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いにしえからのこもりうた
5、嗚咽のわけ


最上階まで辿りついたエメラたち。
エレベータが到着した音に反応したのか、ドアの前にいた黒服の男性と目が合ったエメラ。
彼女は目があった男性に見覚えがあるらしく、笑顔で彼に駆け寄った。



「磯野さん!」


「エメラ様…、なぜここが…。」


「遊戯が教えてくれたの。」



私が頼んだので、彼には非はないわ。とエメラは磯野に言った。
思わぬ人物の来訪に磯野は驚いたが、遊戯も一緒だったので状況を把握し納得した。

磯野は貴女様でしたら、喜んでお通しいたします。と彼は扉を開けてくれた。
その彼の行為にエメラは頭を下げて部屋に入って行った。
遊戯は廊下に残り、彼女が部屋に入って行くのをカオスと共に見送った。




「…、アンタは俺を恨んでいないのか?」


「恨む必要がございません。」



貴方は瀬人様を止めてくださった。私たちでは瀬人様をお助けすることが出来なかったのですから…と磯野はサングラス越しに目を伏せた。
そんな彼の言葉に遊戯は、ありがとうな。と呟いた。



一方、二人っきりにしてくれた遊戯らに感謝をしつつ、ベッドに横たわる海馬を見るエメラ。
目が開き、何も言わない彼に苦笑したエメラ。

勿論、それは彼の姿にではなく、彼がこうなるまで気が付かなかった自分に、だ。

自分の不甲斐なさ、無力に彼女は瞼を閉じた。
このまま、目を開いていたら…、涙が出てきそうになるから。
しかし、時は既に遅く、彼女の頬を大粒の涙が伝った。

彼の動かない腕に縋って声を殺して、泣き始めた。
ごめんなさい、を何度も繰り返しながら…。

静かな部屋には彼女の嗚咽がうるさいくらいに響く。
それは、微かに部屋の外に漏れていく。



『遊戯様の所為ではございません。』


「カオス…?」


「?」



エメラの微かな嗚咽に遊戯は唇を噛んだ。
そんな彼の様子にカオスは、彼に言葉をかけた。エメラと同じように遊戯の所為ではない。と。
彼の声は遊戯にしか聞こえていないので、彼がカオスの名を呼んだ際に磯野は首を傾げた。

それと同時期にエレベーターの扉が開き、そうだな、お前は悪くねぇよ。という声が聞こえたので三人はそちらを見た。
すると、そこにはフレイの姿があった。



「久しぶりだな、磯野。」


「お久しぶりでございます。」



互いに面識があるようで、二人は挨拶をしあいフレイは差し入れだ。と缶のコーヒーを磯野に渡し、遊戯にはお茶を渡した。
そして、エメラの嗚咽を聞いたのちに、口を開いた。

彼女が泣いているのは海馬の変わり果てた姿にショックを受けたわけではなく、自分が海馬はこうなるまで気が付かなかったことに対して悔しくて泣いているのだ。と言った。
アイツは誰も責めちゃいねぇよ。とフレイは遊戯に言った。だから、お前が責任を感じる必要はない。胸を張ってな。と言い放つ。



「それが、今、お前が出来ることだろうぜ。」



海馬にしたことに罪悪感を感じることも必要かもしれないが、今遊戯がするのは懺悔でも罪悪感を感じることでも、落ち込みことでもない。
過ぎた過去はどうあっても巻き戻すことはできないのだから、これからのことを考えなくてはいけない。
これから、遊戯には”あの海馬を破った武藤遊戯”と多くの決闘者から言われ、勝負を挑まれることになるであろう。
海馬が帰ってくるまで、遊戯はその勝利を護り続けなくてはならない。
でなくては、海馬ががっかりする。もう一度俺と勝負がしたいなら、必ず帰って来て俺から勝利を奪い返せ。という心持ちでいろ。とフレイは言ったのだった。

そんなみんなの言葉に、再び沈みかけていた遊戯の気持ちが明るくなった。
負けるにも、勝つにも、相当の覚悟が必要である。
相手の思いも全てを受け止め、背負っていかなくてはいけないのだ。

それの今回、遊戯は思い知ったのだった。



****


エメラは一頻り泣いたのちに海馬にまた来る、と伝えて部屋を出た。
部屋を出たところでは、遊戯とフレイがカードの構築について会話をしていた。

海馬の青眼に勝ったエクゾディアのカード。
決闘者からすれば、レアカードで見るたびに驚くであろうが、生憎フレイはカードのデザイナーとしても働いているので、青眼だろうが真紅眼だろうがエクゾディアだろうが驚くことがなく遊戯を会話している。
カウンターで聖なるバリア-ミラーフォース-とか入れるとモンスターを守れるぜ。やエクゾディアを主力にするなら、手札からカードを選べる効果のやつとかあると召喚しやすいな。というフレイのアドバイスを聞いていた。
先程のフレイの胸を張れ。という言葉に遊戯はさらにデッキの強化をするためにフレイからのアドバイスを聞いているのだ。
彼はデザイナーでペガサスの補佐をしている。その辺をうろついている決闘者よりもカードの知識があるので、人選は間違ってはいない。

お待たせいたしました。というエメラの声に二人は反応して顔を上げた。
泣きはらした後なので、目の下が赤くなっているがエメラは二コリと笑顔を見せた。

もう、大丈夫。と言っている様でそこにいた者全員が安堵した。



「また来ますね。」


「はい。自宅の方に瀬人様が移りましたら、またご連絡を差し上げます。」


「お願いいたします。」



ぺこり。とエメラは磯野に頭を下げた後に、遊戯らとエレベーターに乗ったのちに病院を後にした。





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