L・Love song(本編)
<282話>残酷な夢 [荒野瑠伊編]
-荒野家-
[瑠伊視点]
ふぅ…。
久々に人と話したな。
ここのところ、荒野家の依頼ばかりこなしていたから、心を許して話をしたのは本当に久しぶりだ。
ふと、部屋の角へ視線をやると一つの影があった。
瑠伊「………聖」
そこには9年前に死んだはずの聖の姿があった。
聖「何を惚けている?もっとシャキッとしろ」
その姿は僕と同い年くらいに成長したその姿。
驚かずにはいられなかった。
瑠伊「な、なんで……。死んだはずじゃ…」
聖「私は死んでなどいない。こうしてここにいるだろう」
この感じ…。
間違いなく聖だ。
ぶっきらぼうで女の子らしさなんかないのに、とても頼れる僕の大好きな人……。
瑠伊「う、嘘だ。……そうだ、僕は夢を見てるんだ」
すると聖は呆れたように溜め息をつく。
聖「まだそんなことを言うのかお前は…。なら説明してやろう」
聖は冷静になれない僕にわかりやすく説明してくれた。
僕の身代わりとなり致命傷をおった聖。
しかし荒野家の珍しい魔法を殺してしまうのは惜しいと、スカリエッティ側に捕らえられたそうだ。
その後、時期を窺い逃亡した聖。
そこですぐに戻って来れなかったのには訳があった。
その理由は2つ。
1つはスカリエッティ一味に追われていたために、隠れて逃げ回るしかなかったこと。
もう1つは……
聖「身体に大きな傷が残ってな…。それで治すのに時間がかかった」
瑠伊「そんなの気にしないで帰ってくればよかったのに……」
聖の説明にはとても繋がりがあったので、少しずつだが、本物ではないかと思い始めた。
そしてそれを確信に変えるために、僕は聖に手を伸ばした。
聖「身体に傷が残ったのをお前に見られたくなかったんだよ……」
聖は僕の伸ばした手を優しく抱き留めてくれた。
確かに感じる聖の鼓動、温もり。
その瞬間、僕は気恥ずかしくなり、つい手を引っ込めてしまった。
瑠伊「お、お腹空いてない?ちょっと早いけど昼ご飯作ってくるよ」
僕の心の中にはその瞬間、聖の存在を疑うことなく、ただ恥ずかしさが存在していた。
……………。
そして昼ご飯を作って再び部屋へと向かう。
扉を開ける前に深呼吸し、緊張を振り払うと扉を開け放つ。
瑠伊「え………?」
僕の手にしたお盆に乗った昼ご飯が床へと滑り落ちる。
そこに先程までいた聖の姿はなかった。
瑠伊「ひ、聖!!」
僕はすぐさまその場を離れて家中を駆け回る。
彼女は戻ってきた。
戻ってきたはずなんだ!!
瑠伊「聖……、聖いぃっ!!」
でも家の中のどこを探しても彼女の姿はなかった。
そこで僕は気がついた。
瑠伊「はは……、ハハハハ……。大丈夫かよ、僕は…」
僕は夢を見ていたんだ。
さっきまでいた彼女は幻。
しかもただの幻では無くて温もりを感じた。
そんなの、幻と思うなんて不可能だ。
なんて残酷なんだ…。
瑠伊「はぁ……。下らない…」
僕は何を求めているんだ…。
今更あんな幻を見て……。
こんなに残酷な夢なら、僕は見たくなかった……。
………………。
=続く=
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