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いにしえからのこもりうた
3、邂逅


遊戯が自分を追っていることなど知らないでエメラは廊下を足跡を立てずに走っていた。



はやく・・・
はやく・・・!




3、邂逅





「エメラ!!」


「!?・・・・・・遊戯・・・?」



何かにかられるように走っていたエメラを遊戯が呼び止めた。
まさか、遊戯が追ってきているとは思わなかった様で驚いた表情である。

しかし、彼女は駆け寄ってくる彼の表情を見て首を傾げた。
そして、一言、誰?と呟いた。



「誰、と言われてもな・・・、俺は千年パズルの中に存在している魂・・・と言うべきかな。」


「千年パズル。・・・千年アイテムの中でも結束の力を司さどる・・・。」


「!」



エメラに遊戯は目を丸くした。
なぜ、その様なことをこの娘が知っているのか?という表情である。
そんな遊戯に彼女は、シャーディーという青年にあったことがあることを話した。
”シャーディー”という名前が出てきた瞬間、遊戯は目を丸くしたが、エメラはそのシャーディーが千年アイテムについて教えてくれたのだという。
彼は千年アイテムの番人だ。とエメラは遊戯に話したのだ。



無言の二人は廊下を歩いていた。
しかし、その無言が居心地の悪いものではなく、両者が互いに何処か懐かしい感覚を味わっていた。
前に、生まれる前に出会っていたような感覚。
これは、エメラが海馬と初めて出会ったときに感じたものと一緒であった。

”恒久の思い。”

この言葉が相応しいであろう、彼女の感覚。

そして、その感覚が彼女に自然と言葉を紡がせるのだ。




「…、アマト。」


「?」


「エジプトにおいて、真理を司る天使のようなもの…。」



太陽神ラーの神勅を伝える天使。と彼女は呟きつつ懐から羽根を模した装飾がぶら下がった金のイヤリングを取り出した。
それを見て、遊戯は首を傾げる。
そんな彼に笑みを見せつつ、彼女は言葉を続ける。

”真理”とは、一般論ではいつどんな時でも変わることのない正しい物事の筋道で真実の道理のこと。つまり、アマトとは真実を司る神のようなもの。
そして、このイヤリングはアマトの羽根を意味している。

ヒトが死に、死後の世界に行くときに冥界の神・オシリスの御前でアヌビスによって、死者の心臓は天秤に架けられる。
そして、天秤に架けられた心臓がアマトの羽根よりも重いと判断されたらば、魔物のアメミトによって魂が食べられ冥界に行くことが出来ないのだという。
それは、まるで日本の地獄の閻魔大王の裁判のようだ。

つまり、アマトの羽根とはヒトの魂を天秤に架けた時の指標。



「このイヤリングは代々、真実を司るものに受け継がれるもの。」


「つまり、お前は俺に真実を語ってくれる、ということか?」


「まぁ、広い意味では、ね。しかし、真実は絶対的なもの。」



例え、どんなに辛いことでも目を背けることはできない。と彼女は苦笑する。
自分の目の前にシャーディーが現れたのも、アマトの羽根のイヤリングに千年錠が反応したからだそうだ。とエメラは言った。
しかし、彼女もイヤリングの意味を知ったのが、つい最近のことですべてを知っているわけでもなく、それらが分かれば包み隠さず話す、と彼に約束したのだった。

そんなことを話しているうちに、下駄箱についてしまった。二人は上靴から外靴に履き替えたのちに、校門まで歩いた。



****



「フレイ!お仕事中にごめんなさい…。」


「気にすんな。」



校門から少々離れたところにエメラに呼び出されたフレイが車に凭れて待っていた。
赤色のスポーツカーとフレイの黒ずくめは互いの色が映え合う相互作用を起こしている。

駆け寄って来たエメラは申し訳なさそうな表情をするが、フレイは今日は自宅で仕事だったから大丈夫だ。と彼女を頭を優しく撫でた。

そのあとに、彼女に近寄ってきた遊戯を見た瞬間にフレイは目を丸くし、石版の…と何かを言おうとしたが躊躇した。
彼の呟きをしっかりではないが、聞こえたエメラは彼を見上げるが、フレイはなんでもない、と誤魔化したのであった。



*****


二人はフレイの車の後部座席に乗り込み、フレイはそれを確認したのちに車を発進させた。
エメラは車内だけど、と遊戯にフレイの紹介をした。

フレイ・ア―ディア・エルム。
ドイツ人の青年で25歳。
M&Wを作るインダストリアル・イリュージョン社で働く社員の中でも一番若い社員だ。
しかし、カードを作るペガサスの補佐をする、将来有望な人物である。



「まぁ、エメラのお目付け役でもあるんだがな。」


「面倒を見て貰っているの。」



私、実家が海外だから…、と苦笑いを浮かべるエメラ。
そんな彼女に、遊戯もつられて苦笑いを浮かべたのであった。

フレイは遊戯にカードの心について話し始めた。
ペガサスは一枚一枚のカードに心を吹き込んだ、と説明した。
カードをよりどこにして魂が生き、そして自分を大切にしてくれるマスターの思いに応える。

非ィ科学的っちゃあ、そうだけどな。こんなのと一緒にいると、それも否定が出来ないんだな、これが。とフレイは言いつつ助手席を見た。

それにつられて遊戯も助手席を見ると、先程まで誰も居なかった席に人が座っているので目を丸くした。



「カオス…ソルジャー…?」


「正確には”開闢の使者”だけどな。」



こいつはカードの魂がエメラの心に反応して具象化した者だ。まぁ、特定の人間にしか見ることは出来ないのだがな。とカオスを見る。
フレイの言葉を聞いている遊戯に、カオスは助手席から振り返り、頭を下げた。
彼の顔を見るとまさしく、カオス・ソルジャーであり、エメラの護る騎士の様に遊戯は感じた。

いや、本当に彼女のことを護っているのであろう。
彼自身の目はエメラを敬愛していると語っているのだから。

カオスは、貴方様も私たちカードを大切にしてくださっているのですね。とカオスは穏やかな声で言った。
そんな彼の言葉に、遊戯は笑みを浮かべた。

そして、俺の相棒たちであってしもべではない。と言い切ったのだ。
その彼の言葉に今度はカオスが微笑む番であった。





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