった。

溺れてしまった僕は、君の海にズブズブ、ズブズブ、沈んで行く。




「御伽君、まだ帰らないの?」
「ん?…あ、ぁ」




殆ど無人だった放課後の教室は、突如とした君の登場により水面にカラーインクが落とされたかの様に華やかに色付けられた。




僕が君を愛していることを、君は知らない。好きで好きで、たまらない。もはや『好き』や『愛』なんて言葉では足りない。狂っているんだ。君を欲して、狂っている。




しかし、嗚呼、
僕らはまだ、何も知らない。




僕の知らないきみはどんな風に、どんな風に物を食べるのだろう。どんな風に寝るのだろう。どんな風に息を吸い、どんな風に息を吐き、どんな風に笑い、どんな風に遊び、どんな風に愛し、どんな風に喜び、悲しみ、憎み、怒り、どんな風に、どんな風に、どんな風に生きているのだろう!


知りたい、知りたい。僕の知らない君を、いや、僕以外の誰も知り得ない全てを。
教えて欲しい。


それは例えば、
どんな風に愛せばどんな声で鳴くのか、どんな風に殺せばどんな悲鳴をあげるのか、どんな風に食べればどんな味がするのか。
そう、いっそのこと食べてしまって、本当に『僕の物』にしてしまえば良いのか。
肉を裂いた、その刹那に響き渡る断末魔の音色。体内から溢れ出る液体の温かさ、そして色。僕しか知らない、僕だけの君。


そんな妄想を張り巡らして物悲しさを感じる自分に快楽さえ覚えている。否、酔っている。
ああ君の存在は、僕の想像にだけ存在すればいいのに。
触れられもしないなら、二次元の存在とも何等変わりは無いのだから。




「忘れ物、ってとこかな」
「そっか」





忘れた物は、君に接する方法だけ。

これだけの想像をしておいて、何も出来ない僕は、なんて臆病な存在なのだろうか。想像するだけは、誰でも出来る。





(さて、)





(哀愁に溺れようか、)






どれだけ君を想おうと、今日もいつもと何一つ変わること無い。



日が、暮れる。







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狂 鳴さまへ

 



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