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いにしえからのこもりうた
4、理由


童実野総合病院。
この大きな病院の個室に海馬はいた。
遊戯曰く、関係者以外の面会は遮断しており、ドアの前にはサングラスに黒服の男性が一人、立っているそうだ。

フレイは車を病院の玄関口に回した後にエメラらを下車させて、先に海馬の部屋に行くように促した。

エメラと遊戯、そして半透明のカオスらは海馬が入院している個室に向かった。
向かう間も、エメラの様子を気遣う遊戯。彼女の震える手に優しく自分の手を重ねた。
エメラは遊戯がその様なことをするとは思わなった様で、目を丸くして遊戯を見た。

すると、彼は困ったような表情を浮かべている。彼女の様子に、遊戯は海馬にしたことに罪悪感を感じているようだ。
そんな彼の心情を悟ったのか感じとったのか、エメラは柔らかい笑みを見せた。
その笑みには”遊戯は何も悪くない。”と言っているようで、遊戯は救われた様な気がした。


二人はエレベータに乗り、最上階のボタンを押した。
ゆっくりドアが閉まり、エレベータは上の階へと向かう。

そんな中で、海馬の心を砕くことになったいきさつを簡単ではあるが遊戯はエメラに説明をした。

海馬が遊戯の祖父・双六の”青眼の白竜”を盗んだこと。
そしてその海馬をM&Wで自分が破ったこと。
彼の弟のモクバが自分らにカプセルモンスターで勝負を挑まれ、それに勝利したこと。
その後に、DEATH-Tというゲームで海馬兄弟が自分らに復讐しようとし、双六のカードを破ったこと。
そして…、海馬との決闘で再び自分が勝利を収め、彼の中に巣食う悪の心を砕くために闇の力によって、罰ゲーム・マインドクラッシュを行ったことを話した。

その彼の話をエメラとカオスは無言で聞いていた。そして、遊戯の話が終わったのちにエメラは一息つき、俯く遊戯にありがとう。と呟いた。
俯いていた遊戯はまさか、彼女からお礼の言葉が出てくるとは思わなかったようで、驚いてバッと顔をあげた。



「…、誰かが狂っていく瀬人を止めてあげなくてはいけなかった…。本来なら、私が気がつかなくてはいけなかったのに…。」



エメラは静かに呟いた。
それと同時に、エレベータが最上階へと繋がる廊下の階へと到着して。
カオスが開のボタンを押しているので、二人は礼を言いつつ廊下へと出る。
この上の階へは、また違うエレベータを使わなくてはいけません、とカオスが渡り廊下の向こうを見つつ二人に話した。

彼女は歌手とモデルのデビューの前から、海馬兄弟とは交流があったのだという。
まだ、海馬の養父・先代の海馬コーポレーションの社長・海馬剛三郎が生きていた時に養子という形でパーティーに来ていた瀬人・モクバ兄弟と仲良くなったのだという。
その後は、歌手デビューをし、デュエリストとして名を馳せつつある時にペガサスに連れられての企業パーティで再会した時には立派になっていて驚いたとか。
文通などを通して彼らとは交流を深め、そしてデュエルモンスターズの大会でも瀬人と決勝で何度もぶつかり、互いに最高の好敵手として高め合っていた。

しかし、海馬剛三郎が亡くなり、負け=死というトラウマが海馬自身に植えつけられてからというもの、彼の勝利への執着が激しく強いものへと変わっていった。
その彼の変化は、エメラも決闘を通じてひしひしと感じていた。

そして、海馬が遊戯に負けたのち、彼の心はさらに荒んで行った。
なんとなく、彼の返信がないことから異変に気がついたエメラだった。
試しにどうかしたのか。というメールをモクバに送っても「忙しいだけだから、大丈夫!心配かけてごめんね。」という彼の返信に安心してしまったのだ。

気が付けなかったことが彼女はすごく悔しかった。
いつも、近くで彼を感じ、決闘で彼の魂に触れ、手紙のやり取りまでしていたのにも関わらず、狂っていく彼の悲鳴を感じとることが出来なかった自分の不甲斐なさが憎くて仕方がないのだ。

遊戯は狂っていく海馬を救ってくれたのだ。
どんな結果になったとはいえ彼を助けてくれた遊戯を、どうして責めれようか。



「遊戯、貴方は何も悪くはないわ。」



誰も、悪くないの。とエメラは遊戯をまっすぐ見つめる。
そんな彼女の眼は酷く澄んでいた。
遊戯はその彼女の眼に吸い込まれそうな感覚に襲われた。




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